マムシグサとサトイモ科の肉穂花序

サトイモ科のほとんどでは、やや太い棒のような軸の表面に、花柄なしで花がびっしりと敷き詰められるようにつく。このような花序を肉穂花序[spadix]という。

植物の全形
マムシグサ直立した茎の先端に花序がつく。茎の途中からは2枚の葉が横に広がる。雌雄異株で、雄花だけをつける雄株と、雌花だけをつける雌株とがある。

マムシグサ茎は一見太く見えるが、断面を見ると、2枚の葉の葉鞘で厚く囲まれており(さらに外側は、薄い鱗片葉の葉鞘が取り囲む)、本当の茎は意外と細い。外側から見える太い茎は、中を通っている細い真の茎と区別して「偽茎」と呼ぶ。

マムシグサ苞葉にくるまれた「つの」のような芽が伸び、苞葉のすきまから2枚の葉と花序が展開する。

肉穂花序
マムシグサマムシグサ
肉穂花序のすぐ下の縞模様のある葉(仏炎苞[spathe]という)が広がって花序をくるむ。仏炎苞の先は、雨よけのように前に伸びる。緑色の仏炎苞を持つ株と、濃い紫色の仏炎苞を持つ株が、混じって生えている。

マムシグサ仏炎苞をめくると、鮮やかな白い筋(白条)が縦に走っている。

マムシグサマムシグサ
仏炎苞の半分を切り取ったところ。1―仏炎苞の半分、2―附属体(付属体)、3―附属体の柄、4―花(この花序の場合は雄花)の集まり。附属体の裾は少し広がっている。

マムシグサマムシグサ雄株の花序と雄花の拡大。雄しべ3個だけの単純な花。

マムシグサマムシグサマムシグサ
雌株の花序と雌花。雌しべ1個だけで、子房室の底に4つの胚珠がついている。

マムシグサマムシグサ仏炎苞の開口部から入った虫は、附属体の裾に阻まれて逆戻り出来ない。雄花序の仏炎苞の基部(左)には小さなすきまがあって、花粉を体につけた虫の出口となる。雌花序の仏炎苞の基部(右)は、堅く閉じていて、虫は出られない。

マムシグサ
開花期が終わったころの雌花序の仏炎苞をめくると、閉じこめられたハエ類の死体が見られる。

結実
マムシグサ秋に入ると、ハエの犠牲によって受粉した雌花は緑の粒から赤い果実に変わっていく。葉が枯れるころには、完全に赤く熟する。
マムシグサマムシグサ
マムシグサ
種子

マムシグサ小さい株が束になって生えていることがある。雌花序が実をつけたまま倒れ、そのまま発芽したのかも知れない。

性転換
マムシグサマムシグサの雌雄は、株の大きさによって決まることが知られている。大きい株は雌になり、小さい株は雄になる(さらに小さい株は開花しない)。大学周辺のマムシグサ(2006年度卒業生の卒業研究)では、偽茎直径15mmあたりを境にして雌雄が分かれている。だから、成長して個体サイズが大きくなるにつれて雄→雌と変化し、環境が悪く個体サイズが小さくなると雌→雄と変化することもある。このように、同じ個体が条件によって性を変えることを「性転換」[sex change]という。

マムシグサ
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