9-1. 被子植物の系統樹と分類
9-1-1. 分類系

種[species]は、(1)形態や遺伝子の特徴、(2)交配可能性、(3)起源の単一性などの基準によってまとめられる(と同時に他の種とは区別される)個体の集まりを指す。

被子植物の現生種は、記載種数で25万を超え、未記載種を合わると30~35万と推定されている。

1つの種が複数の種内分類群(亜種または変種)に分けられている場合がある。亜種・変種は種と同様の基準でまとめられる(と同時に区別される)が、別々の種とするほどではない個体の集まりを指す。

種・亜種・変種は、

  1. 種 → 属 → 科 → 目
  2. 変種 → 種 → 属 → 科 → 目
  3. 亜種 → 種 → 属 → 科 → 目
  4. 変種 → 亜種 → 種 → 属 → 科 → 目

のように、階層的に(入れ子状に)まとめられる。1は種内分類群に分けない場合、2と3は分ける場合(2と3のどちらかを決める基準はない)、4は二重に分ける場合で、必ず亜種が変種の上位に来る。

変種
変種
変種
ドメイン亜種
変種
亜種
変種
ドメイン亜種
変種
亜種
ドメイン亜種
亜種
高次分類群種内分類群
ツユクサ目




ツユクサ属
ツユクサ
ツユクサ
マルバツユクサ
マルバツユクサ
ムラサキツユクサ属
ムラサキツユクサ
ムラサキツユクサ
ノハカタカラクサ
ノハカタカラクサ
イボクサ属
イボクサ
イボクサ
ヤブミョウガ属
ヤブミョウガ
ヤブミョウガ





ホテイアオイ属
ホテイアオイ
ホテイアオイ

上の内容は、下のように表わすこともできる

このように、種を階層的に整理したものを「分類系」(または、「分類システム」「分類体系」)という。分類系は、大きく分けて、2つの役割を持っている。

  1. 生物の多様性が含んでいる膨大な情報を一冊の本にたとえると、分類系はその目次や索引のような役割をする
  2. さまざまなデータから推定された生物の系統関係を要約して言葉にしたものであり、多様性を研究するにあたっての枠組みを与える

種を属に、あるいは属を科にまとめる「グルーピング」の基準は、次の2つだ。

  1. 形質共有 「はっきりとした共通性があるものどうしをまとめる」
  2. 系統的近縁性 「共通祖先から分岐した年代が新しいものどうしをまとめる」

共通祖先が持つ形質(特徴)は、その子孫へと受け継がれていく。共通祖先からの分岐が新しいほど、受け継いだ特徴の多くが子孫の共有される。系統の推定は、このことを逆用して行なう。だから、形質共有によるグルーピングと系統的近縁性によるグルーピングとは、重なり合う部分が大きい。

一方、形質共有によるグルーピングと系統的近縁性によるグルーピングが食い違うこともある。

これらのことは、形質に基づく系統推定に間違いをもたらす要因にもなる。

単純化すると(実際には、理論的にも実際的にも、たいへん複雑な経過をたどった)、歴史的には形質共有によるグルーピングが先行し、しだいに系統的近縁性によるグルーピングが併用されるようになり、さらに、後者が第一の基準、前者は後者と矛盾しない範囲で使われるようになっていった。

グルーピングに使われる形質データも、質・量ともに変化する。肉眼で容易に観察できる特徴から始まり、組織・細胞の特徴や生化学的な特徴が加わり、後で述べるように、1990年代以降はDNAの塩基配列が集中的に使われるようになった。どのような種類のデータであれ、植物の種類を増やし、欠けていたデータを埋める努力が連綿と続けられてきた。

グルーピングの基準が変わり、新たなデータが使われるようになると、分類系も変わっていく。

被子植物全体を扱った分類系も、古代からの「木」「草」の区別と用途による分類から、雄しべ・花柱の数によってグルーピングしたリンネ[Carl von Linné]の「性の体系」[The Sexual System](c.1729~)など数々の変遷を経て、DNAの塩基配列に基づく系統樹をベースとした「APG分類系」[The APG system](1998, 2003, 2009)に至っている。

9-1-2. 系統樹と単系統群

現在では、系統樹を元にして分類系がつくられる。また、特定の特徴(例えば、花の色)の進化パターンを推定する場合、地理的な分布の変遷を分析する場合にも、系統樹と特徴・分布を重ね合わせる。

下の図は、説明用の架空の系統樹だ(左右とも同じ)。時間は左から右に流れ、左端が共通祖先で、こちらを「系統樹の基部」という。系統樹右端のボックス1~16は系統樹の末端で、分析の対象となる個々の単位が来る。種である場合もあれば、属や科、目の場合もあり、個体の場合もある。この例では1~16は種として説明する。

