植物の雌雄性: タイプ分け
個体(株)の性: タイプ分け
花の性有性生殖器官としての花には、雄花(左上)・雌花(右上)・両性花(下)の3つがある。

植物の場合、1個体が多数の花をつけるのがふつうで、1個体1花は少数派だ。だから、3通りの花(両性花・雌花・雄花)の多様な組み合わせが見られる。

個体の性

個体の性型は、両性個体(両性株)[hermaphrodite]・雌個体(雌株)[female]・雄個体(雄株)[male]の3つに分けられる。

花には3通りの性があるから、個体には7通りの性があり得る。1個体つく花の種類が1つなら3通り、2つなら3通り、3つ全てがつくなら1通り。7通りのうち、1つ(B1)が雌花だけをつける雌個体、1つ(C1)が雄花だけをつける雄個体、残りの5つが両性個体だ。

  1. 両性花のみ(A1)
  2. 雌花+雄花(A2)
  3. 両性花+雌花(B2)
  4. 両性花+雄花(C2)
  5. 両性花+雌花+雄花(A3)

(A1)が最も多く(A2)がそれに次ぐが、(B2)(C2)も珍しくない。

集団(個体群)の性型: タイプ分け

雌個体のみ、あるいは雄個体のみの(有性生殖が行なえない)集団は、野生ではまれにしか見られない。有性生殖を行なっている集団には、次の5通りが可能だ。

  1. 両性個体のみ
  2. 雌個体+雄個体
  3. 両性個体+雌個体
  4. 両性個体+雄個体
  5. 両性個体+雌個体+雄個体

これらのうち、両性個体には花の組み合わせが5通りあるので、集団の性の組み合わせ(性型[sexual system])には21通りが可能ということになる(違う両性個体どうしの組み合わせもありなら、さらに多くなる)。

代表的な性型
  1. 両性個体のみからなる集団
    1. 「両全性」[hermaphrodite]「花は両性」: 両性花のみの両性個体のみ。多数
    2. 「雌雄同株」(より正確には、雌雄異花同株[monoecy]): 雌花+雄花の両性個体のみ。ブナ科・ウリ科の多く・ベゴニアなど多数
    3. 雄性両全性同株[andromonoecy]: 雄花+両性花の両性個体のみ。ツユクサなどかなり多い
    4. 雌性両性同株[gynomonoecy]: 雌花+両性花の両性個体のみ。キク科に例が多い
    5. 三性同株[trimonoecy]: 雌花+雄花+両性花の両性個体のみ。
  2. 雌個体・雄個体の両方か一方を含む集団
    1. 雌雄異株[dioecy]: 雌個体+雄個体。モチノキ科・ヤナギ科やアオキ・フキ・スイバ・トチカガミマムシグサなど多数
    2. 雌性両性異株[gynodioecy]: 両性個体+雌個体。かなり多い
    3. 雄性両性異株[androdioecy]: 両性個体+雄個体。ミヤマニガウリ(「両全性」集団と雄性両性異株集団の両方がある)など。珍しい
    4. 三性異株[trioecy]/不完全雌雄異株(仮訳)[subdioecy]: 両性個体+雄個体+雌個体。両性個体が雌雄どちらからも明瞭に独立している場合は三性異株といい、おそらく珍しい(ジンチョウゲ科のThymelaea hirsutaなど)。両性個体が雌個体・雄個体の一方または両方の変化型と見なせる場合(例えば、雄個体の一部が少量の果実をつける、と見なせる場合)には不完全雌雄異株という(ヤマアイなど)。こちらは、不安定で条件に左右されるものを含めるとかなり多数に上ると言われている。三性異株と不完全雌雄異株、その他、上のカテゴリーで表せないようなパターンを総称して雌雄混株/雑居性雌雄異株[polygamy]と呼ぶこともあるが、植物学以外で使われる多婚[polygamy](一夫多妻・一妻多夫など)と紛らわしい。
    2~4は、両性個体の個体内での両性花・雌花・雄花の組み合わせでさらに分けることができるが、別々の名称はついていない。

ミヤマニガウリのように、1つの種の中で、集団によって性型が異なるものもある。

雌雄異花同株
アケビアケビアケビ
アケビ(アケビ科)花。雄花は数個が一つの花序につき、雌花は単独でつく。雌花には雌しべがたくさんある。アケビの実は、受粉した雌しべが大きくなったもの。

