剽窃(パクリ・盗作)は厳禁

他者の調査・研究・考察・創作・体験・執筆の成果を横取りすることを「剽窃(ひょうせつ)」あるいは盗作・パクリといいます。レポート・論文で多いのは「他者の記述を自分の記述であるかのように見せかける」ケースです。

ウェブサイトや本の記述をレポートに転載した場合、あるいはその内容をかいつまんで記述した場合、以下のことを怠ると剽窃になってしまいます。

  1. レポートの内容のどこが引用されたところなのかはっきりとさせる → アンカーをつける → 参照文献
  2. 文章をそのまま引用する場合は、 などの工夫をして、自分の書いた文章と分離する
  3. 引用元(出典)の詳しい情報(書誌情報)を、他の人が出典を見たいと思ったときに、確実に探せるように明記する → 参照文献
  4. 必要な量を超える引用をしない。仮に必要であったとしても常識的な量に止める、あるいは内容を要約して示す。
  5. 引用以外の記述が引用に見合うだけの内容を持っている。

これらのうち、最後の2つは、原作者または著作権者の同意があれば剽窃でありませんが、最初の3つは、同意があったとしても剽窃です(ただ、法的な責任を免れる可能性はあります)。

新聞記事などでは、著名人が盗作と推定される行為した場合に、「盗作疑惑」などの適切な表現を避けてわざと「無断引用問題」と誤用することもあります(著名人との関係の悪化を避けるための方便と考えられます)。上記のルールを守っていれば、著者(あるいは著作権者)に無断で引用することには問題ありません。
剽窃が咎められるのは何故か

私が課すレポートでは、明確な剽窃は0点です。剽窃といえるかどうか微妙なケース(長すぎる引用、引用以外の内容に乏しい)は、程度や状況によりますが、大幅な減点になる可能性が高いと思います。他の教員の扱いも、おそらく大きくは違いません。

ここまで剽窃が嫌われるのは、無数に理由がありますが、思いついたものを3つ挙げます。

  1. 卑怯ないし卑劣かつみっともない: 料理コンクールで、デパ地下のお持ち帰り料理をお皿に盛って提出するようなものです。読者(この場合は教員)を騙すことですから、罵りたくなるのは当然です(卑怯だ、というのは主観的に聞こえるので「知的に不誠実だ」などの言い回しを使います)。
  2. 評価逃れ: 教員は、レポートを通じて学生の情報の取捨選択、思考の筋道などをを見ようとしていますが、丸写し分にはそれがありあせん。評価項目をスルーしていることになります。
  3. 不法行為まがい: 剽窃あるいは剽窃まがいの文章を公にする(不特定多数に公開する)と、著作権を侵害したことになる(法的な責任を問われることもある)。レポートは公の文章ではありませんが、教育的な配慮からそれに準ずる扱いをします。
剽窃でないようにする例

