7-2. 雌しべと心皮
7-2-1. 心皮
コブシ

アケビ科・モクレン科などでは、複数の雌しべが花の中心を取り巻くようについており、雌しべの中心側には1本の筋がある。子房を輪切りにすると、内部は1室だ。

左: コブシ(モクレン科)の雄しべと雌しべ。多数の雌しべが柱状に集まる。
下: アケビ(アケビ科)の雌花の中心部
アケビ

サクラやマメ科の花の雌しべは1つだけで、片側に1本の筋があることや子房は1室なところはコブシやアケビと共通だ。

カラミザクラエンドウ
カラミザクラ(バラ科)とエンドウ(マメ科)の花後にふくらみ始めた子房

ユッカ・オクラなどでは、雌しべは1つだけで中心に位置する。横断面を見ると、子房は複数の室に分かれていて、子房室1つずつを含む単位構造に分割できる。

ユッカ(キミガヨラン)オクラ
ユッカ(キミガヨラン; リュウゼツラン科)とオクラ(アオイ科)の子房横断面

ヤマゴボウ(ヤマゴボウ科)ではミカンの房のような形の雌しべ8個が花の中心を取り巻くが、同じ属のヨウシュヤマゴボウでは丸い雌しべ1個が花の中心に位置する。仮にヤマゴボウの雌しべどうしが融合したとすると、ヨウシュヤマゴボウの雌しべとそっくりな姿となるだろう。

ヨウシュヤマゴボウヤマゴボウ
上: ヤマゴボウ(ヤマゴボウ科)の若い果実

左: ヨウシュヤマゴボウ(ヤマゴボウ科)の若い果実

このようなさまざまな雌しべのあり方は、心皮[carpel]という単位によって、

  1. 心皮の数と配列
  2. (心皮が複数の場合) 心皮どうしが合着している(合生)か/分離している(離生)か

で表現することができる。

心皮模式図へり近くに胚珠がついた葉(A)・縦に2つ折になった葉(B)・心皮(C)の模式図。1―柱頭、2―花柱、3―子房、4―縫合線、5―腹束、6―背束、7―胎座。

心皮は、萼片・花びら・雄しべと同様に葉に相当する器官で、へり近くに胚珠がついた葉が胚珠を封じ込めるように折りたたまれた、ミカンの房のような基本構造を持つ。

植物心皮
合生/離生
サクラ・マメ科1 (単心皮)
コブシ多数離生
アケビ6
ヤマゴボウ8
ユッカ3合生
オクラ5
ヨウシュヤマゴボウ10前後

複数の心皮が合わさって(合着して)1つの雌しべになっている場合を「合生心皮の」・「心皮は合生」[syncarpous]と表わし、複数の心皮が離れている(心皮=雌しべ)の場合を「離生心皮の」・「心皮は離生」[apocarpous]と表わす。1つの心皮だけがある場合は「単心皮の」[monocarpous]あるいは単に「心皮は1つ」と表わす。


複数の器官がつながっていることを合着(がっちゃく)という。心皮の合着は、原基の段階でつながり、その後は一体として成長する(先天的合着)ことが多いが、ある程度心皮が形成された後で癒着する(後天的合着)こともある。

雌しべ断面 雌しべ断面
5心皮で離生心皮の場合と合生心皮の場合の子房断面

心皮数と雌しべ数との関係は次のようになる。

心皮数雌しべ数
離生心皮複数=心皮数
合生心皮1
単心皮1

がく片・花びら・雄しべと同じように、心皮も、(1)葉に相当し、(2)花の中心軸に側生する器官だ。だから、心皮という単位を使うことで、花の部品の数や配置を一貫した枠組みでとらえることができる。

また、ヤマゴボウとヨウシュヤマゴボウのような近縁な種の間の雌しべの違いを、心皮の合着の程度の違いとして、よりすっきりと解釈できる。

離生心皮・単心皮の縫合線

心皮=雌しべの場合(離生心皮や単心皮)は、果実になっても心皮の縫合線が1本の縦筋や縦溝となって残る。

ムベムベ
ムベムベ(アケビ科)の雌花と果実。離生した3心皮が果実になる。

エンドウエンドウエンドウ
エンドウ(マメ科)の果実。上から側面・背面(縫合線側)・腹面。
エンドウエンドウの果実の横断面。下が縫合線。
エンドウ
エンドウの果実を縦に裂いて開いたところ

ウメ・サクラ・モモ・スモモの果実では、凹んだ筋が縫合線に当たる。

ウメウメ(バラ科)の若い果実

カラミザクラ
カラミザクラ(バラ科)の果実
7-2-2. 合生心皮
合着の程度

離生か合生かは子房の合着によって区別するが、子房の下半分だけが合着するような中間的な段階もある。合生心皮でも、以下のように花柱や柱頭の一体化の程度ははさまざまだ。

