雌雄異熟(2)異熟に伴う両性花の変化
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「送受粉の場」における「登場」と「退場」

両性花で雌性期と雄性期が移り変わるときには、「花粉が出始める/出つくす」「柱頭が活性を持つ/しおれる」といった単純なオン/オフだけでなく、オンになる器官とオフになった器官の位置関係が変わることが多い。その結果、オンになる器官は花粉媒介者に近づき、オフになった器官は遠ざかる。前者を「送受粉の場」への「登場」、後者を「退場」と表わすことができる。

花粉媒介者の通路を強制するような複雑な形状の花では、オンになる器官が通路に突き出し、オフになった器官は通路から外れる。もっと単純で花粉媒介者がランダムに動くような花では、オンになる器官が高く突き出し、オフになった器官はそれより低くなる。

「登場」「退場」をもたらす過程は、器官の成長・萎縮・脱落・運動(開閉・屈伸・立て伏せ)と植物によってさまざまだ。

「追い越し」のみ

最も単純なパターンは、オンになる器官が成長して(アオカズラなど)、または立ち上がって(タブノキなど)、オフになった器官を追い越すものだ。オフになった器官の方では、特別な変化は起こらない。単純な形状の雌性先熟花に例が多い。

アオカズラアオカズラ(アワブキ科)。雌性先熟。花糸が伸長して花柱を追い越すと、葯から花粉が出る。
アオカズラ

タブノキ
タブノキタブノキ(クスノキ科)。雌性先熟。雌性期(上)では、雄しべは横たわり、花柱だけが突き出ている。雄性期(左)になると雄しべが立ち上がって、葯が柱頭よりも高くなる。葯の表面の4ヶ所がまくれ上がって花粉を出す(弁開)。

雄しべの脱落による「退場」

雄性先熟の花では、花粉を出し終わると葯がしなびるだけでなく、葯が花糸から取れたり(カノコソウ)、雄しべが丸ごと取れる(ホウセンカ・ヤブガラシ・ヤツデ・セリ科の多く)例が多い。

ホウセンカホウセンカ
ホウセンカ(ツリフネソウ科)の雄しべ。花糸に囲まれた緑色の部分は雌しべの子房。柱頭は葯に包まれたかっこうになっていて、外からは見えない。

ホウセンカホウセンカ
花糸のつけねが取れて、5本の雄しべがひとかたまりでぽろりと落ちると、初めて柱頭が露出する。

カノコソウカノコソウ(オミナエシ科)。雄性先熟。葯が脱落し、花糸は外側へ反り返り、花柱が成長して柱頭が突き出して、雌性期となる。

シャク
シャクシャク(セリ科)。雄性先熟。雄性期(上)には、柱頭は花盤にくっつくように倒れている。雄しべが脱落し、花柱が立ち上がって雌性期(左)となる。

花糸・花柱の運動が関与する

花柱の先端が開くことで柱頭が「登場」する例は多い(キク科・キキョウ科・リンドウ科・ゲンノショウコ・クサギ)。それと比べると少ないが、伏せていた花柱が立ち上がるもの(シャクなど)もある。花糸が立ち上がって葯が「登場」する例(タブノキなど)は上で出てきた。

「退場」では、花柱は花の中心に向かって伏せ(シキミ・サバノオ)、花糸は逆に花の外側へ伏せたり(ハルリンドウ・オボロヅキ)、反り返る(カノコソウ)ことが多い。

ハルリンドウハルリンドウハルリンドウ
ハルリンドウ(リンドウ科)。雄性先熟。

Graptopetalum paraguayense (朧月)オボロヅキ(朧月)(ベンケイソウ科)。雄性先熟。雌しべは5つ、雄しべは5本×2輪で10本。咲き始めは、花弁と互生する(花弁どうしの間にある)雄しべ5本が直立して花粉を出す。花弁と対生する雄しべ5本は未裂開で花びらのくぼみにはまりこんでいる。
Graptopetalum paraguayense (朧月)花弁と互生する雄しべは反り返って花びらの外に垂れる。代わりに、花弁と対生する雄しべが直立して花粉を出す。
Graptopetalum paraguayense (朧月)花弁と対生する雄しべも反り返って花びらにもたれかかる。雌しべどうしがわずかに広がり、柱頭がみずみずしくなる。
山形県のAさまの指摘で記述を修正(2015/11)

クサギは、花柱と花糸が連動して屈伸運動をすることで、雄性期から雌性期へと移行する。ハナミョウガは、花柱の屈伸で雄性期・雌性期の切り替えを行う。

クサギ
クサギクサギ(クマツヅラ科|シソ科)。雄性先熟。雄性期(上)では、雄しべが突き出し、花柱はくるりと曲がって後方を向く。雄しべがだらりと垂れ下がり、花柱は上に反り返る。花柱の先端が2つに割れて、雌性期(左)となる。
個体の中では、雄性期の花と雌性期の花が混在している(下)。
クサギ

ハナミョウガハナミョウガ
ハナミョウガ(ショウガ科)。雄性期の花では花柱が反り返り、雌性期の花では花柱がうなだれる。

花被の変化

雌性期・雄性期の移行に連動して花被に変化があるものもある。雄性先熟の花では、雌性期に花被が脱落するものがある(ヤブガラシ・セリ科とウコギ科の多数の種)。雌性先熟の花では、雄性期に移るときに花被が成長したり、もっと平たく開くものがある。どちらも、花の直径が「雄性期>雌性期」になる。

ヒメチドメヒメチドメ(セリ科|ウコギ科)

ツクシゼリ
ツクシゼリツクシゼリ(セリ科)

花ではないが、トウダイグサ属の杯状花序でも、花序の苞葉が雄性期には成長して、雌性期よりはっきりと大きくなる。蜜の分泌量も雄性期の方が多いように見える。

トウダイグサ
トウダイグサ(トウダイグサ科)の杯状花序

ナツトウダイナツトウダイ
ナツトウダイ(トウダイグサ科)。雌性期・雄性期の杯状花序

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