花の簡易(安易)デジカメ紫外線写真: 撮影方法についてのメモ
デジタルカメラの選択

手もとにあるデジカメは下の4台。

機種 メーカー 発売 撮像素子 F値 露光時間 フィルターねじ 購入価格
QV-2000UX CASIO 1999/09 200万画素 1/2型 原色CCD 2.0〜11.0 1〜1/800s × ca.30000 (2000/02)
QV-3000EX 2000/02 300万画素 1/1.8型 原色CCD 2.0〜8.0 2〜1/1000s × ca.40000 (2001/07)
CaplioGX RICOH 2004/05 500万画素 1/1.8型 原色CCD 2.5〜14.0 30〜1/2000s ca.40000 (2004/08)
CaplioGX8 2005/05 800万画素 1/1.8型 原色CCD 2.5〜14.0 30〜1/2000s ca.50000 (2005/05)


紫外線感度

ある程度の紫外線感度は最低条件だが、GX8を除く3台は(条件に差はあるが)写真を撮ることはできた。Which camera?はデジタル一眼を中心に数機種を比較しているが、メーカーや機種により差がある。また、必ずしも新しい機種が優れているとは限らない。上の4機種でも、先行機種(2000UX・GX)よりも後継機種(3000EX・GX8)の方が感度が落ちている。

近紫外線を発するブラックライトと青色LEDのペンライトを並べて、GXとGX8、紫外線透過・可視光遮断フィルター(UL-360)の有無の比較をしたのが下の写真。CaplioGXは発光管が紫色に見えているのに対してGX8は暗く見える。フィルター装着時にGXはブラックライトの近紫外線を青紫の光として捉えるが、GX8では真っ暗な画像しか得られない。

肉眼ではブラックライトは青色LEDと比べてずっと暗い。フィルターなしのとき、GX8の画像は肉眼で見たのに近く、GXは紫外線感度のためにブラックライトと青色LEDが同じくらいの明るさに写る。

ブラックライト・青色LED
Caplio GX

ブラックライト・青色LED
Caplio GX+UL-360

ブラックライト・青色LED
Caplio GX8

ブラックライト・青色LED
Caplio GX8+UL-360 (右半分はレベルを上げてある)

GX→GX8では赤外線の感度も劇的に低下している。GX8は、GXからレンズや筐体は変更なしでCCDと画像処理系が新しくなり、高画素数化とともにAE(露出制御)・WB(ホワイトバランス)の改善が図られたという。ブラックライトの例のように、肉眼で見えない紫外線・赤外線の感度は、露出や色のコントロールを乱すことがあり得る。これらのことを考え合わせると、紫外線・赤外線の感度低下が改善ポイントの一つであった可能性がある。

参考: 光る花 (小泉伸夫氏)

撮影機能

感度があっても、撮像素子に達する紫外線は可視光線とは比べものにならないほど弱い。また、青が非常に強く、赤はずっと弱く、緑は眼では分からないくらいしか含まれていない。カメラの画像処理にもよるが、原色フィルター型の場合、画素の半数以下しか実際には利用していないに等しい。

紫外線写真RGB分解
ナノハナ
画像ファイルをR(赤)・G(緑)・B(青)に分解したもの(上)とヒストグラム(左)。分かりにくいが、Bは右端に大きなピークがある。

原色CCD原色CCD一般的な画素の配列("Bayer pattern": 左―原色フィルター型、右―補色フィルター型)

信号の弱さは以下の方法で補うことになる。

  1. 絞りの開放
  2. 長時間の露光
  3. 感度(ISO相当値)を上げる
  4. 画像処理ソフトによる調整

1には被写界深度が浅くなる、2〜4には画像のノイズが増えるという弊害がある。小さい花を近づいて撮影する場合には、被写界深度が欲しい場合が多い。2によるノイズはデジカメの持つ熱ノイズ低減機能で軽くできるが、3・4によるノイズは避けられない。3・4に関しては、撮像素子が大きいなど、暗所に強いデジカメほど有利だ。一般的な暗所撮影では、ハニカム型(富士フイルム)や補色フィルター型がノイズも含めて有利といわれている。また、FoveonX3型の撮像素子(シグマSD10など)では「画素のうち半数しか働かない」ということにはならない。しかし、いずれも実際に試していないので未知数としか言いようがない。