などのパターンが見られる。

離生心皮であっても、花柱と柱頭が成長の過程で後天的に合着することがある(アオギリなど)。

アオギリアオギリ(アオギリ科|アオイ科)の雌花。子房の回りに退化した雄しべがついている
アオギリアオギリ
開花後、花柱がしおれると5つの子房が離れていく
アオギリ横断面
心皮の数・配置と対応する特徴
オクラ
オクラの花柱は心皮数(5)と同じ数に分岐し、それぞれの先端に団子状の柱頭がある

合生心皮の雌しべを構成する心皮の数や配置は、

から推定できることがほとんどだ。しかし、心皮の構造が典型的でないなどの理由で、簡単に推定できないこともある。

維管束

合生心皮の雌しべでは、それぞれの心皮の維管束は独立に雌しべに入っていく。ミカン類(ミカン科)の雌しべは、10~15個の心皮でできた合生心皮で、各心皮は「ミカンの房」に対応している。雌しべには各心皮の維管束が独立に入るが、熟したミカンの実でも、へた(萼)を取って雌しべの付け根だったところを見ると、ちぎれた維管束の筋か、または維管束が取れたあとの穴が同心円上に並んでいる。これの数を数えると、(たまにちょっとずれることもあるが)皮をむかなくても心皮数=房の数を当てることができる。

ウンシュウミカンウンシュウミカンウンシュウミカンウンシュウミカン
ウンシュウミカン(ミカン科)の果実、へた、へたを取った痕、中のふさ

ナツミカン子房断面
ナツミカン子房断面ナツミカン(ミカン科)の子房断面を見ると後で房になる部屋(子房室)があり、その中に胚珠が入っているのが見える。この例では、12室の胚珠が入った子房と1室の未発達な子房(胚珠が入っておらず、細いスリットのように見える)がある。一つ一つの子房室の外側に1本の維管束、内側に2本の維管束がある(矢印で示す)。外側の維管束は心皮の中軸を通る維管束(中脈―心皮の場合は「背束」という)、内側の2本維管束は心皮のへりを通り、胚珠につながっている維管束(側脈―心皮の場合は「腹束」という)に当たる。
ナツミカン子房断面子房の基部の断面。背束と腹束(上の方で2本に分岐する)のペアが13対、同心円上に配列する。未発達の子房室に入る腹束と背束は、他のペアと比べて細く、やや内側に寄っている。へたを取ると、心皮の背束と腹束が筋(筋が取れて透明な点になっているときもある)となって見え、心皮(=袋)の数を数えることができる。
雌しべの横断面と胎座(胚珠のつき方)
中軸胎座独立中央胎座側膜胎座
胚珠中軸生側壁生
子房室数=心皮数1
隔壁

心皮が基本形のまま合着した雌しべでは、子房は心皮に対応する子房室に分かれ、胚珠は子房の中心軸につく。子房の内部での胚珠のつきかた・並び方を胎座といい、このような胎座を中軸胎座[axial placentation]という(オクラ・スイセン・ユリなど)。これに対して、心皮がたたまれずに隣同士とへりでつながりあう場合、子房室は1つとなり、胚珠が子房壁に縦列を作る(スミレなど)。このような場合の胎座を側膜胎座[parietal placentation]という。

雌しべ断面雌しべ断面
中軸胎座と側膜胎座の雌しべの子房断面(3心皮が合生した雌しべの場合)。

オクラミニトマト
中軸胎座のオクラ(アオイ科)とミニトマト(ナス科)

キュウリコスミレ
側膜胎座のキュウリ(ウリ科)とコスミレ(スミレ科)

1つの子房の中で基部では中軸胎座、先端では側膜胎座と移行する場合もある。

ピーマンピーマン(ナス科)。果実の基部の断面は中軸胎座。中央部~先端部では側膜胎座。
ピーマンピーマン

雌しべ断面独立中央胎座胎座の雌しべの子房断面(3心皮が合生した雌しべの場合)。

中軸胎座と同様に胚珠が子房の中心軸に並ぶが、子房室を隔てる仕切り(隔壁)ができずに、中心軸が独立した突起のようになっているものもあり、独立中央胎座[free central placentation]という。

ハマツメクサハマツメクサ(ナデシコ科)の果実。独立中央胎座に種子がびっしりとついている(白い糸のようなものは、胎座と種子をつなぐ種柄)。

コナスビ
コナスビ(サクラソウ科)の果実。裂開して、種子が脱落したあと。
7-2-3. 雌しべ横断面の多様性

さまざまな雌しべ横断面は、心皮の数と配置、(心皮が複数の場合) 離生か合生か、(合生の場合) 合生の程度と胎座のタイプによって記述することができる。

単心皮 複数心皮
3心皮 5心皮
心皮模式図 離生 雌しべ断面 雌しべ断面
合生 中軸胎座 雌しべ断面 雌しべ断面
独立中央胎座 雌しべ断面
側膜胎座 雌しべ断面

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