根では、先端から基部へと組織の特徴が連続的に移行する。
組織分化した根は表皮・柔組織・内皮・木部・篩部からなり、横断面では外側から中心に向かって次のように同心円状に並ぶ。
1. 表皮 | |
2. 柔組織 | 皮層 |
3. 内皮 | |
4. 柔組織(内鞘) | |
5. 木部 6. 篩部 | |
7. 柔組織 または 5. 木部 |
表皮・内皮はそれぞれ1細胞層だが、柔組織はもっと多数の細胞が、はっきりとした細胞層を作らずに並んでいる。ただ、内皮の内側の柔組織(内鞘」[pericycle])は内皮の外側の柔組織に比べて薄く、ほぼ1細胞層になっていることもある。内鞘の内側には木部と篩部が互い違いに並ぶ。木部と篩部のさらに内側、中心部に柔組織があることもあるが、木部が根の中心まで占めることもある(右上の図)。外側の柔組織と内皮とを合わせて「皮層」[cortex]と呼ぶことがある。
上―エンドウ(マメ科)根の横断面。木部・篩部は中心部にある。 右上―木部・篩部の拡大。中心から木部が放射状に3つあり、その間に篩部がある。篩部の外側には繊維細胞群がある。 右―木部・篩部の一部。木部(左下)と繊維細胞群(右上)に挟まれるように篩部が分布する。 |
セイタカアワダチソウ(キク科)の根の横断面。エンドウと違い、木部は中心部全体を占める。木部断面の四隅は少しへこんでいて、そこに篩部がある。右は一部の拡大で、左下半分が木部、右上半分が皮層で、その間に篩部がある。 |
表皮の細胞(あるいはその一部)は、細胞の土に面した側が管状に突き出して毛のようになり(根毛[root hair])、表面積が極端に広くなっている。根からの吸水はおもに根毛によっていると考えられる。多くの種類では、根毛の寿命は短く、根毛が肉眼で見えるのは根の先端から少し離れた一定の区域だけだ。
表皮を通り抜けた水は、柔組織の中を、細胞を通り抜けたり(左図の1)、細胞壁沿いに伝い抜けたり(左図の2)、細胞と細胞のすきま(細胞間隙; 左図の3)を通って、内皮に達する。内皮では細胞間隙がなく、細胞壁には非透水性物質を含む帯状の部分が隣り合った細胞同士の間にある。一つ一つの細胞で見ると細胞の回りを不透水性物質がはちまきのように取り巻いているように見えるので、カスパリー線[Casparian strips]と呼ばれる。カスパリー線があるため、吸水された水やイオンは導管に入る前に必ず内皮の細胞という「関門」を通ることになる。
新しい根端分裂組織は、木部と内皮にはさまれた部分の柔組織が活発に細胞分裂するようになることで生まれる。この分裂組織が作る新しい根は、内皮、柔組織、そして表皮を突き抜けて外側に伸び出す(このような「突き破り型」の発生を「内生[endogenous]」という)。だから、側根は、次の2つの特徴を持つ。
1つの植物体が持つ根の集合体を根系[root system]という。根系を構成する根は、次の3つだ。
根系全体の形は、上の3つの発達の度合いによって決まる。タンポポ・ダイコン・ニンジンなどでは主根が側根よりもはっきりと長くて太い。長さや太さに大差がない多数の根があるときには、根系は「ひげ根状」になる。多くの単子葉植物では、胚の根端分裂組織からできた根はあまり成長せず、茎の根元からでてくる不定根がひげ根状の根系をつくる(例:トウモロコシ)。双子葉植物でもこの性質を持つものは少なくない。
アカマツ(マツ科)の根系。斜面が崩れて露出したもの。根系はふつう土の中に隠れているが、地上に伸びる根(気根[aerial root])や、後から地表に露出した根が特徴的なかたちを見せることがあり、特に、熱帯・亜熱帯の森林では多くの例を見ることができる。
ガジュマル(クワ科イチジク属)やタコノキ科、ヒルギ類(ヒルギ科)の気根は不定根で、幹から出て着地し、植物体を支える。ツル植物のガジュマルは、幹から無数の気根が出て地面に達し、やがて身体を自分で支えるようになる。タコノキ科の場合は気根が円錐状に広がって太くならない幹を補っている。ヒルギの仲間は、熱帯・亜熱帯の河口の潮間帯に広がるヒルギ林(マングローブ)を構成していて、円錐状に広がる気根のはたらきの1つは、やわらかい泥地での定着を助けることだ。これらの気根を、はたらきに着目して「支柱根」と呼ぶこともある。
ヤエヤマヒルギの気根は、支柱根に加えて、大気中の酸素を取り込む役割ももつ。オヒルギでは膝根が、ヒルギ林の近くに生育するハマザクロやヒルギダマシでは、地中の根から分岐した側根がトゲのように空中に突き出して気根となり、酸素を取り込む。
このように、酸素を根系に供給する気根を「呼吸根」という。この名称は通常の根が呼吸をしてないかのような誤解を与えるが、多くの植物の根は呼吸(土壌中の酸素を吸収・二酸化炭素を排出)をする。マングローブのように、湿地生の樹木では、土壌から酸素が十分に得られず、呼吸根が発達する。
