日本(福島県・石川県以南)・朝鮮半島南部・中国東南部に分布するキク科の多年草。葉は常緑で円に近い多角形のつやのある葉身と長い葉柄があり、ロゼット状につく。茎は花と実をつけるためだけに伸び、途中には退化した小さな葉がつく。茎の先に頭花がかたまってつく(頭花の数はさまざま)。頭花は40~70個の花でできている(舌状花が10個くらい、残りは筒状花)。
ツワブキは、キク科の花の成り立ちを観察するのに最も適した植物の1つだ。
頭状花序(頭花)の模式図。1・2―総苞(1―総苞片・2―花序の軸に当たる部分)、3―舌状花、4―筒状花。ツワブキの頭花。多数の小さい花が円盤状に密集して、1つの花のように見える。外側の花びらのように見えるもの1つ1つが舌状花、舌状花に取り囲まれて多数の筒状花がある。
頭花を裏返すと、細い葉が集まったつぼのような総苞があり、子房の集まりを覆っている。つぼみの時には頭花全体を保護している。
頭花をつくる1つ1つの花のことを、小花ということもある。ツワブキの場合は筒状花と舌状花とがある。両方とも、子房の先に冠毛がつき、冠毛の内側から花冠が管となって伸び、管の中心を花柱が伸びている。
筒状花。花冠は管の先がカップのようになり、カップのへりは5つに裂けている。これは、花冠が5枚の花びらの融合によって出来ていることの名残だ。花柱を5つの細長い葯が取り巻いているが、葯どうしもつながって1つの筒になっている。
キク科筒状花の花式図舌状花。花冠は、管の先が「へら」のようになっている。また、雄しべがなく、花柱が丸見えになっている。
花冠の表面細胞舌状花は、頭花を実際以上に大きく見せて、訪花昆虫の目を引く。また、筒状花とのコントラストによる同心円状のパターンも、昆虫に対する目印となっているらしい。
ツワブキの頭花の紫外線写真(可視光線を通さず、近紫外線だけを通すフィルターを通して撮影したもの)。筒状花・舌状花とも黄色の花冠を持つが、近紫外線の反射率が違い、舌状花の方がずっと良く反射する。近紫外線を見ることができる昆虫にとって、筒状花と舌状花とは、人間に見えるよりも対照的に見える。
無処理(11頭花) | 袋掛け(9頭花) | |
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結実 | 554 | 2 |
不稔 | 63 | 487 |
開花前の頭状花序を袋で覆って訪花昆虫が来ないようにすると、結実率はゼロに近い(0.4%)。無処理の頭状花序では89.8%の花が結実する。
キク科の中には、タンポポの仲間のように舌状花だけしかないもの、アザミのように筒状花だけしかないもの、そして、ツワブキのように舌状花と筒状花の両方があるもの、筒状花は常にあるが花によって舌状花がないもの(センダングサなど)がある。
ツワブキでは舌状花は頭花を大きく見せる役割をしているが、舌状花の花冠が小さく、ほとんど目立たないものもある。
咲きはじめの筒状花。5本の雄しべは、葯のところでくっつきあって、筒になっている。花粉は、いったん筒の中に出てから、花柱に押されて筒先からあふれ出る。
花粉が出切ってから、花柱が伸びて先が2つに分かれ、分かれた又の間が柱頭となる。柱頭に花粉がつくと受粉がおこる。このように、花粉が出きってから雌しべが受粉可能となる(このことを「雄性先熟」という)ので、花粉が同じ花に受粉すること(同花受粉)は、ほとんど起こらない。
頭花の中心部のようす。外側の花が先に開き、中心へと開花が進んでいく。だから、花の中心から外側へ向かって、つぼみ(上の写真の1)→花粉を出している花(2)→中間期の花(3)→柱頭を露出している花(4―筒状花・5―舌状花)と配置されている。
キク科の花では、萼(がく)は、毛の集まり(冠毛)になっていることが多い。タンポポやツワブキでは、冠毛は実が熟するときに長く伸びてパラシュートの役割をする。
同じキク科でも、風以外の手段で果実を散布する種類は、冠毛はほとんど目立たない。
コセンダングサ。トゲで動物の身体にくっつく("ひっつき虫")
ツワブキの地下部では、太った茎(地下茎)が大きな体積を占める。サトイモと同じように、葉鞘の痕が同心円状に残る。1つのイモはある程度のところで成長や葉を出すのをやめ、葉腋の芽にそれらの役割が引き継がれる。花茎を出したイモもそこで止まるようで、下の写真の左側のイモは先端が花茎の痕で終わっている。成長・展葉を停止したイモは貯蔵器官となるが、さらに古くなると黒くしなびる(上の写真の左下)。