ほぼ自家送粉専門の植物もあれば、ほぼ他家送粉専門の植物もある。また、自家送粉と他家送粉をさまざまなかたちで併用する植物もある。結果として、自家交配(自殖)と他家交配(他殖)の割合は、植物種によって、集団によってさまざまだ。
集団全体で行われた交配のうち、他家交配が占める割合を、その集団の「他殖率」[outcrossing rate]、自家交配が占める割合を「自殖率」[selfing rate]という。できた種子のうち、他家交配でできた種子が占める割合が他殖率、自家交配でできた種子が占める割合が自殖率に一致する。
自家送粉/他家送粉や自殖率/他殖率がさまざまなのは、自家送粉と自殖・他家送粉と他殖の双方に長所と短所があり、長所と短所が外部条件の影響を受けるためだ。
個体が行った交配のうち他家交配が占める割合を、その個体の「他殖率」[outcrossing rate]、自家交配が占める割合を「自殖率」[selfing rate]という。
父親が | |||
---|---|---|---|
自個体 | 他個体 | ||
母親が | 自個体 | A | B |
他個体 | C |
個体が母親(種子親)として行った交配の数は(A+B)、そのうち自家交配はA、父親(花粉親)として行った交配の数は(A+C)で、そのうち自家交配はAだから、自殖率=2A/(2A+B+C)、他殖率=(B+C)/(2A+B+C)だ。
例えば、両性個体が17個の種子をつけ、そのうち7個が自家送粉・10個が他個体の花粉による種子で、一方、他個体に運ばれた花粉によって16個の種子ができたとすると、自殖率は35%、他殖率は65%となる。
個体の自殖率/他殖率では母親としての交配・父親としての交配の両方を計算する必要がある。他の集団と隔離された集団全体としては、ΣB=ΣCだから、自殖率=ΣA/(ΣA+ΣB)、他殖率=ΣB/(ΣA+ΣB)となる。他の集団と隔離されているという仮定つきではあるが、母親としての交配のみを計算するだけで足りる。
ほぼ自動同花送粉のみを行う花は、次のような特徴を持っている。
近縁な種で、自動同花送粉を主体に行うものと、他家送粉を主に行うものの両方があるとき、花粉:胚珠比・柱頭・花冠はいずれも前者の方が小さい傾向がある。
同じ属のイヨフウロ・ゲンノショウコ・アメリカフウロ(フウロソウ科)の花(拡大率を揃えて、相対的な大きさを保っている)。がく片・花弁・雄しべ・雌しべの数と配置は共通(がく片5・花弁5・雄しべ10・雌しべ1)で、胚珠も花1つあたり5個だが、サイズに大きな差がある。有性生殖に使える資源が同じだとして、自動同花送粉は他家送粉よりずっと多数の胚珠をつくることができ、しかもその胚珠のほとんどは受精に成功する。結果的にずっと多数の種子をつけることができる。
自動同花送粉だけなら、花を開く必要すらない。実際に、つぼみのうちに受粉を済ませる(つぼみ受粉)場合もある。
ナズナ(アブラナ科)の花。上と右は2月に撮影。冬のうちに咲く花は、ほとんど開かないうちに受粉して子房が大きくなり始める。春になると開いた花が多くなる。 |
|
4月に撮影 |
つぼみ受粉専用の花を閉鎖花[cleistgamous flower]といい、つぼみが開かないまま自動同花送粉を行い、開くことなしで果実が成長する。
Culley & Klooster (2007)によると、過去100年あまりの文献で、被子植物の50科693種の植物が閉鎖花をつけることが報告されている。
閉鎖花とふつうの花(開放花)との間にあまり形態の違いがない場合もある。しかし、多くの種では、閉鎖花は開放花とはっきりとした違いがある。しばしば見られるのは、以下のような特徴だ。
自動自家送粉する植物がある一方で、多くの植物が、自家送粉を避けるしくみや、自家送粉しても無効になる(自家交配に結びつかない)しくみを備えている。
自株の花粉が柱頭についても、次の3つのいずれかで止まってしまう。
このような性質を自家不和合性[self-incompatibility]という。自家不和合性の植物では、仮に自家送粉が起こっても自家受精、自家交配へとすすむことができない。逆に、自株の花粉によって受精して種子が成熟できることを自家和合性[self-compatibility]という。
