4-4. 葉の背腹性と断面・色
4-4-1. 葉の背腹性と向軸面・背軸面

葉では、「表」と「裏」が区別できる(外見や内部構造が表と裏とで違う)。このような、いわゆる「表裏がある」ことを、背腹性[dorsiventrality]という。茎は極性がある(先端と基部がある)が背腹性はないことが多い。葉は極性があり背腹性もある。

背腹性[dorsiventrality]は、他のさまざまな生物の体制を記述するのにも使われる。動物体では、ふつう、背側[dorsal(形容詞)]と腹側[ventral(形容詞)]を使う。
葉の向軸面と背軸面

葉の場合は、表と裏は、厳密には「向軸面」「背軸面」という。

葉の表(向軸面)と裏(背軸面)では、次のような違いが見られることが多い。

多くの種で見られる葉の表と裏の違い
緑色 光沢 葉脈
表(向軸面) 濃い つやつや 見えにくい より少ない
裏(背軸面) 薄い
しばしば白・茶色を帯びる
ざらざら 見えやすい
(より細かい脈が見える)
より多い
スダジイスダジイ(ブナ科)の葉(左―表、右―裏)

葉の裏の方が、種類による特徴の違い(色・脈の見える度合い・毛の種類など)が出やすく、種類の判別に役立つことが多い。

タブノキホソバタブバリバリノキカゴノキ
いずれもクスノキ科の4樹種、順にタブノキ・ホソバタブ・バリバリノキ・カゴノキの葉の裏面。色(淡緑色/白緑色)、細かい葉脈が明瞭か、毛の分布と長さなどがそれぞれに異なる。

ほとんどの場合、向軸面が上面[upper surface]、背軸面が下面[lower surface]で、上方からの光は表に当たるが、例外もある。

単面葉 裏葉左―単子葉植物のさまざまなグループで見られる単面葉の模式図
右―イネ科の一部で見られる「裏葉(ウラハ)」(右)の模式図
向軸面を濃灰色、背軸面を灰色で示す。

アヤメ科に例が多い単面葉[unifacial leaf]では、裏(背軸面)が外に来るように二つ折りになり、内側の表(向軸面)どうしはほとんど癒合している(両面とも背軸面)。

シャガ シャガ
シャガ(アヤメ科)
ニワゼキショウ
ニワゼキショウ(アヤメ科)の葉の断面。ふつうの葉が裏側が外に来るように二つ折りになり、ほとんどが癒合している。癒合している部分では、篩部・木部の向きが逆の維管束が交互に並ぶ。
単面葉はすくっと斜めに立つことが多く、西洋でも東洋でも剣に喩えられた。アヤメ科のグラジオラスの属名Gladiolusは「小さな剣[gladius]」を意味する。

イネ科の一部(ハマニンニク・ウラハグサ・ノガリヤスなど)では、葉が茎の反対側に回り込み、背軸面が上を向くようになる(裏葉; ウラハ)。細長い葉が茎から剥ぎ取られにくいという利点があるのかも知れない。

ハマニンニク海岸の砂丘に生えるイネ科のハマニンニク。葉は背軸側の方が色濃く光沢があり、上を向く。
ハマニンニク

トゲヂシャ 荒れ地に生える帰化雑草であるトゲチシャ(キク科―左)は、直立した茎にたくさんの葉(葉身が直に茎についている)が互生している。葉は最初のうちは普通に上を向いているが、ある程度成長したところで葉の付け根が90°捻れて、葉面が横を向くようになる。右向きによじれるか左向きによじれるかはまちまちで、規則性は見出せない。この場合は、葉の表・裏とも横を向くことになる。