「よじ登り植物」(登攀植物/クライマー植物)[climber]は、他者に取り付いて地上部を支える植物を指す。茎が巻きつく(つる)とは限らないが「つる植物」と呼ぶことが多い。よじ登り植物には茎から出た気根=付着根が凹凸に入り込むものがある。
地表近くの根から幹にかけての部分が成長して壁のようになる構造を「板根」という。支柱根と同じように植物体を支えるものと思われる。
菌類(真菌類)の中には、植物の根をおもに生育の場としていて、菌糸が根の細胞から炭水化物を受け取り、リンや窒素など養分や水分を根の細胞に供給するグループがいる。このように菌類のすみかとなることで利益を得ている根を菌根[mycorrhiza]といい、菌の方を菌根菌[mycorrhizal fungi]という。植物は、菌根によって成長が良くなるほか、乾燥や病原体、重金属、酸性土壌などに対する耐性が強くなる。
菌根には、関与する菌類・植物や形態が違う多数のタイプがある。主な4つを挙げる。
ツツジ科の植物に特有の菌根は、複数のタイプが知られている。子嚢菌がつくる菌根(ツツジ科型内生菌根/エリコイド菌根)は細い吸収根の細胞内に菌糸のコイルが細胞膜を奥深くまで陥入させて嵌まり込む)。イチヤクソウやギンリョウソウでは、樹木に外生菌根をつくる担子菌がツツジ科型内生菌根と外生菌根の特徴を併せ持つような菌根(アーブトイド型・シャクジョウソウ型)をつくる。
植物の根が利用できる養分に乏しい条件を「貧栄養条件」といい、有機物供給が少ない(溶岩地・土壌の薄い尾根など)、分解者の活動が抑制される(ミズゴケ湿原)などを原因とする。ツツジ科植物のエリコイド菌根は土壌の有機物分解を促進するため、貧栄養地での生育を有利にする。実際に、さまざまなタイプの貧栄養地でツツジ科の低木や小低木が豊富に見られ、菌根が植物の生態を左右する典型例の1つとなっている。
ギンリョウソウ(イチヤクソウ科|ツツジ科)・ラン科の一部(ツチアケビ・ムヨウラン・ヤツシロランなど)・ヒナノシャクジョウ(ヒナノシャクジョウ科)・ホンゴウソウ科などは、一生を通じて光合成を行わず、菌根を通じて菌類から吸収した栄養によって生育する。このような植物を菌従属栄養植物[myco-heterotrophic plant](菌類従属栄養植物; 菌類から栄養を得る植物)という。以前は腐生植物[saprophyte]と呼ばれていた。
「腐生」[saprotrophy]は死んだ/枯れた動植物・排泄物・落葉などを分解して栄養を得ることを指す。「腐生植物」は名前に反して「腐生する植物」ではなく「菌類に寄生する植物」だ。
菌従属栄養植物は、栄養の全てを地中の菌根から得ており、開花・結実のためだけに地上に現れる(キノコ類の子実体と同じ)。地上のシュートは緑色ではなく白・黄・茶・赤などで、葉は小型・鱗状で茎にはりついている。
菌従属栄養植物に寄生される菌類は、腐生菌もあれば外生菌根菌もある。外生菌根菌の場合は、樹木→外菌根菌→菌従属栄養植物と栄養が移行することになる。
マメ科・ハンノキ科・モクマオウ科・グミ科・ヤマモモ科・ドクウツギ科などの根では、空気中の分子窒素(空気の8割を占めるが植物は直接吸収できない)をアンモニアに変換する(窒素固定[nitrogen fixation])ことができるバクテリア(細菌)の増殖の場となり、植物はバクテリアを経て空中の窒素を養分として使えるようになる。
根毛からバクテリアが入り込むと皮層の細胞が分裂して根は塊状の根粒[root nodule]となる。皮層の細胞はバクテリアで充満している。
根粒に住むバクテリア(根粒バクテリア/根粒細菌/根粒菌[root nodule bacteria])はマメ科ではRhizobium属など複数のグループ(「根粒バクテリア」でこちらのみを指すこともある)、他の科では放線菌に含まれるFrankia属だ。
シロツメクサ(マメ科)の根粒。根粒ではヘモグロビンとよく似たレグヘモグロビンが合成され、赤味を帯びる根粒は作らないが、ソテツ(裸子植物)の根やアカウキクサ属(アゾラ)(シダ)のシュートにもシアノバクテリア(=藍色細菌=藍藻)が住んでいて、空中窒素を植物に与えている。
窒素固定できるバクテリアを住まわせているような植物は、土壌が少ない、あるいは土壌に窒素分が少ないような場所では、他の植物より生育がいい。例えば、表土がはぎ取られたような場所は、ハンノキ科・ヤナギ科・ドクウツギ科・ソテツ類に好まれる傾向がある。このため、ハンノキ科のオオバヤシャブシが、切り通しのがけの緑化に植えられることが多い。
休耕期の水田にゲンゲ(レンゲソウ)(マメ科)の種を播き、レンゲ畑にするのは、根粒バクテリアの活動によってレンゲが蓄積した窒素分を土壌に与える。同じ理由で、ダイズと他の作物を代わる代わる栽培することも行われてきた。