1-3. 木部・篩部

植物の器官は、かたちとはたらきが異なる(分化した)細胞・組織の組み合わせで出来ている。ほとんどの器官に普遍的に存在するのが、維管束と表皮だ。

表皮と維管束を除く部分を基本組織[ground tissue; fundamental tissue]と呼び、植物器官を表皮系・維管束系(木部と篩部)・基本組織系に分けることがある。基本組織系を構成する組織はさまざまで、光合成・養分貯蔵など多様なはたらきを担うが、隙間を埋めて形を保つためだけの組織が大きな容積を占めることも多い。

1-3-1. 導管(導管)・仮導管・木部
導管要素導管要素の模式図。細胞壁が部分的に裏打ちされて肥厚し(1)、両端の細胞壁が消失して隣の細胞に貫通し(2)、細胞本体が崩壊する(3)ことで形成される。

導管[vessel]は、土壌から吸収した水溶液が上昇する管で、一列に並んだ円柱形の細胞で細胞と細胞を仕切る細胞壁が貫通し、細胞自体は死んでしまうことで形成される。導管を構成する1つ1つの細胞は、導管要素[vessel element/vessel member]という。

カボチャ カボチャ
カボチャ(ウリ科)の導管(横断面)。左―雌花柄・右―茎(SEM像)

貫通していない部分の細胞壁は部分的にリグニンを含む二次細胞壁がついて厚くなる。厚くなった部分は螺旋(らせん)やリングを描くことが多い。そのため、顕微鏡で導管を横から見ると、まるでバネのように見え、断面を見ると厚い縁を持った空っぽの穴に見える。

カボチャ カボチャ
横から見たカボチャ(ウリ科)花柄の導管(家庭用漂白剤で軟化・脱色後にサフラニン染色・押しつぶしプレパラート)。細胞壁が帯状に厚くなっている。帯状の肥厚部は、螺旋(らせん)を描く場合もリング状になる場合もある。

位置 形成順 径(太さ) 肥厚部の間隔
中心側
表面側

上の2枚の図は、いずれも左が茎の中心側、右が外周側にあたる。並んでいる3本の導管には、表のような違いがある。導管は茎の中心側→表面側への順で形成されるが、茎が細いうちに形成された道管よりも、後で茎が太くなってから形成される導管の方が太くなる。また、導管の形成後も茎が伸長して導管も引き伸ばされるため、先に形成された導管ほど引き伸ばされる度合いが大きくなり、肥厚部の間隔が大きくなる。

カボチャ カボチャ
カボチャ花柄の導管。左―1本の導管で螺旋上の肥厚とリング状の肥厚の両方が見られることも多い。右―らせん状に肥厚している導管が外力で引きちぎられると、上の写真のように肥厚部の螺旋がバネのように伸びる。レンコンを包丁で切るとき、断面から伸びてくることがある細いバネのようなものは、これにあたる。

仮導管[tracheid]も導管要素と同じようなはたらきをするが、細胞どうしを仕切る薄い細胞壁が残り、水溶液は、仮導管から仮導管へと細胞壁を透過して移動する。被子植物の多くと裸子植物の一部(グネツム類)は導管・仮導管の両方を持つ(導管の方が多いのがふつう)が、シダ植物・裸子植物・少数の被子植物ではつながった仮導管のみが水溶液の上昇路となる。

スギ スギ
スギ(スギ科)の材断面(SEM像)。容積の多くを仮導管が占める。
「導管」は細胞列、「仮導管」は1個の細胞を指す言葉なので、本来は「導管・仮導管」ではなく「導管要素・仮導管」と並べるべきところだ。

導管・仮導管とも、導水管であると同時に植物体を補強する役割も果たす。導管・仮導管の集まっている部分を木部[xylem]と呼ぶ。木部は、おもに導管・仮導管と形成中の導管・仮導管からなるが、柔細胞や繊維細胞が混じっていることもある。

