葉の空間配置
樹木の葉の空間配置――背腹型と直立型

葉身の面と茎との位置関係に着目すると、葉どうしの重なり合いを少なくしつつ多数の葉を付けるようなパターンとして、樹木では、次の2つがしばしば見られる。

背腹型

茎は横か斜めに伸び、節間は長めで葉は互いに離れてつき、葉身の上面が上空を見上げるように並ぶ。だから、茎と葉身はほぼ一つの平面(またはなだらかな曲面)を作る。

直立型

茎は先端がほぼ真上に伸び、先端近くでは節間は短めで葉はわりとかたまってつく。葉身は茎の先端をぐるりと取り巻くように並び、葉身の上面はやはり上空を見上げる。つまり、茎は葉身が作る面と直交する。

輪生は直立型と結びつくが、互生・対生は上の2タイプの双方と結びつく。

コーヒーノキ対生・背腹型のコーヒーノキ(アカネ科)。茎が節間で90°近くねじれることで、十字対生する葉が平面上に並ぶ。
コーヒーノキ

ネズミモチネズミモチ
対生・背腹型のネズミモチ(モクセイ科)。葉柄の湾曲による。

アリドオシ
対生・背腹型のアリドオシ(アカネ科)。節の葉の一部が小型化・退化する。

オオアリドオシ対生・背腹型のオオアリドオシ(アカネ科)。茎がややねじれ、節の葉の一部が小型化・退化する。
オオアリドオシ

ヒイラギモクセイ
対生・直立型のヒイラギモクセイの枝の写真(左)と部分の拡大写真(右)。若葉色の茎と葉が今春に伸びたところで、「当年枝」と呼ぶ。わら色の茎に深緑色の葉がついているところは去年の春に伸びた部分だ。当年枝では、まずヘラのような鱗片葉が1対か2対つき、そのあと硬い楕円形の葉が数対つく。

ヘラノキ
互生・背腹型のヘラノキ(シナノキ科|アオイ科)。

コクサギコクサギ
互生・背腹型のコクサギ(ミカン科)。下は、葉に先の方へ向かって番号を振ったもの。1と2、3と4のように、葉が2枚組になって左右に分かれる。このような付き方を「コクサギ型葉序」という。

ヤブニッケイヤブニッケイ(クスノキ科)。互生・背腹型・コクサギ型葉序

トベラ互生・直立型のトベラ(トベラ科)。トベラのように、互生葉序で節間が詰まって1ヶ所から葉が出ているような状態を「束生」ということもある。

トベラトベラのシュートを横から見たところ

アラカシアラカシ(ブナ科)の新枝の伸長。

直立型では、シュート同士に間隔が空かないと、他の枝の葉との重なり合ってしまう。ナラ・カシ類(ブナ科コナラ属)やアカメガシワ(トウダイグサ科)・タブノキ(クスノキ科)などでは、茎はまず横や斜めに伸び、ある程度伸びてから湾曲して上へ向いて、多数の葉をつける。

直立型のシュートでは、枝が短いうちは他のシュートの陰になるので、芽が短時間で一気に展開・伸長して他の葉から離れたところまで伸びることにメリットがある。ナラ・カシ類はその例で、このような伸び方を春から夏にかけて何回か繰り返す。

イチョウ(イチョウ科)・アオハダ(モチノキ科)・カツラ(カツラ科)などでは、シュートは、横か斜めに長く伸びるシュート(「長枝」と呼ばれる)に、短くて上向きのシュート(「短枝」と呼ばれる)に分かれている。長枝には多数の短枝がつくため、葉のほとんどは短枝の葉ということになる。「他の枝から離れる」「葉を付けて光合成をする」という2つの役目を、アカメガシワなどでは1本のシュートの下の方と上の方とで分担し、イチョウなどでは長枝と短枝とで分担している。

イチョウイチョウ
葉が展開する前のイチョウの枝。長枝と短枝の2種類の枝があり、1本の長枝には多数の短枝がついている。

イチョウ多数の葉をつけているイチョウの短枝。ごくわずかしか伸長しないので、何年も経った短枝は、芋虫のようだ。

イチョウイチョウのシュート。斜め下向きに伸びた長枝に多数の短枝がつき、葉の集まりは傾いた平面を作る。

背腹型と直立型の中間のような、どちらとも決められないような木もある。また、両者を併用する種類もある。

イヌビワやガマズミ属は、主軸の垂直に伸びる枝は直立型、主軸から分岐して横に伸びる枝は背腹型に近い姿をとる。

イヌビワイヌビワ
イヌビワ(クワ科)