自家不和合性は、生理的に自家交配をほぼ完全に妨げるので、自家不和合性があれば、他のしくみは要らないように見える。しかし、自家不和合性であっても自家送粉は以下の2点で有性生殖に費やした資源の浪費につながり、結果として他家送粉の効率を下げる。
植物が、自家不和合性以外のさまざまな自家送粉回避のしくみをもつのは、このことによって説明できる。自家不和合性と自家送粉回避機構とを兼ね備える種もごくふつうにある。
同じ株が一度にたくさんの花を咲かせる(一斉開花)と、同じ株の花の間の送粉(隣花送粉)が起こり、自家交配が起きやすくなる。逆に、同時に咲く花が少数であれば、自家交配が起こる可能性は低くなる。ただ、訪花者の誘引にとっては不利で、特に、個々の花が小さい種では、著しく不利になるので、一つの花が十分に目立つことが必要となる。
ヤブカンゾウ(ススキノキ科ゼンテイカ亜科)。中央の花(咲き終わって脱落している)が最初に咲き、その下から2つの側枝が分かれる。それぞれの側枝では、側枝の先端の花→側枝の側枝の先端の花→側枝の側枝の側枝の先端の花→…という順に咲き進む。個々の花の寿命は1日で、1日には1個か2個ずつの花が咲く。両性花であり、葯と柱頭が接触していて、「花粉を出す時期」と「柱頭が受け取り可能な時期」が一致していれば、自動同花送粉が起こる。接触していなくても、互いに接近していれば、わずかな風で、あるいはポリネーターの短い訪問によって、同花送粉が起こる可能性が高い。
逆に、葯と柱頭が離れているか、葯が花粉を出す時期(雄性期)と柱頭が受け取り可能な時期(雌性期)とがずれているときには、同花送粉が起こりにくくなる。前者を「雄機能と雌機能の空間的な分離[spatial decoupling]」、後者を「雄機能と雌機能の時間的な分離[temporal decoupling]」という。
また、上のそれぞれについて、集団を構成する個体が2つか3つのタイプに分かれ、雌雄性に関して互いに補い合う関係となる場合がある。2つに分かれる場合を二型性、3つに分かれる場合を三型性という。二型性や三型性は、自家送粉の抑制に加えて、型間の送粉(必然的に他家送粉となる)を促進する。
雌雄分離のパターン | +二型性 | +三型性 |
---|---|---|
雌雄異熟 | 異型雌雄異熟 | ― |
雌雄離熟 | 二型花柱性 | 三型花柱性 |
雌雄異花 | 雌雄異株など | ― |
雌雄に関する二型性・三型性(まとめて多型性という)は、他家交配の確率をさらに高くする。特に、雌雄異株では、有性生殖は完全に他家交配によって行われる。
一つの両性花、あるいは一つの雌雄同株の株の中で、葯から花粉が出てくる時期(雄性期[male stage])と柱頭が花粉をつけられる状態になっている時期(雌性期[female stage])が時間的にずれていることを雌雄異熟(異熟)[dichogamy]という。両性花で異熟の場合は、1つの花の中でずれが見られる。雌雄同株で異熟の場合は、1つの株の中で、雄花が咲く時期と雌花が咲く時期がずれる。
下の2つが最も典型的で、かつ、最もふつうに見られる。雄性先熟では、雄性期が終わるより早く雌性期が始まるため、雄性期と雌性期がが重なる時期(両性期)がある場合がある。また、逆に、雄性期が終わってから雌性期が始まるまで、どちらでもない時期(無性期)がある場合もある。「雌性先熟」にも、同じことが言える。
雄性先熟は真正双子葉植物(後述)の虫媒花に、雌性先熟は原始的被子植物(後述)や風媒花に多くの例が見られる。
ヤツデやホタルブクロは雄性先熟の両性花で、先に葯から花粉が出てきて、葯がしおれてから柱頭が伸びてきて雌性期になる。
タブノキやスズメノヤリは雌性先熟の両性花で、先に柱頭が出てきて雌性期になり、柱頭がしおれてから葯が花粉を出す。
期間 | 雄性先熟型 | 雌性先熟型 |
---|---|---|
前半 | 葯/雄花 | 柱頭/雌花 |
後半 | 柱頭/雌花 | 葯/雄花 |
