植物の生育方式の区分で日常的に使われるのは「木」と「草」だ。
多くの植物は木本・草本のどれかに入るが、どのグループにも当てはまらないものもあり、2つのグループの性質を併せ持つものもある。寿命は長いが二次成長しない地上茎をもつタケ類(イネ科)やヤシ類(ヤシ科)は前者、一部の多年生つる性植物は後者だ。
木本は、高さ(実際の高さではなく、潜在的に到達し得る高さ)とシュートの寿命によって高木と低木とに区別されるが、はっきりとした境界があるわけではない。やや低めの高木を「亜高木」、低めの低木を「小低木」「矮性低木」のように細分することもあるが、区別はさらにあいまいだ。また、他物に取り付いて伸びるつる性植物は、高さもシュートの寿命も(巻きつく対象など)条件次第で変わるので、高木と低木の区別どころか木本と草本の区別さえも意味をなさないことが多いので、ここでは別枠にする。
植物体 | 最大樹高 | シュート寿命 | ||
---|---|---|---|---|
高木 | 自立 | 数m超 | 永続的 | |
低木 | 数m以下 | |||
有限 | ||||
つる性木本 | 他物に依存 | 可変 | 可変 |
高木・低木・つる性木本とも、一年のどの時期でも生葉がついている常緑樹[evergreen tree/shrub/woody vine]と、冬・乾期などの生育不適期に生葉がついていない時期がある落葉樹[deciduous tree/shrub/woody vine]とがある。上の高木/低木/つる性木本と組み合わせて、例えば「常緑高木」のように組み合わせて表現する。
葉がつく枝 | 厚み | 上面 | 葉脈 | |
---|---|---|---|---|
常緑樹 | 当年枝・前年枝等 | 厚い | 暗緑色・光沢が強い | より不明瞭 |
落葉樹 | 当年枝のみ | 薄い | 明緑色・光沢が弱い | より明瞭 |
常緑樹と落葉樹の葉を比較すると左表のような傾向があるが、判別しづらい場合も多い。
常緑樹の葉の方が厚みがあって緑も濃く、葉脈が目立たず、上面の光沢が強い傾向があるが、区別し難いケースもある。
枯葉があまり落葉せず、翌春まで残る種類もある。もちろん、落葉樹と見なされる。
落葉樹の葉の寿命は、定義からいって1年に満たない。常緑樹の葉は基本的に1年より長い寿命をもつが、種類によって大きく違う。クスノキ・ユズリハのように新葉が広がってからすぐに古い葉がいっせいに落ちる種類では、葉の寿命は1年をわずかに上回るに過ぎない。しかし、多くの常緑樹では葉はもっと長持ちで、2年枝や3年枝にも葉がついている。
常緑樹と落葉樹は常にくっきりと分かれるのではなく、さまざまな中間型があって、「半落葉性/半常緑性」と呼ばれることもある。低木やつる性木本の中には、気候によって常緑だったり落葉だったりするものがあり、冬を越す葉の有無は地域や年によって変わり、場合によっては個体や枝によって違うこともある。
キイチゴ類の低木ビロードイチゴ(バラ科)。3月、前年の葉の葉腋から、新しいシュート(当年枝)が伸び始める。同じ場所で、前年の葉が残っている枝(左)とほとんど枯れ落ちた枝(下)の両方が見られた。ヤマツツジ(ツツジ科)は大形で楕円形の葉と小形で細長い葉の2タイプの葉をつける。大形の葉は秋に落葉し、小型の葉のみが越冬する。
裸子植物を針葉樹、被子植物の木本を広葉樹とよぶこともある。この名称は実際の葉の形状とぴったり一致するわけではなく、マツのように針状の葉をもつ裸子植物は多いが、鱗状の葉も少なくなく(ヒノキなど)、イチョウやナギ(イヌマキ科)のように幅広な葉もある。被子植物の木本でもサボテン類やガンコウラン(ツツジ科)などは針状の葉をもつ。
生活環が一周する期間や発芽から開花・結実・枯死までの期間によって、一年草・二年草・多年草に分けられる。
一年草 | 二年草 | 多年草 | ||
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一回繁殖型 | 多回繁殖型 | |||
発芽~結実・枯死 (生育期間) | ~数ヶ月 | 1年超・2年未満 | 不定 | |
発芽~次世代発芽 (生活環一周) | ~1年 | 2年 | 不定 | |
開花・結実 | 1回(開花・結実後に枯死) | 複数回 |
一年草・二年草・多年草のどれにも、つる性のものがあり、「つる性一年草」「つる性二年草」「つる性多年草」のように表わされる。
