茎とそれについている葉を一括して「シュート」[shoot]という。もう少し厳密に言うと、1つの茎頂分裂組織(シュート頂分裂組織)に由来する茎と葉を一括して「シュート」という。
典型的な植物では、次のような役割分担があり、それに応じたかたちになっている(後で述べるように、例外も多い)。
役割とかたちが大きく違う茎と葉を、植物形態学では「シュート」という一つの単位として扱う。根と茎は自分自身の頂端分裂組織を持つが、葉は必ず茎についており、葉の原基は茎の茎頂分裂組織によってつくられる。だから、葉は、根や茎と同格の単位と考えるよりも、茎の付属物として考える方がすっきりする。
茎頂の模式図。T―茎頂。1~4―葉、1'~4'―葉腋の側芽。葉1に側芽1'が腋生する(以下同じ)。茎頂分裂組織と根端分裂組織は、シュート/根の軸方向への伸長という共通のはたらきを持つが、それぞれに固有のはたらきもある。
根端分裂組織 | 茎頂分裂組織 |
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軸方向への伸長 | |
根冠を つくる |
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茎頂分裂組織の回りでは、茎を太くする方向の細胞分裂も盛んに行われる。このような分裂は根端ではほとんど行われない。そのため、根端の断面では細胞が列状に整然と並んでいるが、茎頂の断面の細胞の配列はもっとずっと不規則で複雑だ。
シュートでは、細胞分裂→細胞伸長→組織分化の移行が、根と比べてあいまいだ。細胞分裂は茎頂分裂組織でもっとも活発で、その下に細胞伸長が早い部分はあるが、組織分化した部分でも細胞分裂・伸長が続いている場合が多い。これは、土壌中にある根と比べて空間を自由に使えることを反映していると思われる。
葉原基[leaf primordium]は、茎頂分裂組織のへりから形成される。葉原基は、種類ごとに決まった規則的な配置でぎっしりと並ぶ。茎頂分裂組織は、葉原基に囲まれ、その外側を成長途中の葉が、茎頂を覆い隠すように取り囲む。このように、茎頂分裂組織が自分の作り出した葉に囲まれている状態を「芽」[bud]という。芽の外側にある葉ほど先に出来た葉なので、より大きく成長している。根冠が根端分裂組織を守るように、茎頂分裂組織は、葉によって外界から遮断されている。
新しい茎頂分裂組織は、葉原基が出来た少し後になって、葉の付け根と茎にはさまれた部分(葉腋[leaf axil]の組織が盛り上がることで生じる。茎頂分裂組織は、同じように伸長しながら葉原基をつくり、芽(側芽/腋芽)となる。芽が生長して茎を伸ばして葉を広げると、元のシュート(主軸)から枝分かれした新しいシュートとなり、側枝[lateral shoot]と呼ばれる。
上のようにして作られた芽は、主軸の茎頂の芽(頂芽[apical bud])に対する位置関係で見たときには「側芽」[lateral bud]といい、側芽が成長したシュートを「側枝」という。また、発生部位から見ると、葉腋にできる(腋生する、ともいう)ため「腋芽」(えきが)[axillary bud]という。
主軸/頂芽と側枝/側芽の関係は相対的だ。例えば、図の例(葉は省略してある)では、シュート4は、シュート1に対しては側枝で、シュート5に対しては主軸となる。
植物の芽は、発生部位から3つに分けられる。
左: インゲンマメ(マメ科)芽生えの頂芽 左下: ヤブツバキ(ツバキ科)の腋芽 右下: サツマイモ(ヒルガオ科)の根生芽 |
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シュートから生じるシュートを側枝[lateral shoot]、根から生じる根を側根[lateral root]という。側枝と側根では、下表のように原基のでき方にいくつかの違いがある。図は、シュートと根の分岐パターンを示す模式図でこれらの違いを表現している。