ナンキンハゼ(トウダイグサ科)・ノグルミ(クルミ科)では、集団の個体の約半分が雌性先熟、残り半分が雄性先熟で、開花期の前半に雄花を咲かせていた株は後半になると雌花を咲かせ、前半に雌花を咲かせていた株は後半になると雄花を咲かせる。このような性質は異型異熟と呼ばれ、個体内や同型間では受粉の機会が少なく、異型間では受粉の機会が多くなり、結果として他家送粉が促進される。
ナンキンハゼ(トウダイグサ科)の雄性先熟個体。長い穂に密についた雄花が先に咲き始める。雄花が咲き終わり穂が落ちる頃、穂の基部の小さな穂が伸びて、数個の雌花が咲く。 |
ナンキンハゼ(トウダイグサ科)の雌性先熟個体。穂のつけねについた数個の雌花が咲き、雌花が咲き終わると穂についた多数の雄花が咲く。 |
1つの花の中で葯と柱頭が、あるいは1個体の中で雄花と雌花が空間的に分離することを雌雄離熟(離熟)[herkogamy]という。
ヘクソカズラ・カタバミのように、柱頭が突きだして、葯が奥にある例が多い。このことは、次のように説明される。訪花したポリネーターが葯→柱頭の順に接触すると、自花粉を自家の柱頭につけて自家送粉を起こす可能性が極めて高くなる。柱頭→葯の順だと、自家送粉が起こりにくく、また、ポリネーターに他個体の花粉がついている場合には、それを柱頭で受け取ることを期待できる。
ヘクソカズラ(アカネ科)。2本の花柱が筒状の花冠から突き出す。雌雄異花・風媒の植物で、雌花序が雄花序よりも高い位置にあることも、同じような説明ができる。
両性花かつ葯と柱頭が上下に離れているタイプの雌雄離熟で、集団が葯と柱頭の高さが相補的に違う複数の型からなることを異花柱性[heterostyly]という。二型花柱性[distyly]と三型花柱性[tristyly]の2つが知られている。
二型花柱性
位置 | 短花柱花 | 長花柱花 |
---|---|---|
上 | 葯 | 柱頭 |
下 | 柱頭 | 葯 |
二型花柱性では、花柱が長く花糸が短い花(長花柱花)をつける株と、花柱が短く花糸が長い花(短花柱花)をつける株とがある。長花柱花の柱頭の位置と短花柱花の葯の位置、そして短花柱花の柱頭の位置と長花柱花の葯の位置がそれぞれ対応している(表)。
このため、昆虫が両者を区別しないで渡り歩くと、長花柱花の柱頭に短花柱花の花粉、そして短花柱花の柱頭に長花柱花の花粉がつくことになる。
三型花柱性
位置 | 短花柱花 | 中花柱花 | 長花柱花 |
---|---|---|---|
上 | 葯 | 葯 | 柱頭 |
中 | 葯 | 柱頭 | 葯 |
下 | 柱頭 | 葯 | 葯 |
ミソハギ属・カタバミ属・ホテイアオイ属・スイセン属などでみられる三型花柱性では、葯と柱頭の位置に上・中・下の三段階があり、表のようになっている。葯が高さがずれた2つのグループに分かれている必要がある。
動物媒・風媒・水媒のいずれにせよ、送受粉の成功率を高めるには多くの資源を消費する。消費量が多いほど成功率は高くなる。しかし、最上の場合でも自動同花送粉の成功率には及ばない。
虫媒花を例にとると、蜜・花冠・花香などに資源を使って誘引・報酬・選別・制御を行なっても、訪花昆虫が都合よく動くとは限らないし、虫の身体についた花粉が途中で落下したり同個体の花や他種の花の柱頭につく危険がある。また、何らかの理由で訪花昆虫自体が少ない可能性もあるし、近くに同種個体が咲いていなければどうしようもない。
自家送粉だけでよいなら、自動同花送粉という高い成功率と低いコスト(消費する資源)が両立する手段があるから、動物媒・風媒・水媒などの手段は必要ない。逆にいうと、動物媒・風媒・水媒は基本的には他家送粉のためにあり、送粉のためのさまざまなつくりやしくみのほとんどは、基本的には他家送粉に向けたものだ。
花の特徴の多くが他家送粉を指向していることは、18世紀後半~19世紀前半の送粉生態学の先駆者たちによって明らかにされた。そして「どうして自家送粉(確実・低コスト)ではなく他家送粉(不確実・高コスト)なのか」という問題に説明を与えたのは、現代の進化論の礎を確立したダーウィン(Charles Robert Darwin 1809-1882)だった。