多年草の多くは多回繁殖型[polycarpic]で、開花・結実しても枯死せず、条件さえ良ければ永続的に生き続ける。しかし、開花・結実をすると枯死する一回繁殖型[monocarpic]の種類も、ハマナデシコ(ナデシコ科)・マツヨイグサ類(アカバナ科)・オトコエシ(オミナエシ)・ボタンボウフウ(セリ科)など、少なくない。
葉や茎の寿命を基準にすると、多年草は、常緑性・休眠性・半休眠性に区別できる。ただし、木本と同じでくっきりと区別できない場合もある。
木本と多年草のどちらとも言い切れない植物種は、少なくない。
森林の中で、枝や葉は上から下まで均一に分布しているのではなく、枝や葉が集中する階層が見られる(階層化[stratification]という)。
最上層で直接に太陽光を受ける枝・葉の集まりを林冠[canopy; forest canopy]といい、階層としては林冠層[canopy layer]あるいは高木層[tree layer]という。林冠では枝葉の密度が最も高く、個々の木の枝葉の広がり(樹冠[tree crown])が敷き詰めたようにびっしりと並ぶ。
林冠に届かない樹木は(下層木[underlayer tree])、林冠から洩れた光を使う。林冠と林冠より低い樹冠の間は、ふつうは少し距離がある。下層は、林冠と比べると、枝葉の密度が低く、樹冠どうしの隙間も空いている。下層木の樹冠も(林冠のようにはっきりとすることはないが)階層が認められることもある。階層の数は群落の種類によって違う(模式図では、T1・T2・Sの3層に分けている)。
下層木の一番下には、数十センチから人間の背丈を超える程度の低木層[understory; forest understory](図ではS)がある。
低木層の下、林内の地表(林床[forest floor])近くの草本や幼樹を草本層と呼ぶこともある(図のH)。草本層は耐陰性のある草本(主に常緑の多年草)や木本からなるが、落葉樹林の場合は、晩秋~早春の落葉期に光合成をおこなう植物が見られることがある。
森林を構成する各層の出現種には違いがあるのがふつうだ。林冠の樹種は幼木あるいは若木として下層にも出現するが、アオキ・ヒサカキなど低木層以下しか出ない樹種もある。また、日本列島の冷温帯林は、低木層をササ類(イネ科)が高密度で占有する場所が多いのが大きな特徴だ。
林のへり=森林が草地や空き地と接するところを林縁[forest edge]といい、明るいところを好む樹種やツル植物が多く、林冠と同じように枝葉の密度が高くなっている。
林冠木が枯れたり倒れたりすると、その木の樹冠の分だけ林冠にすきま(ギャップ[gap; forest gap]または林冠ギャップ)ができる。森林の中に明るい空間が生じて、林縁と同じく明るいところを好む樹種や草本が茂る。樹木の生長や周囲の林冠の拡大によって、ギャップはゆっくりと小さくなり、消失にいたる。森林では、大小のギャップの出現と消失が繰り返されている。
森林が伐採された後の明るい場所に低木が密生するやぶ(低木やぶ)ができることがある。低木やぶは時間をかけて森林に移行していくが、土壌が不安定だったり(川べり、がけなど)、ひんぱんに刈り取りが行われるようなところ(道路ぎわなど)などでは、森林が発達しにくく、低木やぶが長期間保たれる場合もある。
同じ低木であっても、林床の低木層と低木やぶに共通する種類は少ない。林床の低木は伸長は遅いが寿命の長い茎を持つものが多く、対照的に、低木やぶの低木は伸長が速いが寿命が短い茎を次々と伸ばしていく傾向がある。
成長が速い樹木の茎は成長速度を稼ぐために丈夫さを犠牲にしており、材の密度が低く中心部の髄が大きくて切りやすい。
逆に、林床の低木や高木の幼樹は、丈夫だけれどゆっくりと成長する茎を持ち、材は緻密で髄も小さい。
樹木の茎においては、成長速度と寿命(あるいは丈夫さ)の間に負の相関関係[negative correlation]があり、寿命と丈夫さとの間には正の相関関係[positive correlation]がある。
これらは、どれも光を得る競争において優位となる特性だ。競争のスタートダッシュでは成長速度が、長期間の競争では最大樹高が、他の樹木の陰になった場合には耐陰性が生育を左右する。一方、三者の間には、負の相関関係がある。