側枝の原基 | 側根の原基 |
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頂端分裂組織 | 頂端分裂組織とは別の分裂組織 |
頂端 | 頂端からやや離れたところ |
葉原基の腋(腋生) | 木部に沿った縦列上 |
外生(盛り上がり型) | 内生(突き破り型) |
すでに述べたように、側根や不定根は、内部の組織で細胞分裂がおこり表面を突き破って出て来る「突き破り型」の発生で「内生[endogenous]」という。これに対して、側枝の原基は、表皮とその下の組織で細胞分裂が盛んになり、表面が盛り上がることで形成される。このような「盛り上がり型」の発生は「外生[exogenous]」と呼ばれる。葉にできる不定芽は、腋芽と同じく外生的に生じる。ただし、根にできる不定芽(根生芽)は内生する場合が多いとされる。
茎頂から離れたところでは、茎は太さがほぼ均一な円柱状となり、葉は成長して「葉らしい」形となる。葉が付いているところを「節(せつ)」[node])と呼ぶ(左図1)。節と節の間を、「節間(せつかん)」[internode]と呼ぶ(左図2)。節間が伸びたことにより、それぞれの葉の間隔が開いている。また、側芽/腋芽(左図4)は、成長して側枝(左図6)となったり、芽のままだったり、脱落して痕跡(芽痕; 左図7)のみが残ったりする。
茎の先端から見て、茎―腋芽(または側枝・芽痕)―葉基(または葉痕)と並ぶという原則は、ふつうと違う形の茎や葉を判別する役に立つ。例えば、ナギイカダやアスパラガスのシュートでは、位置関係から、葉のように見えるのは側枝、そのつけねにあるわら色の欠片が葉、となる。
シュートにできた頂芽や腋芽は、その全てが成長するのではなく、取れて脱落してしまうものもあれば、芽の状態でいったん成長を停止するもの(休眠芽[dormant bud])もある。
休眠芽には、大きく分けて3つの役割がある。
熱帯雨林のような限られた環境を除いて、地球上の多くの場所には季節の変化があり、多くの場合は、冬季・乾季・水没期のような生育不適期が含まれている。植物は、休眠芽によって季節の変化に対応する。
湿潤な温帯気候下にある日本列島では生育不適期=冬季であり、落葉樹も常緑樹も越冬用の休眠芽(越冬芽(えっとうが)/冬芽(ふゆめ)[winter bud])をつける。落葉樹では、秋に葉が落ちた後の枝につく冬芽がよく目立つ。冬に地上部が枯れる草本では、地中の地下茎に冬芽ができる。このように、葉を形成した状態で休止しておくことで、春が来て良い活動条件になったときに、すばやく伸長・展開し、すかさず光合成を再開することが出来る。
休眠芽の外側は「芽鱗」[bud scale]という鱗(うろこ)形の堅い小片が重なるように覆って、茎頂や若い葉を守っている。芽鱗の多くは
芽鱗をこじ開けると中に重なり合った葉がある。休眠芽が成長を再開するとき、芽鱗は脱落して内側の葉が広がる(芽鱗が比較的遅くまで残る種類もある)。
落葉樹では、冬芽の芽鱗は死んだ細胞から出来ていて、茶色でかさかさしていることが多く、常緑樹では緑色を残していることが多い。
ケヤキ(ニレ科)の冬芽。基部は茶色い鱗形の葉(鱗片葉)、基部から上は鱗片状の托葉(普通葉の基部に一対つく小片)に覆われている。芽のすぐ下に、葉の落ちた痕(葉痕)がある。
オオカメノキ(スイカズラ科|レンプクソウ科)・ヤブムラサキ(クマツヅラ科|シソ科)のように、芽鱗がなく、基部の普通葉が中身を守る役割を兼ねるものもある(裸芽)。草本の地下茎の休眠芽は、白い鱗片葉に覆われることが最も多い。
冬芽の展開と同時に開花する種は、落葉樹・常緑樹とも多い。その場合、花序が入っている冬芽を花芽といい、茎と葉だけが入っている冬芽を葉芽という。花芽に花序だけが入っている場合(サクラ類など)と、花序と茎・葉が一緒に入っている(