レポートを書いているときに「雌雄異熟」という植物形態学の用語の説明をする必要が生じたとします。

  1. 検索する
  2. ウィキペディアの受粉を見つけ、
    雌雄異熟とは、一つの花の中の柱頭の受粉可能時期と、葯の花粉放出時期が異なる現象である。柱頭が先に熟す場合を雌性先熟、葯が先に花粉を放出できる状態になる場合を雄性先熟という。雌蕊と雄蕊が成熟する時期が異なることで、自家受粉を避ける機構として機能している
    と書いてみる
  3. 教員が「ウィキペディアは信用できないので使うな」と言ってたのを思い出して、消す
    実際に言われたのは
    「ウィキペディアは信頼性に低い記述がたくさん混じっています。信頼できる記述には必ず出典が示されているので、出典を見てから判断して下さい。そうでなければ、使ってはいけません」
    だったが、ちゃんと聞いていなかった。
    全く聞いておらず、堂々とウィキペディア一本でレポートを書く学生もいるので、この程度の誤解はあまり責められません。
  4. goo辞書の項目
    しゆう‐いじゅく【雌雄異熟】 雌花と雄花とで開花時期が異なる現象。
    を見つけ、
    雌雄異熟とは、雌花と雄花とで開花時期が異なる現象のことをいう。
    と書いた。
  5. 教員が「専門用語の説明に国語辞典を使うのは論外」と言っていたのを思い出し、止める
    全くその通りです。専門分野の辞典、この場合は『植物用語辞典』『生態学辞典』などなら可。なお、上のウィキペディアの説明とGoo辞書の説明は両方とも不完全です。両者を足しあわせるとほぼ十分な定義となります。
  6. 雌雄異熟(1)というページを見つけ、
    雌雄異熟[dichogamy]
    1つの両性花、1つの両性花序、あるいは1つの両性個体の中で、花粉を送り出す時期(雄性期[male stage])と柱頭が花粉をつけられる状態になっている時期(雌性期[female stage])が時間的にずれることをいう
    雄性期が先行する場合を雄性先熟[protandry]、雌性期が先行する場合を雌性先熟[protogyny]という
    雌雄異熟でない=雄性期と雌性期が一致する場合を雌雄同熟[adichogamy; synacmy]という
    紛らわしくない場合、雌雄異熟を「異熟」、雌雄同熟を「同熟」と略することがある
    という部分をコピーした。
  7. 引用することにした。
    このページが信頼に足るかどうかは、取りあえず措いておきます。
    文献1には、次のように記述されている:
    雌雄異熟[dichogamy]
    1つの両性花、1つの両性花序、あるいは1つの両性個体の中で、花粉を送り出す時期(雄性期[male stage])と柱頭が花粉をつけられる状態になっている時期(雌性期[female stage])が時間的にずれることをいう
    雄性期が先行する場合を雄性先熟[protandry]、雌性期が先行する場合を雌性先熟[protogyny]という
    雌雄異熟でない=雄性期と雌性期が一致する場合を雌雄同熟[adichogamy; synacmy]という
    紛らわしくない場合、雌雄異熟を「異熟」、雌雄同熟を「同熟」と略することがある
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    引用文献
    福原達人 「雌雄異熟(1)」http://ww1.fukuoka-edu.ac.jp/~fukuhara/keitai/shiyuuijuku1.html (2013年1月1日閲覧)
剽窃の例
雌雄異熟[dichogamy]
1つの両性花、1つの両性花序、あるいは1つの両性個体の中で、花粉を送り出す時期(雄性期[male stage])と柱頭が花粉をつけられる状態になっている時期(雌性期[female stage])が時間的にずれることをいう
雄性期が先行する場合を雄性先熟[protandry]、雌性期が先行する場合を雌性先熟[protogyny]という
雌雄異熟でない=雄性期と雌性期が一致する場合を雌雄同熟[adichogamy; synacmy]という
紛らわしくない場合、雌雄異熟を「異熟」、雌雄同熟を「同熟」と略することがある

と、出典も示さず、地の文との区別もしなければ当然剽窃です。

後半をそぎ落とし、前半を次のように書き直した

1つの両性花、1つの両性花序、または1つの両性個体の中で、花粉を送り出す時期(雄性期)と柱頭が花粉をつけられる時期(雌性期)が時間的にずれていることを雌雄異熟といい、雄性期が先行する場合を雄性先熟、雌性期が先行する場合を雌性先熟という。

もやはり剽窃で、「剽窃をごまかそうとしている」とも取れるので、より悪質な剽窃と見なされます。

文献1によれば、1つの両性花、1つの両性花序、または1つの両性個体の中で、花粉を送り出す時期(雄性期)と柱頭が花粉をつけられる時期(雌性期)が時間的にずれていることを雌雄異熟という。雄性期が先行する場合を雄性先熟、雌性期が先行する場合を雌性先熟という。雌雄異熟でない、雄性期と雌性期が一致する場合を雌雄同熟という。紛らわしくない場合、雌雄異熟を「異熟」、雌雄同熟を「同熟」と略することがある。

文献1由来の部分がどこからどこまでかが分かりにくいので、望ましくありません。ちょっと厳しすぎるかも知れませんが、剽窃まがいです。


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