1-3-2. 篩管(師管)・篩部(師部)
篩管要素篩管要素の模式図。細胞分裂で篩部伴細胞(1)と分かれ、両端の細胞壁が篩板となって(2)形成される。核や液胞が崩壊する(3)が、細胞壁近くにタンパク質を多く含む細胞質が残存する。

篩管[sieve tube]は光合成で出来た糖を含む水溶液が移動する通路だ。導管・仮導管と同様に列を作っている細胞が空洞化する(核は消失するが細胞質はわずかに残る)ことでできるが、仕切っている細胞壁は完全に貫通するのではなく、小穴がたくさん空くことで両側がつながる(この部分が篩―ふるい―[sieve]に似ているため「篩管」の名が付いた)。導管の場合と同じように、篩管を構成する1つ1つの細胞は、篩管要素[sieve tube element/sieve tube member]、または篩要素[sieve element]という。篩管要素は、空洞化する前に一回分裂して列の横に小さめの細胞(伴細胞/篩部伴細胞)を切り出す。篩管の細胞と違い、伴細胞は中身が詰まっている。

篩管の集まっている部分を篩部[phloem]と呼ぶ。篩部では、篩管・篩部伴細胞が柔細胞の中に散在することが多い。また、篩管は道管と比べると他の細胞とのかたちの違いが小さい。そのため、顕微鏡下では、篩部は木部ほど容易に見分けることができない。

「篩」の字が常用漢字に含まれていないために、代わりに「師」を使うことがある(師管・師部)。また、「導」をよりやさしい「道」で代用することもある(道管・仮道管)。
カボチャ
カボチャ茎断面の篩管

カボチャ カボチャ
カボチャ(ウリ科)花柄の縦断面。上―永久プレパラート(①②導管・③形成中の導管・④形成層・⑤篩管と伴細胞)。左―一時プレパラート(染色済)。一時プレパラートでは、篩管細胞内のタンパク質(青く染まっている)の分布を見ることができる。永久プレパラートでは、作成過程の固定や脱水によってタンパク質は消失するか篩板近くに塊状に凝縮する。

カボチャ
カボチャカボチャの雄花柄の縦断面(上)と横断面(左)に見られる篩管と伴細胞(パラフィン切片・ヘマトキシリン-サフラニン-ファストグリーン三重染色)。縦断面では、篩管要素と2個の伴細胞でできた単位が横に並び、その下にやや形成後時間が経った篩管が連なっている(伴細胞は方向が悪いせいか見えない)。

カボチャ花柄篩管
カボチャ雌花柄の篩部の縦断面(パラフィン切片・ヘマトキシリン-サフラニン-ファストグリーン三重染色)。パラフィン切片では、組織を固定するときに篩管細胞内のタンパクが篩板近くで凝縮する(黒く染まっている物質)。このため、横断面に黒い塊が見えることがある。

カボチャ
カボチャの雄花柄の縦断面に見られる篩管と伴細胞(徒手切片・アニリンブルー+サフラニン染色)。カボチャやキュウリは篩管の細胞の観察によく使われている。中央に篩板がある。篩管細胞内の細胞膜近くにタンパク(青く染まっている)が分布している。

カボチャ
カボチャ子房断面に見られる篩管と伴細胞(パラフィン切片・ヘマトキシリン-サフラニン-ファストグリーン三重染色)

カボチャ カボチャ
カボチャ
カボチャ花柄の篩部の横断面(パラフィン切片・ヘマトキシリン-サフラニン-ファストグリーン三重染色)。切断された位置により、篩板が見えることもあり、空っぽの細胞だったり、黒いタンパクの塊を含む細胞だったりする。篩板のところ以外では伴細胞(細胞質の詰まった小さい細胞)と隣り合わせる。

1-3-3. 維管束

木部と篩部が互いに近接していることが多いので、両者をまとめて維管束[vascular bundle]という。維管束が器官内部でどのように分布するか、また、維管束の中で木部・篩部がどういうふうに組合わさっているかは、器官の内部構造を観察するときの重要なポイントとなる。