1 A B C   L 
a
2N
b
3
c4D
d5
6
l
7EKM
e
8
9   
J
k
10I
j11FH
12
if
13
h14
15GN
g
16
単系統群

系統樹において、ある共通祖先の子孫の全てが含まれる集まりを単系統群[monophyletic group](あるいはクレード[clade])という。単系統群は、共通祖先にあたる系統樹の枝を1ヶ所「切る」だけで、系統樹から「取り出す」ことができる。

例えば、単系統群Bは1・2・3の3種を含み、bのあたりで枝を切断することで、系統樹から一体として分離できる。A・E・Gのような2種のみを含む小さな単系統群もあれば、1~16の全てを含む単系統群Lもある。もちろん、単系統群の中に単系統群があることもある。

単系統群Bに見られ、周辺の他の群に見られない特徴は、系統樹のbのあたりで進化し、その子孫に受け継がれたと推定することができる。娘のような特徴を単系統群Bの共有派生形質[shared derived character]という。

この系統樹には、12の単系統群(A~L)がある。また、末端単位(この場合は1~16)も、単系統群と見なして扱うので、それを含めると28の単系統群ということになる。

多系統群と側系統群

右の系統樹で示すMとNは、どちらも単系統群ではない。

Mは系統樹上ではひとまとまりになっているが、Mを構成する7~10の共通祖先はkで、kの子孫(単系統群K)のうち単系統群Hが含まれていないので、単系統群ではない。つまり、Mは単系統群Kから単系統群Hを取り除いたものだ。このように「単系統群から1つか少数の単系統群(あるいは末端単位)を取り除くことでできる単系統群でないグループ」を側系統群[paraphyletic group](グレード[grade])と呼ぶ。

Nは系統樹上の複数の場所に散らばるグループで「多系統群」[polyphyletic group]と呼ばれる。研究の結果、以前にまとめられていたグループが多系統群だと判明した場合は、複数に分割されることになる。

多系統群は「単系統群から多数の単系統群(あるいは末端単位)を取り除くことでできる単系統群でないグループ」ということもできる。多系統群と側系統群の違いは量的なものなので明確な境界はない。両者の区別は、ある程度は感覚的・恣意的になる。
系統樹ベースの分類系
1 P W L
2
3
4Q
5
6
7RX
8
9SY
10T
11U
12
13
14
15V
16

系統樹に基づく分類系では、属・科・目などの分類群[taxa]が単系統群(クレード)となるようにグルーピングされる。図は、前の系統樹から導かれる分類系の例だ。


9-1-3. 被子植物系統樹の全体像と3つのグループ

1980年代の終わりごろから、地球上のさまざまな生物群の系統樹を推定する研究は質・量ともに大きく進展した。原動力としては、次の4つが互いに影響しながら同調するように向上したことが大きい。

  1. DNAの塩基配列を解読する技術
  2. 系統樹推定の理論・手法・ソフトウェア
  3. コンピュータの計算速度
  4. データベース化・大規模共同研究

被子植物の系統関係も、1980年代までは、さまざまな説があって植物学者の間で意見が分かれていたが、二十世紀の終わりまでに、大まかな全体像に関しては、多くの研究者が合意するようになった。

被子植物系統樹

別ページに、現時点で推定されている被子植物の目レベルの系統関係を表わした系統樹を示す。被子植物の系統関係にかかわる膨大な情報を集積・公開しているAngiosperm Phylogeny Website (ミズーリ植物園)によるものだ。

「骨組み」だけを示したのが右図で、左上隅が被子植物の起源、右に向いた線の端には「モクレン目」「ユリ目」など、目レベルのグループがある。このような図では、太い線(枝[branch])のつながり方によって、推定された進化の経路を表わしている。

アムボレラ科







スイレン科など
シキミ科など
センリョウ科(Chl)
モクレン科など(Mag)
マツモ科(Cer)
真正双子葉類(EuD)
単子葉類(Mo)
DNAから推定された現生被子植物の系統関係の略図。
真正双子葉類が種の3/4以上を、単子葉類が2割以上を含む。

右上の系統樹を、単系統群をひとまとめにすることで、さらに簡略化したものが左上の系統樹だ。このように、被子植物は、2つの単系統群(クレード)と1つの側系統群(グレード)、計3つに大きく分けられる。

