雌雄異熟(5)
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二型性がある雌雄異熟: 異型異熟

個体レベルの雌雄異熟があり、さらに個体間の同調性がある場合、集団が2タイプの個体からなり(二型性)、タイプ内では雌性期どうし・雄性期どうしがが同調し、タイプ間では雌性期と雄性期が同調する(タイプ間の相補性)。だから、タイプ内での送粉は回避され、タイプ間での送粉が促進される。このような集団のあり方をヘテロディコガミー[heterodichogamy](異型異熟 | 異型雌雄異熟 | 雌雄異熟二型)という。

異型異熟には、さまざまなタイプがあるが、ここでは、大きく「クルミ型」と「アボカド型」に分ける。

  1. クルミ型: 雌性期と雄性期のサイクルは1回
  2. アボカド型: 雌性期と雄性期のサイクルは複数回。典型的には1日周期。
異型異熟
クルミ型 雄性先熟株 雄性期 雌性期 (雄)
雌性先熟株 雌性期 雄性期
アボカド型 Aタイプ
Bタイプ

クルミ型は、さまざまなグループに見られるが、一例をのぞいて雌雄異花の植物だ。対照的に、アボカド型は一例を除いては両性花を持つ植物で、雌性先熟のモクレン目、そしてショウガ科に集中している。

異型異熟性が報告されているグループ
両性花 雌雄異花
雌性先熟 雄性先熟 雌性先熟+雄性先熟
クルミ型 ヤマグルマ クルミ科の数属
カエデ属
ハシバミ属
ナンキンハゼ
Thymelaea hirsuta (ジンチョウゲ科)
Grayia brandegei(アカザ科|ヒユ科)
ホウレンソウ(アカザ科|ヒユ科)
アボカド型 クスノキ科の数属
バンレイシ
Eupomatia bennettii
ナツメ属 ハナミョウガ属と
近縁属(ショウガ科)
ハスノハギリ
Renner (2001)の総説に岡本 (1987)・Endress & Lorence (2004)・Kress & al. (2005)・Ren & al. (2007)の報告を加えて作成
クルミ型の異型異熟
イロハモミジイロハモミジ(カエデ科|ムクロジ科)。先に雌花が咲き、柱頭がしおれてから雄花が咲く型(雌性先熟個体)の花序
イロハモミジ

イロハモミジイロハモミジ
先に雄花が咲き、雄花が落ちてから雌花が咲く型(雄性先熟個体)の花序

カエデ属の一部の種(ハウチワカエデ・イタヤカエデ・イロハモミジ・トウカエデなど)では、集団に、雄性先熟個体(雄→雌→雄または雄→雌)・雌性先熟個体(雌→雄)・雄個体が混在する(Renner & al 2007; Gleiser and Verdú 2005)。ハウチワカエデの異型異熟性は、浅井 (2000)・Sato (2002)によって詳細に報告されている。

ヤマグルマ
ヤマグルマヤマグルマ(ヤマグルマ科)。上―雄性先熟株の花。雄性期→雌性期の移行期。雄しべは少数だけが残っている。柱頭はまだ成熟していない。
左―雌性先熟株の花。雌性期→雄性期の移行期。柱頭は褐変しかけているが、雄しべはまだ花粉を出していない。

アボカド型の雌雄異熟

栽培されているアボカド(クスノキ科)の品種に開花パターンの異なる2つのタイプがあることは、古くから知られていて、「A型」「B型」と呼ばれている。

アボカドは、クスノキと同じで、雌性先熟の両性花をつける。

アボカド: 花レベルの雌性先熟
1日目 2日目
午前 午後 午前 午後
A型個体の花 (閉)
B型個体の花 (閉)

個体内で同調が見られるため、個体としては反復雌雄異熟性を示す。

アボカドA型: 個体レベルの反復雌雄異熟
1日目 2日目 3日目 4日目 5日目
午前 午後 午前 午後 午前 午後 午前 午後 午前 午後
花1 (閉)
花2 (閉)
花3 (閉)
花4 (閉)
花5 (閉)
花6 (閉)
個体 (閉) (閉) (閉) (閉)
アボカド: 集団レベルの異型異熟
1日目 2日目 3日目 4日目 5日目
午前 午後 午前 午後 午前 午後 午前 午後 午前 午後
A型個体 (閉) (閉) (閉) (閉)
B型個体 (閉) (閉) (閉) (閉)
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