ダーウィンが自家送粉の弱点として挙げたのは、自家交配に伴う近交弱勢[inbreeding depression]だった。近交弱勢とは、自家交配でできた子孫が他家交配でできた子孫に比べて生存・成長・繁殖能力が劣るという現象で、成熟する種子の数が少ない、種子の発芽率が低い、芽生えの成長率が悪い、など発生のさまざまな段階で現われる。人間や動物の近親婚で流産や遺伝病を持つ子の頻度が高くなるのも近交弱勢による。
生存・成長・繁殖能力を弱めるような対立遺伝子(有害遺伝子)は、次の2つの条件を満たすことが多い。
各個体は、複数の有害遺伝子をヘテロ接合で持っている。自家交配では、できた種子の平均25%で、親個体の持つ有害遺伝子がホモ接合になる。他家交配の場合、両親が同じ有害遺伝子を持つ確率、それによって交配でできた種子で有害遺伝子がホモ接合になる確率は極めて低い。このように、他家交配では潜在している有害遺伝子の影響が自家交配では表面化して近交弱勢が起こる。
近交弱勢は、同じ種の同じ個体(または同じ集団)で、自家交配由来の種子と他家交配由来の種子を同一条件で栽培・比較することで検出できる。ダーウィンが多数の植物を使ってその存在を示して以来、無数の実証例がある。
草丈(インチ) | ||
---|---|---|
他家交配由来 | 自家交配由来 | |
一対一 (5ペア) |
87.5 87.5 89 88 87 |
69 66 73 68.5 60.5 |
多数対多数 (1ペア) |
最大 77 | 最大 57 |
成功率 | コスト | 近交弱勢 | |
---|---|---|---|
自家送粉 | 高 | 小 | 大 |
他家送粉 | 低 | 大 | 小 |
正の相関 |
自動同花送粉から完全他家送粉までさまざまな送粉のあり方が存在し、その結果として完全自家交配から完全他家交配までさまざまな交配様式が見られるのは、左表のように、どちらにも得失があり、最適な状態が条件によって違うため、と説明される。
前出の概念図の縦軸を送粉成功率から送粉の利得に置き換えると、自動同花送粉では近交弱勢によって利得が下がり、条件によって動物媒・風媒・水媒の優劣が変化するようになる(A)。
自家交配の利点が大きい条件としては、以下のようなものが挙げられる。
環境変動によって生じた生態的な空白地に少数個体が(種子の散布によって)入り込んだ場合は、2番目の条件を満たす典型例の一つであろう。清水らの研究グループは、シロイヌナズナ(アブラナ科)において、自家交配を可能にする遺伝子(自家不和合性の遺伝子が機能を失ったもの)が、短期間に急速に広がったこと、また、その時期が氷河期が終わってシロイヌナズナが分布を拡大した時期と一致することを、遺伝子分析とシミュレーションにより示した。
自家交配による子孫の中で有害遺伝子を持たない個体が高い確率で生き残る、ということが繰り返されると、有害遺伝子が消失していき、自家交配の難点が解消され、自家交配はいっそう有利となり、より自家交配に適した特徴が急速に進化する。ほぼ自家送粉だけで繁殖する植物は、そのようなプロセスを経て出現したと考えられている。
自動自家送粉をする種類では自殖率は約100%、逆に雌雄異株や自家不和合性、あるいは他の方法によって自家送粉を禁じている種類ではほぼゼロになる。それ以外の種類では、他家交配と自家交配の両方をする可能性があって、自殖率は0%と100%の間のさまざまな値となる(中間的自殖率)。例えば、雌雄異熟や雌雄離熟の花でも、隣花受粉によって自家送粉が起こりえる。
花の特徴が同じであっても、以下のような要因は自殖率を高める。
自動自家送粉と他家送粉とを併用する植物も多い。
閉鎖花をつける植物の多くでは、開放花と閉鎖花が時間的・空間的に使い分けられる。スミレ類(スミレ科)では春わりと早いうちにふつうの花弁が開く花(開放花)が咲き、その後から葉の陰に隠れるように閉鎖花がつく。ミゾソバ(タデ科)では開放花と閉鎖花は並行して咲くが、開放花がかたまって茎の先に咲くのに対し、閉鎖花は地面近くや地中の茎にばらばらにつく。ホトケノザ(シソ科)でも開放花と閉鎖花の両方がつくが、環境条件によっては閉鎖花しかつかないこともある。
