花粉粒
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スケール(白い棒)の長さは花粉粒の全体写真では10μm、表面の拡大では1μm
花粉四分子

花粉母細胞が減数分裂して、花粉4個のかたまり(花粉四分子[pollen tetrad])になる(左図)。個々の花粉粒の表面で、花粉四分子の中心から最も離れているところを遠心極(図では矢印で示す)、反対側の四分子中心に最も近いところを向心極という。遠心極と向心極を結ぶ直線を極軸といい、花粉粒表面での位置を表わすときの基準となる。

発芽口の数・位置・形

花粉は、外膜(エキシン)[exine]・内膜(インタイン)[intine]の2枚の膜で包まれている。外膜は物理的にも化学的にも非常に安定な物質であるスポロポレニン[sporopollenin]を主成分としている。発芽口[aperture]は、花粉管の出口で、外膜に切れ目(スリット)や穴があり、内膜が露出している(発芽口の部分では、内膜はやや厚くなっている)。

発芽口の位置と数によって、被子植物の花粉粒は大きく2つに分けられる。また、被子植物の系統樹上で、両者の分布はハッキリと分かれている。

  1. 単溝粒[monosulcate grain]と単溝粒から由来した花粉粒: 原始的被子植物(基部被子植物)と単子葉類
  2. 三溝粒[tricolpate grain | 3-colpate grain]と三溝粒から由来した花粉粒: 真正双子葉類
コブシコブシ(モクレン科)の単溝粒

シナレンギョウシナレンギョウ
シナレンギョウ(モクセイ科)の三溝粒。横から見たところと、極側から見たところ。

コブシ・シナレンギョウのような細長い切れ目状の発芽口を「発芽溝」といい、発芽口を持つ花粉粒を「溝粒」という。単溝粒の発芽溝の中心は、遠心極とほぼ一致する。三溝粒の三本の発芽溝の中心は赤道上にほぼ等間隔に分布し、溝は経線方向に伸びる。

ツツジ(オオムラサキ)

ふつうは、花粉四分子がばらけて4つの花粉粒に分かれる。しかし、ツツジの仲間などでは花粉四分子のまま送粉されるため、成熟した花粉でも四分子の配列や発芽口の位置が分かる。左の写真(ツツジの花粉四分子)では、三角形の3つの頂点と中心が4つの遠心極になる(上の模式図とは裏と表が逆)。花粉粒は三溝粒で、3つの発芽溝が赤道上を経線方向に伸びる。また、1つの花粉粒の3本の発芽溝のそれぞれは、他の3つの花粉粒の発芽溝のうちの1つと重なり合っている。

被子植物系統樹

被子植物の系統樹(右図)では、三溝粒と三溝粒の派生型は、真正双子葉類(EuD)に限られ、単子葉類(Mo)と原始的被子植物(残りのグループ)は、単溝粒か単溝粒の派生型を持つ。真正双子葉類の祖先で、単溝粒→三溝粒の進化が起こったと推定されている。

シキミ

原始的被子植物のシキミ科の花粉粒(上図、シキミ)では、経線に沿って伸びた3本の発芽溝が極でつながっていて、いっけん「つながった三溝粒」に見えるが、詳しい研究によって「遠心極にY字形の発芽口を持つ」単溝粒由来のタイプであることが分かっている。

タブノキ

発芽口がない花粉粒を無口粒[inaperturate grain]という。また、花粉管の出口でも外膜が覆っていて発芽口が特定できない花粉粒、また、クスノキ科(上図、タブノキ)などのように、花粉粒に外膜がないため発芽口が特定できない花粉粒もある。前者を隠口粒[cryptoaperturate grain]、後者を全口粒[omniaperturate grain]というが、無口粒に含めることもある。

ヤマモモ

外膜に細長い切れ目がある発芽口を「発芽溝」[colpus/colpi]、花粉粒を「溝粒」[-colpate grain]というのに対し、外膜に丸い穴がある発芽口を「発芽孔」[pore]、花粉粒を「孔粒」[-porate grain]という。例えば、三溝粒の派生型で発芽溝の代わりに赤道上に3つの発芽孔がある花粉粒を三孔粒[triporate grain | 3-porate grain](左図、ヤマモモ(ヤマモモ科))という。

発芽口が3つよりも多いこともある。このときは、発芽口の配置を表わすためにzono-(またはstephano-)か、あるいはpanto-(またはperi-)をつける。例えば、経線方向の発芽溝6本が赤道上に並ぶ花粉粒は"6-zonocolpate grain"、6本の発芽溝が正四面体の辺のように並ぶ花粉粒(下図、ムラサキケマン(ケシ科|ケマンソウ科))は「6-散溝粒」[6-pantocolpate grain]という。

ムラサキケマンムラサキケマン

オランダミミナグサ
オランダミミナグサ(ナデシコ科)の散孔粒[pantoporate grain]。多数(十数個)の発芽孔が散らばる。

花粉粒の多様性

花粉の形態から、たくさんの情報を得ることができる。系統的に近い種どうしは、花粉形態も類似していることが多いため、分類形質として重視されてきた。

カタバミモチノキハルジオンツツジ(オオムラサキ)
カタバミ(カタバミ科)・モチノキ(モチノキ科)・ハルジオン(キク科)・ツツジ(ツツジ科)の花粉粒表面に見られる模様

ツルニチニチソウ
ノゲシカラスノエンドウ
ヤマアイキュウリグサ上―ツルニチニチソウ(キョウチクトウ科)の俵形花粉粒
中左―ノゲシ(キク科)のほぼ球形の花粉粒
中右―カラスノエンドウ(マメ科)の三角柱形花粉粒
下左―ヤマアイ(トウダイグサ科)のラグビーボール形花粉粒。
下右―キュウリグサ(ムラサキ科)のY字型花粉粒。
(5枚とも、倍率を同じにしてある)

花粉粒全体の形状は、乾燥したときはしぼんだ形、吸水したときはふくらんだ形と変わるものがある(あまり違わないものもある)。だから、観察の方法によっても形状は変わる。グリセリン水溶液で封入し光学顕微鏡で見た花粉粒、あるいは、溶媒に浸した状態から臨界点乾燥や凍結乾燥して走査型電子顕微鏡(SEM)で見た花粉粒では吸水したようす、自然乾燥してSEMで見た花粉粒では乾燥したようすが捉えられる。乾燥状態では、吸水状態と比べて、発芽口が沈み込んで形が変わることが多い。三溝粒では乾燥状態でラグビーボール形、吸水状態で球形になる。また、乾燥状態で不規則な凹みが見られることもある。

シナレンギョウシナレンギョウ
シナレンギョウシナレンギョウ(モクセイ科)。上―自然乾燥+SEM、左―グリセリン水溶液で封入+光学顕微鏡。

セイヨウカラシナセイヨウカラシナ
セイヨウカラシナ(アブラナ科): 液浸標本から凍結乾燥した花粉粒と自然乾燥した花粉粒

雑種個体や倍数体では、均等な減数分裂が行われず、花粉粒の大きさや形がばらつくことがある。倍数体では、三倍体などの奇数倍数体ではほとんど、四倍体などの偶数倍数体でもかなりひんぱんにばらつきが見られる。また、同じ種や近縁な種では、二倍体よりも四倍体、四倍体よりも六倍体で花粉粒が大きい傾向がある。このように、染色体の構成も、花粉粒に反映することがある。

セイヨウタンポポレンギョウ雑種
三倍体のセイヨウタンポポ(キク科)と雑種個体と推定されるレンギョウ属(モクセイ科)の花粉粒


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