  1. 単子葉植物(単子葉類)[monocotyledons; 略してmonocots]("Mo"の枠で示す)
    以前からの「単子葉類」と一致する単系統群で、現生種の数で言うと被子植物の約2割になる。「子葉が1枚、子葉の基部が胚の他の部分を包み込むさやとなる」という他の被子植物に見られない特徴を持つ。
  2. 真正双子葉植物(真正双子葉類)[eudicots]("EuD"で示す)
    現生種の数で言うと約3/4を占める単系統群。「花粉粒が三溝粒、あるいは三溝粒から進化してできたタイプの花粉粒(三孔粒・三溝孔粒・多孔粒・多溝孔粒など)を持つ」という特徴を共有する。
  3. 基部被子植物[basal angiosperms]または原始的被子植物[primitive angiosperms]=被子植物から真正双子葉類・単子葉類を除いた側系統群("Mo""EuD"を除いた部分)
    現生種の数%ていど。

コブシ原始的被子植物の単溝粒―コブシ(モクレン科)

アマリリス単子葉類の単溝粒―アマリリス(ヒガンバナ科)

シナレンギョウシナレンギョウ
真正双子葉類の三溝粒―シナレンギョウ(モクセイ科)の三溝粒。横から見たところと、極側から見たところ。

双子葉植物でも子葉が一枚しかない種類があるが、基部はさやにならないし、また、同じグループに子葉が2枚あるものがいるので、単子葉類とは別個に子葉1枚という特徴が進化したものと推定されている。

いわゆる「双子葉植物」[dicotyledons; 略して dicots]は、真正双子葉類と基部被子植物の総称で、被子植物から単子葉植物を除いた側系統群だ。

系統樹から「3つのグループ」に分けることが必然的に導かれるわけではない。3つの点が加味されている。

基部被子植物は、比較的大きな単系統群のモクレン群[Magnoliids]("Mag"で示す)、マツモ科("Cer")、センリョウ科("Chl")、そして、最初期に分岐した3つの枝をまとめた「ANITAグレード」("ANITA")、の4つに分けられる。

マツモ科("Cer"で示す)とセンリョウ科("Chl")は、研究によって系統樹上の位置が大きく違う(他から分岐した後に大きなDNA配列の変化が起こったことによると考えられている)。マツモ科が真正双子葉類に入っていない、また、センリョウ科がモクレン群に入っていないのは、このためだ。

真正双子葉類のうち、とりわけ大きな単系統群を「コア真正双子葉類」[Core Eudicots]("CoEuD")、さらに、そのなかにある2つの大きな単系統群を「バラ群」[Rosids]("Ro")、「キク群」[Asterids]("As")と呼ぶ。また、コア真正双子葉類をのぞく真正双子葉類("EuD-CoEuD")を「基部真正双子葉類」[Basal Eudicots]と呼ぶ。

これらのグループに含まれる主な科は、被子植物全体の系統樹を参照。

グループ名 上の系統樹における記号 単系統か?
原始的被子植物
(基部被子植物)
全体-Mo-EuD
(ANITA+Mag+Cer+Chl)
N

ANITAグレード ANITA N
モクレン群 Mag Y
マツモ科 Cer Y
センリョウ科 Chl Y
単子葉類 Mo Y
真正双子葉類 EuD Y

基部真正双子葉類 EuD-CoEuD N
コア真正双子葉類 CoEuD Y

基部コア真正双子葉類 CoEuD-Ro-As N
バラ群 Ro Y
キク群 As Y
9-1-4. 基部被子植物・真正双子葉類・単子葉類の比較
キク群の花バラ群の花基部コア真正双子葉類の花基部真正双子葉類の花
単子葉類の花上: 真正双子葉類の花
左: 単子葉類の花
下: 基部被子植物の花
基部被子植物の花

真正双子葉類・単子葉類・基部被子植物の主な特徴を比べると、下の表のようになる。ただし、どの特徴にも必ずと言っていいほど例外があり、中には区別点と言っていいか迷うものもある。基部被子植物は、単子葉類の特徴と真正双子葉類の特徴を合わせ持つ傾向がある。

各群に比較的多い特徴
真正双子葉類基部被子植物単子葉類
子葉2枚1枚・基部が胚の他部分を包み込む
葉脈網目状(網状脈)平行線状(平行脈)
形成層・二次成長ありなし
茎の維管束筒状断面に散在
根系主根―側根系(例外多)ひげ根系
4-5数性3数性
花被花びらと萼片
(例外多)
外花被片と内花被片
花粉粒三溝粒または
その派生型
単溝粒またはその派生型

Angiosperm Phylogeny Website: Largest Families(2012/07/20現在、ただし2007年ごろから値は更新されていない)によると、被子植物は443科13208属に含まれる261750種からなり(裸子植物は14科82属947種)、種数の順に被子植物の科を並べると、上位は次のようになる。

