アケビ科・モクレン科などでは、複数の雌しべが花の中心を取り巻くようについており、雌しべの中心側には1本の筋がある。子房を輪切りにすると、内部は1室だ。
左: コブシ(モクレン科)の雄しべと雌しべ。多数の雌しべが柱状に集まる。
サクラやマメ科の花の雌しべは1つだけで、片側に1本の筋があることや子房は1室なところはコブシやアケビと共通だ。


ユッカ・オクラなどでは、雌しべは1つだけで中心に位置する。横断面を見ると、子房は複数の室に分かれていて、子房室1つずつを含む単位構造に分割できる。


ヤマゴボウ(ヤマゴボウ科)ではミカンの房のような形の雌しべ8個が花の中心を取り巻くが、同じ属のヨウシュヤマゴボウでは丸い雌しべ1個が花の中心に位置する。仮にヤマゴボウの雌しべどうしが融合したとすると、ヨウシュヤマゴボウの雌しべとそっくりな姿となるだろう。


このようなさまざまな雌しべのあり方は、心皮[carpel]という単位によって、
で表現することができる。
へり近くに胚珠がついた葉(A)・縦に2つ折になった葉(B)・心皮(C)の模式図。1―柱頭、2―花柱、3―子房、4―縫合線、5―腹束、6―背束、7―胎座。
心皮は、萼片・花びら・雄しべと同様に葉に相当する器官で、へり近くに胚珠がついた葉が胚珠を封じ込めるように折りたたまれた、ミカンの房のような基本構造を持つ。
| 植物 | 心皮 | |
|---|---|---|
| 数 | 合生/離生 | |
| サクラ・マメ科 | 1 (単心皮) | |
| コブシ | 多数 | 離生 |
| アケビ | 6 | |
| ヤマゴボウ | 8 | |
| ユッカ | 3 | 合生 |
| オクラ | 5 | |
| ヨウシュヤマゴボウ | 10前後 | |
複数の心皮が合わさって(合着して)1つの雌しべになっている場合を「合生心皮の」・「心皮は合生」[syncarpous]と表わし、複数の心皮が離れている(心皮=雌しべ)の場合を「離生心皮の」・「心皮は離生」[apocarpous]と表わす。1つの心皮だけがある場合は「単心皮の」[monocarpous]あるいは単に「心皮は1つ」と表わす。
複数の器官がつながっていることを合着(がっちゃく)という。心皮の合着は、原基の段階でつながり、その後は一体として成長する(先天的合着)ことが多いが、ある程度心皮が形成された後で癒着する(後天的合着)こともある。

心皮数と雌しべ数との関係は次のようになる。
| 心皮数 | 雌しべ数 | |
|---|---|---|
| 離生心皮 | 複数 | =心皮数 |
| 合生心皮 | 1 | |
| 単心皮 | 1 |
がく片・花びら・雄しべと同じように、心皮も、(1)葉に相当し、(2)花の中心軸に側生する器官だ。だから、心皮という単位を使うことで、花の部品の数や配置を一貫した枠組みでとらえることができる。
また、ヤマゴボウとヨウシュヤマゴボウのような近縁な種の間の雌しべの違いを、心皮の合着の程度の違いとして、よりすっきりと解釈できる。
心皮=雌しべの場合(離生心皮や単心皮)は、果実になっても心皮の縫合線が1本の縦筋や縦溝となって残る。


ムベ(アケビ科)の雌花と果実。離生した3心皮が果実になる。


エンドウの果実の横断面。下が縫合線。
ウメ・サクラ・モモ・スモモの果実では、凹んだ筋が縫合線に当たる。
ウメ(バラ科)の若い果実
離生か合生かは子房の合着によって区別するが、子房の下半分だけが合着するような中間的な段階もある。合生心皮でも、以下のように花柱や柱頭の一体化の程度ははさまざまだ。