4-4-2. 葉の断面
モチノキモチノキ(モチノキ科)の葉の断面。写真中央のあたりに維管束がある。

葉身の上面から下面へと、次のように組織が積み重なっている。

  1. 上面の表皮[upper epidermis]
  2. 柵状組織[palisade layer/tissue]
  3. 海綿状組織[spongy layer/tissue]
  4. 下面の表皮[lower epidermis]
ヤブツバキ
ヤブツバキ
ツバキ(ヤブツバキ: ツバキ科)の葉の断面(上―SEM・左―光顕)

柵状組織と海綿状組織をあわせて「葉肉」[mesophyll]という。維管束(葉脈)は葉肉の中央を通る。葉肉の細胞では細胞膜近くに葉緑体がたくさん並ぶ。

ヒサカキ
ヒサカキ(ツバキ科|ペンタフィラクス科)の葉の葉面に垂直に切った断面(横断面)

ヒサカキ ヒサカキ ヒサカキ ヒサカキ
ヒサカキ(ツバキ科|ペンタフィラクス科)の葉の葉面に平行に切った断面(並層断面)。左上から、上面(向軸面)の表皮・柵状組織・海綿状組織・下面(背軸面)の表皮。

ソーセージ形の細胞が縦にぎっしりと並ぶ柵状組織に対し、海綿状組織では細胞の外形や配列はもっと不規則だ。細胞間のすきま(細胞間隙)は、柵状組織よりも海綿状組織にもあるが、後者でより大きな容積を占めている。細胞間隙を満たす空気は表皮にある気孔を通じて外気とつながっている。光合成に必要な二酸化炭素は気孔をくぐり、細胞間隙を通って細胞に達する。

ツユクサ ツユクサ
ツユクサ(ツユクサ科)の柵状組織・海綿状組織の細胞

表(向軸面)と裏(背軸面)の表皮では、細胞間隙がなく、表面にクチクラ層がある。表が裏よりつやつやしているのは、表皮のクチクラがより厚いためだ。気孔は葉の背軸面にのみある場合(ヒサカキなど)と葉の両面にある場合(コメツブツメクサ・セイヨウタンポポなど)がある。

コメツブツメクサ
セイヨウタンポポ
上―コメツブツメクサ(マメ科)、下―セイヨウタンポポ(キク科)の葉の横断面。ともに、背軸面と向軸面の両方に気孔がある。

樹木の葉では、柵状組織と海綿状組織の違いや境界がハッキリとしているのがふつうだが、草本ではもっと違いが微妙で、例えば、柵状組織でも細胞間隙が非常に大きい。また、両者の境界もあいまいなことが多い。

樹木の葉の断面 | 草本の葉・茎の断面(1) | 草本の葉・茎の断面(2)
維管束と透視性
タブノキタブノキ(クスノキ科)の葉: 海綿状組織と維管束

双子葉植物の葉では、主脈・側脈の太い維管束から分岐した細い維管束が分岐と合流を繰り返して網状となる。

木部と篩部の並びは、茎の維管束の配置を保っており、
   表=向軸側=中心側: 木部
   裏=背軸側=外周側: 篩部
となる。木部や篩部は繊維を含んでいるので、維管束は葉の骨組みの役割も果たしている。

ヤブツバキヤブツバキ
ヤブツバキ(ツバキ科)の維管束。維管束(2―木部・3―篩部)をはさむように上下に繊維細胞群(1・4)がある。茎の維管束では道管が太くて目立つが、葉の維管束では他の細胞とあまり変わらない。
ヤブツバキ
ヤブツバキヤブツバキの主脈の維管束。維管束を取り巻く繊維細胞群(1・4)がよく発達している。

維管束が通っているところは、その分葉緑体が少ないから、色の薄い筋=葉脈[leaf vein]として見える(あるいは、葉を透かしてみると透明な筋として見える)。トベラ・タブノキのように、表皮と維管束の間に葉緑体のない厚壁細胞が並ぶ場合には、光に透かすと細かい葉脈までよく見える。モチノキ・ヤブツバキ・ヒサカキのように、維管束と表皮の間に葉緑体のある柔細胞があれば、光に透かしても太い葉脈だけしか見えない。前者を「透視性がよい」、後者を「透視性が不良」といい、葉で種を判別するとき、目印の1つとなる。