順位新分類旧分類属の数種の数作物の例
1真双双合キク科Asteraceae162022750ヒマワリ・レタス
2単子ラン科Orchidaceae88021950バニラ
3真双双離マメ科Fabaceae73019400ダイズ・エンドウ・ソラマメ
4単子イネ科Poaceae66810025イネ・コムギ・トウモロコシ
5真双双合アカネ科Rubiaceae600+10000+コーヒー
6真双双合シソ科Lamiaceae2367175エゴマ・ハッカ
7真双双離トウダイグサ科Euphorbiaceae2185735トウゴマ・キャッサバ
8真双双離ノボタン科Melastomataceae1885005
9真双双離フトモモ科Myrtaceae1314625フトモモ
10真双双合キョウチクトウ科Apocynaceae4154555
11単子カヤツリグサ科Cyperaceae984350パピルス
12真双双離アオイ科Malvaceae2434225オクラ
13単子サトイモ科Araceae1064025タロイモ
14真双双合ツツジ科Ericaceae1263995ブルーベリー
15真双双合イワタバコ科Gesneriaceae1473870
16真双双離セリ科Apiaceae4343780ニンジン・パセリ・セロリ
17真双双離アブラナ科Brassicaceae3383710ナタネ・ダイコン・キャベツ
18基部双離コショウ科Piperaceae53600コショウ
19真双双合キツネノマゴ科Acanthaceae2293500
20真双双離バラ科Rosaceae952830リンゴ・サクランボ・アーモンド
21真双双合ムラサキ科Boraginaceae1482740
22真双双離イラクサ科Urticaceae542625ラミー/カラムシ(苧麻)
23真双双離キンポウゲ科Ranunculaceae622525
24基部双離クスノキ科Lauraceae502500アボカド
25真双双合ナス科Solanaceae1022460ジャガイモ・トマト・トウガラシ

上位は真正双子葉類と単子葉類が占め、基部被子植物はコショウ科(18位)とクスノキ科(24位)のみだ。また、主要な作物のほとんどは真正双子葉類と単子葉類の特定の科に由来する。

基部被子植物は、モクレンの仲間・クスノキ・タブノキ・シキミ・カンアオイ・センリョウ・スイレン・ドクダミなど、なじみ深い植物を含んでいるけれど、全部合わせても被子植物の現生種のほんのわずかを占めるに過ぎない。

基部被子植物に含まれるグループ(上で示した系統樹の枝)は、種数の点ではそれほど大きいグループではない。しかし、その一つ一つが、真正双子葉類や単子葉類以上に古くから独立した系統として今に至っている。だから、被子植物の原始の姿(被子植物全体の祖先がどのようなかたちをしていて、どのように生きていたか)を推定する場合には、基部被子植物に含まれるグループのそれぞれが真正双子葉類全体や単子葉類全体と対等な重みを持つ。だから、基部被子植物に共通する特徴は、被子植物の初期から受け継がれた特徴である可能性が高い。

花を例にとると、基部被子植物の多くは、次のような特徴を持つ。

モクレン属の園芸種モクレン属の園芸種
モクレン属(モクレン科)の園芸種の花。小さな甲虫が雄しべを食い荒らしている。

シキミ
シキミシキミ(マツブサ科)の花。左は咲き始めの雌性期、左下と下は雄性期。
シキミシキミ

風媒や、ハチやチョウ・ガによる送粉は、より遅く進化した特徴だということになる。花の化石で見ても、風媒やハチやチョウ・ガによる送粉に適したものは、そうでないものに比べ新しく現れたと考えられている。また、昆虫の化石からも、ハチやチョウ・ガの化石は、甲虫などより新しく現れたと考えられている。

1990年代以降、系統推定の進展に加えて、植物化石の研究もかつてないほど新発見が相次ぎ、被子植物の初期進化のようすは、急速に解明が進んでいる。

9-1-5. 古い分類系

図鑑や植物関係の書籍の多く、また、小学校から大学にいたるまでの理科や生物で採用しているのは、ドイツの植物学者エングラーによる分類系の細部を変更した「エングラー分類系(エングラー・システム)」または「新エングラー分類系」と呼ばれる分類系だ。この分類系では、被子植物を双子葉植物と単子葉植物に二分し、双子葉植物を離弁花類と合弁花類に二分する。図鑑類では、(あくまで便宜的な区分として)さらに「木」と「草」を分けてあることも多い。