ノビル スイバ ノビル・スイバ
左―ノビル(ユリ科|ネギ科)・右―スイバ(タデ科)の茎の維管束。いずれもパラフィン切片・ヘマトキシリン-サフラニン-ファストグリーン三重染色で、下が茎の中心方向。1―篩部・2―形成層・3―形成途中の導管・4―導管

図左は単子葉植物の維管束の横断面の例で、木部と篩部はほぼ接しており、柔組織に取り囲まれている。

図右は双子葉植物(真正双子葉類と基部被子植物)の維管束横断面の例だ。木部には導管と形成中の導管があり、木部と篩部の間には分裂中の細胞が整然と並んだ形成層がある。

アマドコロの維管束アマドコロ(ユリ科|キジカクシ科トックリラン亜科)の茎の維管束(徒手切片・サフラニン染色)。表皮近くにある維管束の多くはこのように繊維細胞に取り囲まれていた。篩部はオレンジ色、導管は暗赤色、繊維細胞は鮮紅色と微妙に染まり方が違う。染色液の濃度や染色時間を加減すると、1種類の染色液でもこのように染め分けることができる場合がある。

成長した茎では、維管束が繊維細胞群や厚角細胞群を伴うことが多い。アマドコロの例では維管束全体が繊維細胞群に囲まれている。シャクの例では、形成層が繊維細胞群に分化し、篩部と木部にはさまれている。

シャク茎維管束シャク茎維管束
シャク(セリ科)の茎の維管束とその周辺(パラフィン切片・ヘマトキシリン-サフラニン-ファストグリーン三重染色)。カラーの方は横断面(上)と縦断面(下)を示す。写真右(茎の外側にあたる)から、表皮(ep)・柔組織(pa)・厚角組織(col)・柔組織(pa)・繊維組織(fib)・篩部(s)・形成層(ca)・繊維組織(fib)・木部(v―導管)・柔組織(pa)の順に並んでいる。木部の外側(右側)の繊維組織と導管は細胞壁にリグニンが多く、サフラニンによって真紅に染まっている。下は篩部周辺の拡大で、上から柔組織・繊維組織・篩部・形成層・繊維組織と並ぶ。
シャク茎篩部シャク茎篩部

単子葉植物、特にイネ科では、維管束の回りを一重に取り巻く細胞(維管束鞘[bundle sheath])が発達するものが多い。維管束鞘の細胞は、ふつうは葉緑体を含まないが、トウモロコシ・ギョウギシバ・チガヤのようなC4植物では、維管束鞘の細胞も葉緑体を持つ。

ギョウギシバ
チガヤ上: ギョウギシバ(イネ科)の葉の横断面
左:チガヤ(イネ科)の葉の縦断面

ここまでの例のように、被子植物の茎では、篩部と木部が対になる並立維管束[collateral vascular bundle]で、外周側に篩部が位置する[ectophloic]場合が最もふつうに見られる。しかし、カボチャの茎のように木部の外周側と中心側の両方に篩部がある[amphiphloic]複並立維管束[bicollateral vascular bundle]を持つものもある。

カボチャ
カボチャ(ウリ科)の雌花柄の断面に見られる複並立維管束(パラフィン切片・ヘマトキシリン-サフラニン-ファストグリーン三重染色)

カボチャカボチャ(ウリ科)茎横断面の複並立維管束(走査電子顕微鏡像)。上が茎の外周側にあたり、篩部を青、木部を緑、形成層を赤で示す。

シダ植物の茎では、木部を篩部が取り囲む外篩包囲維管束が数本リング状に並ぶ配列が最もふつうに見られる。

ホシダ ホシダ
ホシダ ホシダ
ホシダ(ヒメシダ科)茎の横断面と維管束。断面には数個の外篩包囲維管束が見られ、個々の維管束では、仮導管が集まった木部を篩部が取り囲んでいる。

主な維管束型の横断面。p(淡いグレー)が篩部、x(濃いグレー)が木部を示す。

茎や根の芯の、維管束が通っている領域を中心柱といい、さまざまなタイプがある。

中心柱 主な中心柱型の横断面。濃いグレーで木部、淡いグレーで篩部を示す。

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