トベラトベラ
トベラ(トベラ科)の葉の断面構造と透視

ヤブツバキヤブツバキ
ヤブツバキ(ツバキ科)の葉の断面構造と透視
4-4-3. 葉の色
光合成色素光合成色素 緑葉から抽出した光合成色素と、それをクロマトグラフィで展開したもの。上から、カロテン(橙)・フィオフィチン(黒)・クロロフィルa(青緑)・クロロフィルb(緑)・キサントフィル(黄)。

葉の色の基本は光合成色素、とりわけ量の多いクロロフィルの緑だ。しかし、葉から光合成色素を抽出すると、元の葉よりもずっと鮮やかで透明感のある色合いになる。

これは、細胞間隙の空気、他の細胞内含有物、表面のワックス粉や毛が色にさまざまな「味付け」をするためで、同じ理由で、植物の種類や時期によって緑の色合いが微妙に異なる。

細胞間隙(空気)と細胞質(水溶液)との境界面でさまざまな色の光が反射・散乱され、光が葉緑体を通過する回数を増やして吸光率を高める(特に、クロロフィルの吸光率が低い緑色光の捕捉に有効)。細胞間隙での反射・散乱は、葉の色に不透明感を与え、また、細胞間隙が多い組織は気泡が白いのと同じ理由で白みを帯びる。

これらのことによって以下のような事実が説明できる。

「濡れ葉」「茹で野菜」に近い状況を作るために、葉片を入れたビーカーを密閉容器内で強制脱気すると、細胞間隙の空気が膨張して細胞間隙に納まらなくなり、気泡となって葉の外に出る。細胞間隙には水が入るため、反射や散乱が抑えられ、葉の緑は透明感を増し、表と裏の色の違いも目立たなくなる。

ドクダミ ドクダミドクダミ(ドクダミ科)の葉。裏は白っぽい。
ドクダミ葉片はふつう水に浮くが、吸引ポンプで低圧にして細胞間隙の空気が抜くと水中に沈む。ビーカーの水に沈んでいるのが脱気処理をしたドクダミの葉片、浮いているのは未処理の葉片。
脱気後の葉片裏。中心部を除いて空気が抜け、白から緑色に変化した。

ドクダミ

ドクダミドクダミ
左2つが脱気していない葉片、右2つが脱気した葉片。上段が表、下段が裏。ドクダミの葉は表が暗緑色、裏が白緑色だが、脱気後はどちらの面も鮮緑色になる。ドクダミの葉の透視。左半分は細胞間隙の空気が抜けており、右半分は残っている。光の透過性が大きく違う。
斑入りの葉
マタタビ シロツメクサ
マタタビ(マタタビ科)とシロツメクサ(マメ科)の葉の斑

葉の一部に他の部分と色が違う模様があることを斑入り[leaf variegation]という。ハンゲショウ(ドクダミ科)やマタタビ(マタタビ科)、シロツメクサ・ムラサキツメクサ(マメ科)の葉表に見られる白い斑は、表皮の下に大きな細胞間隙があって葉肉の緑色がマスクされることによるため、葉裏には斑がなく、光に透かすと斑は見えなくなる。

ムラサキツメクサ ムラサキツメクサ
ムラサキツメクサ(マメ科)の葉。裏返して光に透かすと斑は見えない。

園芸植物の斑入りには、葉肉細胞に葉緑体がないことによるものが多く、葉を光に透かしても斑はそのまま見える。また、黄色味を帯びていることが多い。

ツルニチニチソウ
斑入りのツルニチニチソウ(キョウチクトウ科)
ツワブキ
ツワブキ
ツワブキ(キク科)の斑入り品
黄葉と紅葉
イヌビワ
イロハモミジ 上: イヌビワ(クワ科)の黄葉

