シソ科の唇形花

シソ科では、花びらが一体化して1つの筒になっている。筒先は開いて、いくつかの裂片に分かれている。オドリコソウやヤマハッカでは、筒の先が大きく上下に割れている。このようすを口に例えて、上の方を「上唇」、下の方を「下唇」と呼び、花全体を「唇形花」と呼ぶ。シソ科の中には、はっきりと上下に分かれていないものもあるが、それらでも、上唇と下唇に対応する部分を区別することが多い。

オドリコソウとヤマハッカ

典型的な唇形花のオドリコソウとヤマハッカは、共通点も多いが、上唇と下唇のようす、葯と柱頭の位置は対照的だ。


オドリコソウ ヤマハッカ
共通点 萼(がく) カップ状で先が5つに割れている
花冠 花びらは一体化して(合弁花)先が曲がった筒(花筒)になり、先がくちばしのように上下に割れている。正面から見ると左右相称。蜜は花筒の底にたまる
雄しべ 4本で根元は花冠についている。長い花糸の先に葯がつく。
雌しべ 雌しべは1つ。花筒の底に子房がある。子房は4つにくびれていて、その中心から長い花柱が伸びる。
送粉 送粉者はおもにハナバチ。下唇に着地してから、花筒に潜り込んで奥の蜜を吸う。
相違点 上唇 先が傘状になっていて、傘の下に葯と柱頭がある 反り返っていて、濃い色の斑点(蜜標)がある
下唇 へら状に広がり、斑点がある がま口のように上向きに2つ折りになり、葯と柱頭を包む
送粉 柱頭と葯はハナバチの背中にこすりつけられる(nototribic) 柱頭と葯はハナバチの腹にこすりつけられる(sternotribic)

オドリコソウ
オドリコソウ オドリコソウ
花冠はピンク色だが、白い花冠の個体もときどき混じっている

オドリコソウ
オドリコソウの花びらは一体化して先が曲がった筒になり、先がくちばしのように上下に割れて、上唇は傘のようになり、下唇はひれ状になっている。葯と柱頭は、傘の下に隠れている。ハナバチが下唇に着地して筒にもぐり込んで蜜を吸うときに、葯と柱頭はハチの背中に触れる。

オドリコソウ オドリコソウ
花に潜っているハナバチと、吸蜜が終えて花から離れようとしているところ

オドリコソウ花に潜り込んでいるトラマルハナバチ

オドリコソウ
傘のような上唇を下からのぞくと、花粉を出している4つの葯とYの字形の柱頭がある。

オドリコソウ
上唇を外して葯と柱頭を上から見たところ。葯は、花糸先端の葯付着部(葯隔[anther connective])の両側に分かれて、まるで1本の雄しべに葯が2つついているように見える。

オドリコソウ
つぼみの縦断面

オドリコソウ
葯・柱頭付近の拡大。花糸は、花筒の内側についている。花柱はさらに花の奥に伸びる。

オドリコソウオドリコソウ
子房付近の縦断面(左)と横断面(右)。子房の上方には、花筒のくびれと内向きの毛がある。子房は、胚珠が1つずつ入った4つの子房室からなる。子房室はほとんど互いに独立していて、基部でだけつながり、そこから花柱につながる。
オドリコソウ オドリコソウ オドリコソウ オドリコソウ
地域によっては白花のみが見られる
ヤマハッカ
ヤマハッカヤマハッカ
ヤマハッカオドリコソウと逆に、上唇がひれ状、下唇は二つ折りになっていて、葯・柱頭は下唇の中に隠れている。ハナバチが下唇に着地して筒の中に潜り込むときに、葯と柱頭がハチの腹に触れる。

ヤマハッカ
ハナバチ(おそらくスジボソコシブトハナバチ)が花をこじ開けて嘴を差し込んでいる。

ヤマハッカヤマハッカ
上唇や花筒は近紫外線を反射、下唇は吸収している。


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