雌雄異熟(4)
両性個体の雌雄異熟
花や花序の雌雄異熟が、さらにまとまって同調する場合がある。とくに、個体全体で花や花序が同調して雌性期・雄性期の変化を示すと、両性個体が時間によって「ほとんど雄」だったり「ほとんど雌」だったりする。このようなパターンは、「同調性異熟」(Synchronized dichogamy; Lloyd & Webb 1986)または「時間的雌雄異株」(Temporal dioecism; Cruden 1988)と呼ばれる。
Lloyd DG, Webb CJ. 1986. The avoidance of interference between the presentation of pollen and stigmas in angiosperms: I. Dichogamy. New Zeal. J. Bot. 24: 135-162.
Cruden RW. 1988. Temporal dioecism: systematic breadth, associated traits, and temporal patterns. Botanical gazette 149(1): 1-15.
ヤツデ(ウコギ科)。上に突きだした軸に多数の球形の花序がつく。左の写真では咲いている花序は雄性期ばかり、上では咲いているのは雌性期の花序ばかり。
ヤツデ2個体における雄性期の花序と雌性期の花序の数の変化(2007~2008)
同調性がなければ、雌性期の花と雄性期の花が混在することになる(クサギ)。また、花序が送受粉の単位である場合は、雄性期の花序と雌性期の花序が混在する(オオニシキソウ・ジュズダマ)。
「半同調性異熟」
個体全体の同調性ははっきりしないものの、より小さな単位(枝・花茎・花序など)で局所的な同調性が見られる場合もある。Lloyd & Webb (1986)は「半同調性異熟」[Hemisynchronous dichogamy]と呼んでいる。
スズメノヤリ(イグサ科)。根元から多数の花茎を出す。1本の花茎のてっぺんにつく花序では、同調性が見られるが、個体としては雌性期の花茎と雄性期の花茎が混在する。
クスノキ(クスノキ科)の花。雌性期(右)から雄性期(左)へ移行する雌性先熟。
春、新たに伸長した枝(当年枝)の葉腋から集散花序が伸び出す。花序の数は、枝の大きさによって違う。
1本の当年枝についた6花序における雌性期の花と雄性期の花の数の変動(2007年5月、横軸は日付)。f(赤)は雌花、m(青)は雄花。最下段は6花序の合計を示す。それぞれの花序は部分的に同調性を示すが、花序間ではずれがあり、当年枝の単位では同調性は打ち消される。
上と同じ個体の、別の当年枝。この当年枝では5/16までは花序間で同調が見られるが、上の当年枝とはずれている。
個体レベルの雌雄異熟のタイプ分け
花レベルの雌雄異熟は、1サイクルで終わるが、個体レベルの雌雄異熟は1サイクルに留まらないことがある。
1サイクル
雄性先熟
雌性先熟
1.5サイクル: 二重異熟(仮訳)[duodichogamy]または2回型(同調性)雌雄異熟(岡崎 1999)
雄→雌→雄: アオギリ(アオギリ科|アオイ科)など。Luo & al. (2007)は、二重異熟が知られているグループとしてカエデ属とキンセンセキ属(カエデ科|ムクロジ科)・クリ(ブナ科)・マルヤマカンノノキ属(トウダイグサ科|コミカンソウ科)・ヒトモトススキ属(カヤツリグサ科)の5つを挙げている。しかし、実際にはずっと多いと推測される。
雌→雄→雌: まれ(?)。Rhoiptelea chiliantha (ロイプテレア科)では雌性先熟の両性花が穂状に集まった花序と雌花の花序がつき、両性花序の雌性期→両性花序の雄性期→雌花序の順に進む。しかし、両性花は結実しないので、実質的には雄性先熟だ(Sun & al. 2006)。
多サイクル: 反復異熟[Multi-cycle dichogamy]または多回型(同調性)雌雄異熟(岡崎 1999)
日周サイクル: 異型異熟を示す種の一部
より長時間・不定長のサイクル: ヤツデをはじめ、セリ科やウコギ科に多数の例(岡崎 1999)
岡崎純子 1999 傘を差した植物たち: セリ科シシウドの性表現と開花習性. 大原雅(編)『花の自然史』北海道大学図書刊行会 pp.121~135
Sun SG, Lu Y, Huang SQ 2006 Floral phenology and sex expression in functionally monoecious Rhoiptelea chiliantha (Rhoipteleaceae). Botanical Journal of the Linnean Society 152: 145-151
Luo S, Zhang D, Renner SS 2007 Duodichogamy and androdioecy in the Chinese Phyllanthaceae Bridelia tomentosa. American Journal of Botany 94:260-265 link
雄性先熟[protandry]
雄性期
雌性期
雌性先熟[protogyny]
雌性期
雄性期
二重雌雄異熟(仮訳) [duodichogamy]
雄性期
雌性期
雄性期
雌性期
雄性期
雌性期
反復雌雄異熟
雄性期
雌性期
雄性期
雌性期
雄性期
雌性期
…
雌性期
雄性期
雌性期
雄性期
雌性期
雄性期
…
アオギリ(アオギリ科|アオイ科)の花序。雄性期→雌性期→雄性期、と移行する。
1本のアオギリの10ヶ所で花序の一部をマークし、毎日正午前後に雄花・雌花を数えたもの(2008年)。m(濃紺)が雄花、f(黄土)が雌花。
クリ(ブナ科)。雄花は穂状につく。一部の雄花序のつけねに雌花序(雌花3つでできていて、「いが」なる部分につつまれている)がついている。雌花序を伴わない雄花序は先に開花。雌花序の先にある雄花序は、雌花序より遅れて咲く。
雄→雌→雄の二重異熟では、2度の雄性期に次のような違いが見られることが多い(アオギリ・カエデ属・ナンキンハゼなど)
第1雄性期
第2雄性期
花数
多
少
雌性期との重なり
ない/小さい
大きい
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