左: イロハモミジ(カエデ科|ムクロジ科)の紅葉

温帯域の秋は、紅葉と黄葉による「秋色」[autumn colors]で彩られる。

落葉前の樹木や枯れる前の草に見られる黄葉は、クロロフィルが分解されて茎や地下部へと回収され、カロテノイド色素(カロテン・キサントフィルなど)が残った状態の葉だ。

アミノ酸から赤いアントシアニン色素が合成されて液胞に貯えられると、葉に赤色が加わり紅葉となる。落葉を前にした紅葉は、クロロフィルが抜けて、カロテノイドの黄色とアントシアニンが加わった明るく澄んだ朱色に近い赤だ。

紅葉に至る途中で、アントシアニン合成がクロロフィルの分解に先んじることもあり、クロロフィルの緑と重なって暗い赤~赤紫になる。

ヤマザクラ ヤマザクラ
ヤマザクラ(バラ科)の紅葉(左―葉表・右―葉裏)。クロロフィルがない黄色・明るい赤とアントシアンとクロロフィルとが重なる暗い赤が混在する。
ナンキンハゼ ナンキンハゼ
ナンキンハゼ(トウダイグサ科)はクロロフィルの分解とアントシアニン合成のタイミング、また、アントシアニン合成の有無がまちまちで、暗赤~明赤~黄のさまざま紅葉/黄葉を見せる(左―葉表・右―葉裏)。

常緑樹でも落葉前の紅葉・黄葉は見られるが、短期間で一斉に葉が落ちる落葉樹と比べると目立たない。

シャリンバイ テイカカズラ
シャリンバイ(バラ科)・テイカカズラ(キョウチクトウ科)の紅葉

トベラ ハマヒサカキ
トベラ(トベラ科)・ハマヒサカキ(モッコク科)の黄葉
落葉前以外の紅葉

落葉前の他にも、
(1) 展開中の若葉
(2) 草本の越冬葉
(3) 葉の裏面(地面に広がる葉や水面に浮かぶ浮葉)
など、さまざまな種類・場面で葉(や茎など)の色にアントシアニンの赤が加わることがある。クロロフィルの緑と重なって暗い赤や赤紫になることが多い。

アカメガシワ アカメガシワ
アカメガシワ(トウダイグサ科)の若葉は、最初赤く、しだいに赤味が抜けて緑色になる(和名「赤芽柏」の由来)

ミチタネツケバナ ハマボッス
上―越冬時のハマボッス(サクラソウ科)
左―赤いロゼット葉で冬を越すミチタネツケバナ(アブラナ科)。春先に伸びる茎も赤い。


シハイスミレ シハイスミレ ウキクサ ウキクサ
上―シハイスミレ(スミレ科)葉の表裏(和名「紫背菫」の由来)
下―ウキクサ(サトイモ科)葉状体の表裏

秋の紅葉も含め、葉がアントシアニンを作ることの利点としては、大きく分けて2つの説明が考えられている。

  1. 光合成速度に対して光の量が過剰となるような条件下で起こる生理障害(活性酸素ストレスなど)の防止。温度・水分・クロロフィル量などが光合成の制限要因となっているとき。
  2. 食害者がつきにくくなる。アブラムシが越冬のために樹木に移動することが、秋の紅葉が進化する要因となった。
Archetti M & al. 2009. Unravelling the evolution of autumn colours: an interdisciplinary approach. Trends in Ecology and Evolution 24(3): 166-173 doi:10.1016/j.tree.2008.10.006

展開中の若葉や越冬時の紅葉には前者が、秋の落葉前や葉裏の紅葉には後者が有力だが、食害防御のメカニズムや、種類による紅葉の有無を分ける要因など、解明されていない点も多い。

アントシアニンは、茎を赤く色づけることも多く、さまざまな花色の要素ともなっている。


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