三脚を使っての長時間露光が最も無難だが、カメラによって限界がある。また、シャッター振れの危険が大きくなる。フィルターねじがないカメラでは、フィルターを手で押し当てて撮ることになるので、しっかりとした三脚と多少の慣れが要る。

自動露出は、緑色光に大きく依存しているため、ほとんど役に立たない。確実な撮影にはISO感度・絞り・露光時間のマニュアル設定は必須で、試行錯誤で設定を詰めて、画像処理で救済する。ISO感度を上げるのは、画像処理への耐性を下げる点でも不利で、試した範囲では、高感度にするより低感度で撮影して画像処理ソフトで補正する方が結果がよかった。しかし、液晶モニターが真っ暗ではピント合わせすらままならないので、ISO感度を上げる以外に方法がない場合もある。

コントラストの強い被写体でデジカメ側に十分な紫外線感度があれば、ほとんどのコンパクトデジカメが採用している「CCDコントラスト検出方式」のAFが有効にはたらく。ただし、デジカメの中には、AF速度を稼ぐためにコントラスト検出方式と外部センサーによる測距を併用しているため、うまく行かないことがある(CaplioGXの場合、マクロモードにすると外部センサーが無効になってCCDコントラスト検出方式単独になる)。花の場合は(紫外線撮影に限らず)MFが必要な場合が多い。可視光でピントを合わせても、色収差のために紫外線では外れてしまうので、フィルター装着後に、液晶モニターを頼りに合わせる。

  1. 紫外線感度が高い
  2. フィルター装着可能
  3. MF(マニュアルフォーカス)が可能で使い勝手がよい
  4. 絞りが設定可能
  5. 長時間の露光が設定でき、ノイズ軽減機能がはたらく
  6. ISO感度が設定でき、高感度ノイズが少ない

上のような条件を満たすデジカメが好適で、一般的には、マニュアル操作が充実していて、CCDサイズに余裕がありISO感度を上げても画質の低下が少ない機種が有利と考えられる。

これらの条件を満たすのは一眼レフ型のデジカメだが、ライブビューがない機種では液晶モニターによるピント合わせはできないし、ふつうのレンズでは近紫外線域の色収差が補正されていないため、ファインダーで合わせると後ピンになる()。栃木ニコン製 UV-105mm F4.5やJENOPTIK Optical Systems製CoastalOpt® 105mm UV-VIS SLR LensCoastalOpt® UV-VIS-IR 60mm Apo Macro UV-VIS-IR Lensなどの紫外線撮影用レンズを一眼レフに装着すれば、紫外線域まで色収差が少なく、透過率も良好で、通常の写真と同じ快適さで撮影できる(はずだ)。ネット上での記述によると、購入価格は60万ていど(栃木ニコン製)・$4495(JENOPTIK製)らしく、そうそう手が出ない。

2006年以降、ライブビューを備え、液晶モニターによるピント合わせが可能な機種が増えている。しかし、中級〜高級機が主体で、一般的に、廉価機と比べて紫外線感度が落ちるという傾向があり、悩ましいところだ。

撮影条件

太陽が雲に隠れていないことと、花が風で揺れないことが最も重要だ。大気中の水蒸気にも敏感で、真夏よりも春や秋の方が撮りやすい。雲に隠れていなければ、ガラス越しの日光でもほとんど影響はなく、ガラス越しに屋内で撮影する方が、風の影響が少なくなり、むしろ有利なことが多い。窓ガラスなどに使われるソーダ石灰ガラスは300nmより波長の短い紫外線を吸収してしまう(そのため、紫外線撮影専用のレンズは蛍石ガラスなどの特殊なガラスを使っている)が、デジカメによる簡易紫外線撮影では、もっと可視光線に近い部分だけを使っているようだ。

ガラス窓と紫外線写真
廊下からガラス窓越しに屋外を写したもの。ガラス窓のついた引き戸は半開きになっており、左側はじかに外が見えている。直射日光とガラス越しの日光とでは大した違いはなく、ガラスの汚れで説明できる程度でしかない。