コバンノキ
コバンノキ(トウダイグサ科)。小判形の葉の付け根(葉腋)に花をつける。枝先の方についている3個が雄花、基部の方についている1個が雌花。
雄性両全性同株
ツユクサツユクサ
ツユクサ(ツユクサ科)には、花柱が最も前方に突き出る両性花と、花柱が短く花の中心に隠れる雄花とがある。雄花の雌しべは子房も小さく、また、雌しべ全体が欠けているように見えるものもある。

モッコクモッコク
モッコク(ツバキ科)

雌性両全性異株
オオチャルメルソウオオチャルメルソウ(ユキノシタ科)
オオチャルメルソウ両性株の花
オオチャルメルソウ雌株の花

雌性両全性同株
ツワブキの頭花ツワブキ舌状花と筒状花
ツワブキ(キク科)の頭状花序。両性の筒状花と雌性の舌状花からなる。

雌雄異株
アオキアオキアオキ
アオキ(ミズキ科|ガリア科)の雌花序と雌花。

アオキアオキ
アオキ(ミズキ科|ガリア科)の雄花序と雄花

トベラトベラトベラトベラ
トベラ(トベラ科)

ヤマヤナギヤマヤナギ
ヤマヤナギ(ヤナギ科)雌株の花序

ヤマヤナギ
ヤマヤナギヤマヤナギ雄株の花序

不完全雌雄異株
ヤマアイ

ヤマアイ(トウダイグサ科)の各個体の雌花数と雄花数の散布図。ヤマアイ(画像)は、雌雄異花の多年草で、集団は、雌(雌花のみ)・雄(雄花のみ)・両性個体(雄花と雌花をつける)から構成されるが、両性個体の雄花数/雌花数は一方に偏っていて、ほとんどが「雌に近い両性個体」、1個体のみが「雄に近い両性個体」だ。=雌、=雄、=両性個体。
(2006年度卒業生の卒業研究)

雌雄異株・虫媒の木本で、雄花と雌花の形態の違いがあまり大きくないものでは、低頻度で雄花の結実が見られるものがある[カエデ属(カエデ科|ムクロジ科)の一部・マユミ(ニシキギ科)・キブシ(キブシ科)など]。

キブシキブシキブシ
キブシ(キブシ科)。雌の花からは大きな柱頭がのぞき、花冠の底には退化的な葯(花粉なし)が見える。雄の花では柱頭は小さめで(ただし、分泌液はむしろ雌より多め)、花粉を出している葯に囲まれている。

有性生殖における二型性

集団中に2タイプの個体があり(二型性[dimorphism])、有性生殖において同タイプ間の交配が抑制され、異なるタイプ間の交配が促進されることを、「有性生殖における二型性」という。

以下では、有性生殖における二型性を単に「二型性」という。

動物では二型性のほとんどは雌雄異体だが、植物では、雌雄異株に加え、上で挙げた不完全雌雄異株や雌性両性異株、雄性両性異株など、さまざまな雌雄性のパターンが見られる。また、二型花柱性(上の分類では両全性に入る)と異型異熟(上の分類では両全性または雌雄異花同株に入る)のように、両性個体しかない集団でも、二型性を示すことがある。

Thymelaea hirsuta (ジンチョウゲ科)には、両性個体・雄・雌が混在する集団があり(三性異株)、さらに、両性個体は雌性先熟個体と雄性先熟個体からなる。

性比[sex ratio]・性決定機構・性徴[sex character](性の間の特徴の違い)など、動物ではおもに雄と雌で使われる言葉が、植物では二型性全般に対して使われる。

性的二型[sexual dimorphism]は、二型性があるときに、異なるタイプの間に二次性徴[secondary sex character](生殖器以外の違い)が見られることを指すが、文献によっては、二型性そのものを指すこともある。

たいていは、二型性は遺伝的二型に基づく。つまり、個体の性が遺伝的に決まる。しかし、遺伝的でない要因が関与することもある。遺伝的に両性個体であっても、個体サイズが小さいときや栄養状態が悪いときに雌しべや雌花が発達せず、雄個体になることは、わりとふつうに見られる。

アケビアケビ
アケビ(アケビ科)の両性個体と雄個体。小さめの個体は、雌花がない雄個体になるか、両性個体であっても雌花がほんの少ししかつかない。

マムシグサ(サトイモ科)や近縁の種では、雌雄は遺伝的に決まらず、サイズの小さい個体は雄個体、大きい個体は雌個体となる(性転換[sex change])。この場合も、遺伝的には単型の二型性ということになる。カエデ属(カエデ科|ムクロジ科)などでも個体の性転換が報告されているが、サイズとの関係は見出されず、マムシグサのように高頻度ではない。


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