コウヤボウキ・ナガバノコウヤボウキ(キク科で、シュートの寿命が2年しかない、木と草の中間のような植物)は、一年目のシュートは背腹型だが、落葉して冬を越し、二年目になると前年についていた葉の腋芽が数枚の葉をつけた短いシュートに発達する。つまり、前年からあるシュートが長枝、新しく伸び出したシュートが短枝としてはたらく。常緑木本性のつる植物の中には、地面や岩盤上を這うシュートと空中に伸びるシュートでは、かたちが違うことが多い。這っているシュートでは葉が小さく平面的につくが、空中に伸びるシュートでは葉は大きく立体的につく。

ナガバノコウヤボウキ ナガバノコウヤボウキ ナガバノコウヤボウキ ナガバノコウヤボウキ
ナガバノコウヤボウキ(キク科)。一年目の枝(当年枝)は背腹型で、おにぎり形の葉が横に並ぶ。二年目の枝(前年枝)につく短枝は直立型で、細めの葉が放射状につき、先端近くの短枝の先に頭花ができる。

ナガバノコウヤボウキ
植物全体を上から見たところ。前年枝は低く横に伸び、上から当年枝が覆い被さるような格好になる。
背腹型/直立型と葉形・樹形

背腹型と直立型の違いは、葉身のかたちや樹形(木全体のかたち)にもからんでくる。

ホオノキタムシバ
ともにモクレン科のホオノキとタムシバのシュート。直立型のホオノキは長めの葉柄を持つ巨大な葉を、背腹型のタムシバは中くらいの大きさの短い葉柄の葉をつける。

葉形葉形
宗像市・えびの市の62樹種のシュートの葉の配置と葉形を計測し、配置を表わす指数(ER)と基部の占有角(図の5)をプロットした散布図。ERは背腹型で小さく、直立型で大きくなり、二山型の分布をする。ERが大きいほど、占有角は小さくなる。(2004・2005年度卒業生の卒業研究)
草の葉の空間配置

木と比べて、草では、ロゼット型のように、葉のついている茎が伸びないもの、イネ科型のようなものなど、もっといろいろなパターンがある。

直立・高茎型

ヒマワリ・セイタカアワダチソウなど。茎は、次々と葉をつけながら上に伸びる。上の方で新しい葉が出来る一方で、下の方の葉は枯れていく。

セイタカアワダチソウ セイタカアワダチソウ
セイタカアワダチソウ(6月中旬)。次々と新しい葉を出すとともに下の方の葉が枯れる。光条件の悪い下の方の葉を自ら枯らして栄養分を回収し、上の方の葉に回しているのだろうか。

キクイモキクイモ(キク科)の生産構造図
直立・ロゼット型

タンポポなど。茎は(空中では)ほとんど伸びず、葉は地面を這うように、茎を中心に広がる。

ヒシ
ため池の水面を覆い尽くすヒシ。
背腹型

アマドコロ・イタドリ・ウワバミソウなど。茎は斜めに伸びるか、あるいは地面を這い、葉が重なり合わないようににつく。

イタドリ イタドリ
イタドリ(タデ科)
イネ科型
チガヤチガヤ(イネ科)の群生 チガヤ
チガヤ群落の生産構造図

単子葉植物、特にイネ科やカヤツリグサ科に多い、細い葉身を持つ草本では、短い茎の基部に集中的についた葉が立ち上がって茂ることが多い。葉と葉の重なり合いは大きいが、細いので、葉全体に光が行き渡る。

オギ・セイタカアワダチソウ河川敷のオギ・セイタカアワダチソウ混合群落の生産構造図。1―オギ葉、2―オギ桿、3―セイタカアワダチソウ葉、4―セイタカアワダチソウ茎。

他種との混合群落では、イネ科の大型草本の葉は、しばしば直立・高茎型と同じような分布になる。


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