雌雄異熟(1)
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雌雄異熟[dichogamy]

植物の両性花・両性花序・両性個体は

  1. 雄としてのはたらき(葯から出た花粉を送り出す)
  2. 雌としてのはたらき(柱頭が花粉を受け取る)

の両方を兼ね備えている。植物によっては、雄としてはたらく時期(雄性期)と雌としてはたらく時期(雌性期)が時間的にずれることがあり、雌雄異熟と呼ぶ。

雌性期と雄性期のずれの大きさはさまざまで、雄性先熟の場合、(1)雄性期が終わり無性期を経て雌性期になるもの(後で出てくる例ではヤツデ)、(2)雄性期の終わりと雌性期の始まりがほぼ一致するもの、(3)雄性期が終わる前に雌性期が始まる(両性期がある)もの、(4)雄性期と両性期しかないもの(後で出てくる例ではフデリンドウ)がある。(1)→(2)→(3)→(4)と、また、(3)(4)では両性期が長いほど、雌雄同熟に近づいて行き、自家送粉の可能性が大きくなる。

(1)(2)を「完全異熟」[complete dichogamy]、(3)を「不完全異熟」[incomplete dichogamy]という。

だから、雌性先熟・雌雄同熟・雌性先熟は、連続的なものととらえることもできる。

雄性先熟
雄性期 無性期 雌性期
雄性期 雌性期
雄性期 両性期 雌性期
雄性期 両性期 雌性期
雄性期 両性期
雌雄同熟
両性期
雌性先熟
雌性期 両性期
雌性期 両性期 雄性期
雌性期 両性期 雄性期
雌性期 雄性期
雌性期 無性期 雄性期

ただし、ここからの記述では、両性期があるものや無性期があるものも含め、下のような表現で代表させることがある。

雄性先熟[protandry] 雄性期 雌性期
両性花の雌雄異熟

雄性先熟と雌性先熟の2つのタイプがある。雄性先熟は真正双子葉植物の虫媒花に、雌性先熟は原始的被子植物や風媒花に、多くの例が見られる。

花レベルの雌雄異熟
雄性先熟[protandry] 雄性期 雌性期
雌性先熟[protogyny] 雌性期 雄性期
雄性先熟の両性花の例
ヤツデ ヤツデ ヤツデ ヤツデ
ヤツデ(ウコギ科)。順に、雄性期、無性期、雌性期、花の終わり

ゲンノショウコゲンノショウコ(フウロソウ科)。葯の花粉が尽きたころ、花柱の先端が5つに割れ、柱頭が露出する。
ゲンノショウコゲンノショウコ

ヤブガラシの花ヤブガラシ(ブドウ科)の花。ヤブガラシの花は、咲きはじめは花柱が短く(左の写真)、やがて花柱が伸びて(下の写真右上の花)、雄しべと緑色の花被片が脱落する(下の写真中央下の花)。その後、オレンジ色の花盤がピンク色に変わり(下の写真左の花)、花期を終える。
ヤブガラシの花

ツワブキの花
ツワブキ(キク科)の筒状花
ツワブキの筒状花咲きはじめの筒状花。5本の雄しべは、葯のところでくっつきあって、筒になっている。花粉は、いったん筒の中に出てから、花柱に押されて筒先からあふれ出る。
ツワブキの筒状花花粉が出切ってから、花柱が伸びて先が2つに分かれる。分かれた又の間(柱頭)に花粉がつくと受粉がおこる。

フデリンドウフデリンドウフデリンドウ
フデリンドウ(リンドウ科)。雄性期→両性期と移行。

ホタルブクロホタルブクロホタルブクロ
ホタルブクロ(キキョウ科)のつぼみ内部。毛が密生した花柱を5つの白い葯が取り囲んでいる。開花が近づくと、葯から出た花粉が花柱の毛にへばりつく。

ホタルブクロホタルブクロホタルブクロ
花の中心部。開花直前・開花初期・開花後期の順。花柱が伸びるにつれて、葯は花粉を出し切ってしおれる。花柱についた花粉が取れたころに、花柱の先端が3つに割れて柱頭が露出する。

雌性先熟の両性花の例
クスノキクスノキ(クスノキ科)の花。雌性期(右)の間は花被片が半開き。柱頭が褐色になり、花被片が平開し、葯の弁が開いて雄性期(左)に移行する。

シキミシキミ
シキミ(シキミ科|マツブサ科またはシキミ科)の花。左―雌性期、上―雄性期。

ツクシショウジョウバカマ
ツクシショウジョウバカマツクシショウジョウバカマ(ユリ科|シュロソウ科)。雌性期から両性期へと移行する。

サバノオサバノオ(キンポウゲ科)。花の中心で直立していた花柱が倒れ、花糸が伸びて柱頭があった位置に葯が来る。
サバノオ

オオバコ
オオバコ(オオバコ科)。風媒の両性花を持つ。

オオバコオオバコ
写真の花序では、上から1/3くらいが雌性期(柱頭が突き出ている)、1/3~2/3くらいが両性期と雄性期(葯が突き出ている)、2/3から下は花が終わった状態。

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