「木」と「草」の区別は、古くから日常生活の中に定着していた。西洋でも東洋でも最も上位の分類基準として使われていた。木と草の違いは系統と一致しない場合が多く、両方を含むグループはバラ科・マメ科をはじめ、大変多い。つまり、木→草・草→木の進化は被子植物の中で何回も繰り返し起こっている。

木本草本
双子葉植物離弁花類クスノキ・シイ・サクラなどユキノシタ・エンドウなど
合弁花類ツツジ・スイカズラなどキュウリ・ナス・ヒマワリなど
単子葉類タケ・ヤシなどイネ・ユリなど

図鑑や植物関係の書籍は、目や科のレベルの分類もエングラー分類系にしたがっているものが大多数を占める。

双子葉植物と単子葉植物

双子葉植物(双子葉類)と単子葉植物(単子葉類)の区別は、イギリスの生物学者ジョン・レイの著作―『植物分類法新論』(1682)など―によって導入され、広く使われるようになった。たびたび出てきたように、双子葉植物と単子葉類には、さまざまな形態上の違いがある。これは、単子葉類が起源において大きな形態の進化が起こったことを示している。すでに述べたように、系統樹上では単子葉類が単系統群となるのに対して、双子葉類は「被子植物から単子葉類を取った残り」としか定義できず、新しい分類では複数のグループに分割されている。

合弁と離弁

双子葉植物を合弁花類離弁花類に区分することは、トゥルヌフォール『植物学の基礎』(1694)から分類に取り入れられるようになった。

トゥルヌフォール『植物学の基礎』 (京都大学図書館)
離弁花・合弁花
離弁花(左)と合弁花(右)の模式図

合弁は、花の発生の初期段階に、花びらの原基と原基の間が成長することで形成されると考えられている。

エングラー分類系の科では、ツツジ科・ツバキ科のように合弁花と離弁花の両方を含むものがある。しかし、そういうときに1つの科を合弁花類と離弁花類の両方に分けるようなことはしない。ツツジ科は合弁花類、ツバキ科は離弁花類に入れられている。だから、合弁花を持つ≠合弁花類、離弁花を持つ≠離弁花類に注意しなくてはいけない。

また、このことは、離弁→合弁・合弁→離弁の進化は(おそらく送受粉の様式に対応して)何回も繰り返し起こったことを示している。双子葉植物を合弁花を持つグループ(合弁花類)と離弁花を持つグループ(離弁花類)に分けることは、進化の歴史とのずれが大きい。

単子葉植物でも合弁花と離弁花は区別できるが、合弁花類と離弁花類に分類することはしない。

カラミザクラ
カラミザクラ(バラ科)。花びらは、ばらばらに、一枚ずつ「散る」。

ヤブツバキ
ヤブツバキヤブツバキ(ツバキ科)の花。花びらどうし、雄しべどうし、そして花びらと雄しべはつながりあっていて、丸ごとぽとりと落ちる合弁花。

サカキの花サカキ(ツバキ科|ペンタフィラクス科): 離弁花。ツバキ科は、合弁花を持つものも含め便宜的に離弁花類に入れられている。

サツキ
サツキ園芸品(ツツジ科): 合弁花。

ホツツジホツツジ
ホツツジ(ツツジ科): 離弁花。ツツジ科は、離弁花を持つものも含めて合弁花類に分類される。

ツツジ園芸品
ツツジの園芸品種では離弁花も持つものがあり、「采咲き」と呼ばれる。このことは、離弁←→合弁の移行が比較的単純な遺伝的変化でもたらされることを示すのかも知れない。
古い分類系の意義

図鑑や教育で、研究の進展と合わない「古い分類」が使われているのは、さまざまなメリットがあるためだ。それらは、裏返すと、新しい分類系のデメリットということになる。

  1. 古い分類基準の方が、少数の容易に判断できる特徴に基づいているため、実際に種類を調べるときに便利だし、教えやすい。
  2. 新しい分類は、新しいがゆえに、研究の進展とともにさらに改訂される運命にある。新しい分類を反映するためには、図鑑類はひんぱんに種類の並び方を変えた改訂版が必要となる。使う方も、慣れた並び方を捨てて再び覚え直さなくてはならなくなる。
  3. 「単子葉」「双子葉離弁」「双子葉合弁」と分けると、被子植物は、わりとバランス良く3分割される。例えば、種数上位の10科は単子葉2科・離弁4科・合弁4科に分かれる。

だから、現在考えられている植物の系統とは一致しない(従って、進化のパターンや背景を分析するときには、使えない)ことは頭に入れたうえで、単子葉と双子葉、離弁と合弁のような古い分類も知っている必要がある。


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