「混芽」の場合(タブノキなど)とがある。
日照やその他の条件が良ければ、それに応じて休眠芽を伸長させてシュートの数を増やすことで枝葉の量を増やすことができる。クスノキやナラ・カシ類(ブナ科コナラ属)は、条件の良い枝では春から夏にかけて休眠芽の素早い伸長を何回か繰り返す。
何らかの理由でシュートの上の方が死んでしまったときに、下の方の休眠芽が伸び出して代わりのシュートを作る。このような休眠芽は、越冬芽より小さく未発達な状態で成長を止めていることが多い。
樹木の枝や多年草の地下茎は、複数年にわたって生き続けるシュートだ。
温帯地域の樹木では、シュートの成長にはっきりとした季節変化がある。
(1) 冬の間は茎の伸長がほとんど止まり、茎頂近くの茎・葉は芽の状態で休眠している。
(2) 春の訪れとともに、芽鱗が取れ、茎が伸びて葉が広がる。
(3) その後は成長は緩やかになるか断続的になる。
休止→急成長→緩成長のサイクルが繰り返されるために、枝には年ごとの成長の足跡が刻まれることになる。特にはっきりとしているのは、休止期と急成長期の境界で、次の2点によって判別できることが多い。
春~秋にかけて観察するとして、枝先の、春が来てから伸びた枝を「当年枝」という。基部の方にたどると、鱗片葉の痕を境に枝の表面が急に古くなるところがあって、そこから下は「前年枝(二年枝)」以下、同じように「三年枝」「四年枝」・・・とたどることができる。
落葉樹では、葉や花がつくのは当年枝のみだ。常緑樹では、二年枝や、ときにもっと古い枝にも葉がついていることが多いが、当年枝についている新しい葉と二年枝などについている葉では形成時期が1年以上違うので、明らかに新鮮な光沢や色をしている。
ヤブツバキ(ツバキ科)の初夏のシュート。(1)春に伸長した淡緑色の当年枝と(2)前年春に伸長した灰色~褐色の前年枝、(3)二年前の春に伸長した三年枝が区別でき、境目に越冬芽を覆っていた鱗片葉の脱落痕がある。当年枝の葉は前年枝や三年枝の葉と比べて色が明るく光沢が強い。
年を経た枝では、枝先から基部へとたどっていくことで、時間をさかのぼって過去の成長の履歴(年ごとの枝分かれの数、茎の伸長量など)を読みとることが出来る。ただ、あまり古くなり、枝の表面の組織がすっかり入れ替わるとこれらの痕跡は消えてしまう。草本の地下茎でも同じようなことができるが、古い部分の分解・消失が早いため、樹木のように簡単にはいかない場合が多い。
キャベツ(写真はムラサキキャベツ)は「芽」の状態を保ったまま巨大になったシュートだ。下に行くほど茎は太く、葉は大きくなっていて、外側の葉は内側の葉を覆い隠している。葉腋には側芽がある。
ササ・タケ類では発達した地下茎が地中を横に伸びている。地下茎の側枝の一部がまっすぐ上に伸びて地上茎(桿 かん)となる。タケノコ(筍)は地上茎の芽で、タケノコの節(ふし)=節(せつ)で、葉(「タケノコの皮」と呼ばれるもの)がとりかこむようについている。
タケノコと生長を終えたタケ(竹)は、節の数と太さはほとんど変わらない。急速に伸長しながら葉を落としてタケとなる。タケの節(ふし)=節(せつ)の横方向の少し張り出した筋は、葉が取れた痕だ。
クチナシ(アカネ科)の節。B1・B2は側枝、L1・L2は葉の基部で、SはL1・L2の托葉。本来ならB1はL1、B2はL2に接するはずだが、線で示した部分が伸長して離れている。
ふつうの植物では葉が担う役割を茎がになっており、形も葉を思わせるような茎を「葉状枝」という。上で出たアスパラガスも葉状枝の例だ。
ウチワサボテンの1種。2種類の形状が異なるシュートを持っている。片方は茎が扁平な楕円形となって光合成を担う。もう片方はほとんど伸長せずに毛に覆われる。葉にも2種類があって、鋭いトゲになってずっと残存するものと、指先形で早めに脱落するものとがある。