ガラス越しにせよ、屋外にせよ、花に日光が正面近くから当たり、かつカメラの陰にならないように、花とカメラの角度を適切に調節する。

CASIO QV-2000UX/3000EXによる撮影
簡易UV

ストロボOFF・三脚使用・絞り開放・ISO感度を1・2段階上げ、最長時間(1または2秒)露光する。それでも得られた写真は大変暗く、強い画像処理が必要だった。

MF(マニュアルフォーカス)モードにし、デジカメ顕微鏡撮影の小技(奥修氏)に従ってデジタルズームをピント合わせの補助に使った。光量が十分な場合はフィルターを被せて紫外線のみでピントを合わせた。暗すぎて紫外線ではピント合わせできない場合は、可視光線で合わせてから、やや前ピン側にフォーカスをずらして数枚撮影し、良好なものを選んだ。

簡易UV

紫外線透過フィルターは、紫外線ランプ用のフィルター(補修品として約7000円)を流用した。肉眼では真っ黒に見えるが、厳密な透過特性は不明。

簡易UV

フィルターを両手でレンズに押しあて、密着させて撮影する(セルフタイマー使用)。QV-2000UX・QV-3000EXはフィルターをつけるねじがないので仕方がない。注意しても失敗は付き物で、多数の写真を撮って良いものを選んだ。

RICOH CaplioGXによる撮影(1)

紫外線撮影
オーエムジー株式会社からサンプルとしていただいた2.2cm角のフィルターUL-360(透過特性 | カタログ)を黒画用紙でマウントして、ステップアップリング(37mm→52mm)とステップダウンリング(52mm→37mm)ではさみ、コンバージョンレンズアダプタに装着。広角ではケラレるので、望遠端を使う。小さい花のときには、クローズアップレンズ(ケンコー No.3かNo.7)をフィルターとアダプタの間にはさむ。

ストロボOFF・三脚使用。MF(マニュアルフォーカス)モードで、液晶モニターでピントを合わせる(CaplioGXは液晶モニターの画像を一時的に拡大(×2)してMFをしやすくする機能がある)。QV-2000UX/3000EXよりも紫外線感度が高いようで、ずっと明るい写真が得られる。屋内では絞り8.0か14.0・露光時間4秒または8秒・ISO64相当で撮影。風で失敗することが多い屋外では絞りか感度を妥協して露光時間を1/2〜2秒にすることが多い。

回折ボケ・小絞りボケ
点光源の焦点面上の回折像は半径=1.22×波長×Fのエアリーディスクを持つ。
ディスクが複数の画素に跨ることで画像がぼやける(回折ボケ、小絞りボケ)。
GXの500万画素1/1.8型CCD[総画素ピッチ2.7μm: CCD Table (Cosho氏)の推定による]では、緑色光(0.55μm)ではF4、近紫外線(0.4μm)ではF5.5、近赤外線(0.75μm)ではF2.95でディスクの半径が画素ピッチより大きくなるから、回折の影響が出始める。
ディスクの半径が画素ピッチの2倍超となるF値を「小絞り限界値」と言い、GXでは緑色光(0.55μm)ではF8、近紫外線(0.4μm)ではF11、近赤外線(0.75μm)ではF5.9となる。

回折ボケを考えるとF14では画質が低下するはずだが、撮影した画像を見ると、それほど劣らない。感光しているのがB画素に偏っている、レンズやフィルターの制約によってもともとの解像度が低下している、などの理由が考えられるが、本当のところは分からない。

赤外線の影響

CaplioGXは赤外線の感度も相当に高いので、赤外透過フィルター(FUJI IR-76)を使って影響を確認した。下の組写真(アブラナの花と封筒の宛名)は、その結果で、左上―フィルターなし、右上―紫外線透過フィルター、左下―赤外透過フィルター、右下―両フィルターの併用によるもの。すべて窓ガラス越しの日光を使い、「フィルターなし」以外の3つはF14相当・露光8秒で撮影した。

テスト撮影テスト撮影

UL-360は750nmをピーク(25%)とした赤外透過域を持つ。IR-76は750nmの約50%を透過する。だから、750nmの赤外線は12.5%が透過すると推測されるが、画像として捉えられる信号は弱く、画像に大きな影響はないと思われた。


RICOH CaplioGXによる撮影(2)

上の部分を書いた後、条件によっては、近赤外線の影響が無視できない場合があることがあることが分かった(風景、キク科の頭花など)。

下の2枚のフィルター(いずれも、50mm四方)を組み合わせた。


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