などのパターンが見られる。
離生心皮であっても、花柱と柱頭が成長の過程で後天的に合着することがある(アオギリなど)。
アオギリ(アオギリ科|アオイ科)の雌花。子房の回りに退化した雄しべがついている

横断面
合生心皮の雌しべを構成する心皮の数や配置は、
から推定できることがほとんどだ。しかし、心皮の構造が典型的でないなどの理由で、簡単に推定できないこともある。
合生心皮の雌しべでは、それぞれの心皮の維管束は独立に雌しべに入っていく。ミカン類(ミカン科)の雌しべは、10~15個の心皮でできた合生心皮で、各心皮は「ミカンの房」に対応している。雌しべには各心皮の維管束が独立に入るが、熟したミカンの実でも、へた(萼)を取って雌しべの付け根だったところを見ると、ちぎれた維管束の筋か、または維管束が取れたあとの穴が同心円上に並んでいる。これの数を数えると、(たまにちょっとずれることもあるが)皮をむかなくても心皮数=房の数を当てることができる。





ナツミカン(ミカン科)の子房断面を見ると後で房になる部屋(子房室)があり、その中に胚珠が入っているのが見える。この例では、12室の胚珠が入った子房と1室の未発達な子房(胚珠が入っておらず、細いスリットのように見える)がある。一つ一つの子房室の外側に1本の維管束、内側に2本の維管束がある(矢印で示す)。外側の維管束は心皮の中軸を通る維管束(中脈―心皮の場合は「背束」という)、内側の2本維管束は心皮のへりを通り、胚珠につながっている維管束(側脈―心皮の場合は「腹束」という)に当たる。
子房の基部の断面。背束と腹束(上の方で2本に分岐する)のペアが13対、同心円上に配列する。未発達の子房室に入る腹束と背束は、他のペアと比べて細く、やや内側に寄っている。へたを取ると、心皮の背束と腹束が筋(筋が取れて透明な点になっているときもある)となって見え、心皮(=袋)の数を数えることができる。| 中軸胎座 | 独立中央胎座 | 側膜胎座 | |
|---|---|---|---|
| 胚珠 | 中軸生 | 側壁生 | |
| 子房室数 | =心皮数 | 1 | |
| 隔壁 | + | - | |
心皮が基本形のまま合着した雌しべでは、子房は心皮に対応する子房室に分かれ、胚珠は子房の中心軸につく。子房の内部での胚珠のつきかた・並び方を胎座といい、このような胎座を中軸胎座[axial placentation]という(オクラ・スイセン・ユリなど)。これに対して、心皮がたたまれずに隣同士とへりでつながりあう場合、子房室は1つとなり、胚珠が子房壁に縦列を作る(スミレなど)。このような場合の胎座を側膜胎座[parietal placentation]という。






1つの子房の中で基部では中軸胎座、先端では側膜胎座と移行する場合もある。
ピーマン(ナス科)。果実の基部の断面は中軸胎座。中央部~先端部では側膜胎座。

独立中央胎座胎座の雌しべの子房断面(3心皮が合生した雌しべの場合)。
中軸胎座と同様に胚珠が子房の中心軸に並ぶが、子房室を隔てる仕切り(隔壁)ができずに、中心軸が独立した突起のようになっているものもあり、独立中央胎座[free central placentation]という。
ハマツメクサ(ナデシコ科)の果実。独立中央胎座に種子がびっしりとついている(白い糸のようなものは、胎座と種子をつなぐ種柄)。
さまざまな雌しべ横断面は、心皮の数と配置、(心皮が複数の場合) 離生か合生か、(合生の場合) 合生の程度と胎座のタイプによって記述することができる。
| 単心皮 | 複数心皮 | |||
|---|---|---|---|---|
| 3心皮 | 5心皮 | |||
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離生 | ![]() |
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| 合生 | 中軸胎座 | ![]() |
![]() |
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| 独立中央胎座 | ![]() |
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| 側膜胎座 | ![]() |
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