オオイヌノフグリ(ゴマノハグサ科|オオバコ科)・チョウジタデ(アカバナ科)では、葯と柱頭は互いに離れているが、花が咲いてからある程度時間がたつと葯か柱頭が動いて互いにくっつく。また、ツユクサ(ツユクサ科)では、花がしぼむときに葯と柱頭がくっつく。これらの花はアメリカフウロと違って、大きめの花弁を持ち、オオイヌノフグリとチョウジタデは蜜を分泌する。
チョウジタデ(アカバナ科)。花は朝に開き、花弁・雄しべのつけね付近から蜜を出す。最初は葯と柱頭は離れているが、午後になって日が傾くころ、雄しべが動いて葯が柱頭にくっつく。 |
時間差自動同花送粉では、他家送粉の余地を残しつつ、自動同花送粉も行うことで確実な受粉を行なっている。もちろん、両方の「いいとこ取り」という訳ではなく、自動同花送粉では不要なコスト(花弁や蜜)を費やし、他家送粉よりも高い近交弱勢のリスクも負っている。
植物の繁殖方法を分類し、形態や遺伝的な特徴をまとめると、下のようになる。
花粉の中の精核が胚珠の中にある卵細胞に入って受精し、受精卵となる。受精卵から新しい植物=胚ができる。胚のゲノム(DNA分子一式)は減数分裂と受精を経て両親から半分ずつ受け継ぐ→親と子、子どうしのゲノムに違いがある。受精では両親のゲノムが合わさって子のゲノムになる。子が有性生殖をするときには、減数分裂の最初の段階で、母親由来のDNA分子と父親由来のDNA分子が接合してから両者の間でつなぎ換わり(切り貼り)が起こる。つなぎ換わったDNA分子は、ランダムに再配分されて大胞子(胚嚢細胞)や小胞子(花粉細胞)のゲノムを構成する。胚嚢細胞から体細胞分裂によって卵細胞が、花粉細胞から精細胞ができる。
両親のうち、精核をつくった方(父親)と卵細胞をつくった方(母親)が別々の株となる。ヘテロ接合ができやすい。
同一の株がつくった精核と卵細胞どうしが受精する。ホモ接合ができやすい。
受精卵でなく、親株の組織から新しい植物ができる。子は親と全く同じゲノムを持つ。
受精を経ずに胚珠が種子となる。珠心の組織の一部から胚ができる場合と、染色体の乗り換えや減数なしで卵細胞が形成されて胚になる場合とがあり、いずれの場合も胚は母親と同一のゲノムを持つ。外見上は有性生殖と変わらず、受粉を阻害して継続観察するか内部構造を見なくては区別できない。セイヨウタンポポ・ニガナ・ヤブマオなどで、ほとんどは三倍体のような奇数倍数体で有性生殖がうまくできないような種類である。
種子以外のさまざまな器官が親株から離れて新しい植物となる。栄養繁殖のための器官である子イモ・芽・ムカゴは、種子よりも大きく、発芽段階をとばして直ちに成長を始められるという利点がある。その代わり、種子のように遠方に運ばれる可能性は低い。
それぞれの種類は、上の4つのさまざまな組み合わせによって繁殖している。一年草には自家交配をおもに行うものが多く、自動自家送粉も普通に見られる。栄養繁殖をする一年草は、水草のような特殊なものを除くと少ない。一年草は、種子をつくったあと枯れてしまうので、種子をつくることができなければ、子孫を残せないまま死んでしまうことになる。そのため、確実性の高い自家交配をするのが有利なのだろうと思われる。多年草は、ずっとさまざまで、自家交配をおもにしているもの、他家交配をおもにしているもの、他家交配のみをするものなどがあり、それに栄養繁殖を併用する場合がある。樹木では他家交配するものが多いと言われている。
他家交配・自家交配・無性種子繁殖を行うしくみの有無や有効性は、花・訪花動物の観察、人為的な実験処理、遺伝的な分析を組み合わせることで推定する。
処理の代表的なものとしては、袋掛け(花全体をつぼみのうちに細かい網の袋で覆い、虫や、風で飛んできた花粉をシャットアウトする)、除雄(雄しべを、花粉がまだ出て来ていないうちに取ってしまう)、人工交配が挙げられる。どちらも、処理をした場合(処理群)の種子のでき方(種子数/胚珠数)が無処理の場合(対照群)と比べてどうなるか、からさまざまな推定をする。
タブノキ(クスノキ科)で行った袋掛け・交配実験のようす。袋をかけて昆虫の訪花を排除し、雄性期の花の葯を雌性期の花の柱頭になすりつける。遺伝的な分析を使うと、母株と子株のゲノムを比較したり、自家交配によってホモ接合が増えることから個体や集団の自殖率を推定することができる(集団遺伝学・遺伝学の講義を参照)。