このように、成長速度・最大樹高・耐陰性の3つのあいだには、
生物のさまざまな性質の間には、主に次の2つによる、無数のトレードオフの関係がある。
樹木のシュート系では、基本的な戦術(生態学では、「生活史戦略」[life history starategy]と呼ぶ)として、次の3つを想定することができる。
戦略 | シュートの特徴 | 有利な状況 | |||
---|---|---|---|---|---|
伸長速度 | 寿命 | 伸長方向 | 開花サイズ | ||
成長速度優先 | 早い | 短命(1) | 上方へ | 小さい(2) | 低木やぶ |
樹高優先 | 遅い | 長命 | 大きい(3) | 森林の林冠 | |
耐陰性優先 | 横に広がる | 小さい(2) | 森林の低木層 | ||
(1)新しいシュートを次々と出して寿命の短さをカバーする (2)人の背ていどの木でも開花が見られる (3)見上げるような高木にならないと開花しない |
上の3つを三角形の頂点とすると、頂点の中間に位置する戦略(中間戦略)や複数の戦略の使い分け(条件戦略)を考えることもできる。林冠を作るような高木は、耐陰性と樹高の両方を優先する中間戦略や、樹高が低く暗い光の下では耐陰性を優先し、樹高が高くなって直射光を受けるようになると樹高優先のシュート系を作るような混合戦略を採っていることが多い。
また、つる性木本のように、他の植物や岸壁を身体を支えるのに使うことで、トレード・オフを「すり抜ける」植物もある。
成長速度・最大樹高・耐陰性優先のうち、どの戦略が有利は、環境によって大きく変わる。
森林が成立する過程(植生遷移[succession])でいうと、最初のうちは、成長速度優先の戦略をとる樹木が、先に高いところまで葉を広げて優勢になり、低い茎がぎっしりと茂った低木やぶを形成する。しかし、耐陰性があってより樹高が高くなり得る種類が成長を続けていくと、成長速度優先の樹木は高さで追い越され、耐陰性がないために生育できなくなる。時間の経過につれて、低木やぶは森林に移行し、樹高優先の戦略を採る林冠木と耐陰性優先の低木が占めるようになる。
トレード・オフのため、どんなときでも優位に立つような(オールマイティーな)生物はない。このことによって生物群集は、さまざまな生態的地位(生態的ニッチ/ニッチ)[ecological niche]を占める個体群を含むようになり、地球レベルでは生物多様性[Biological diversity]を支えている。
ゲームやスポーツ、レースでも、トレード・オフ的な要素が入っていると戦術に多数の選択肢ができて、「深み」のある戦いになる。
先制型 | 長期戦型 | 特殊状況型 | |
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樹木 | 成長速度優先 | 樹高優先 | 耐陰性優先 |
バトル | 素早さ+攻撃優先 | 攻撃+守備優先 | 素早さ+守備優先 |
レース | 加速優先 | 最大速度優先 | 悪路走行性優先 |
植物がぱらぱらと(まばらに)しか生えていない場所では、何らかの要因で植物の密度が抑えられている。Grime(1977)は、植物の繁茂を妨げる要因を攪乱[disturbance]とストレス[stress]に大別した。
要因 | 攪乱 | ストレス | ||
---|---|---|---|---|
植物体や腐植が生態系から大量に除去される現象 | 成長を妨げる環境条件 | |||
特性 | 突発的 無差別的 | 継続的 種特異的 | ||
例 | 自然 | 人為 | 自然 | 人為 |
洪水・暴風・山火事 突発的な乾燥 土壌の崩壊・流出 食害・病害 | 造成 耕作 刈取り 踏圧 | 日照不足/過剰 乾燥/過湿 貧栄養 寒冷/猛暑 重金属・火山性ガス | 人工物による被陰 大気汚染 土壌汚染 |
一言で言うと、攪乱は「突発的な破壊」、ストレスは「継続的な成長阻害」となる。
攪乱が全ての種にほぼ無差別に影響するのに対し、ストレスの影響はそれぞれの種が備える耐性によって異なる傾向が強い。
攪 乱 | 強 | R | ||||
中 | ||||||
弱 | C | S | ||||
弱 | 中 | 強 | ||||
ストレス |
右の図は、ストレス・攪乱の強さと植被率の関係を表わしたもので、色の濃いところほど高い植被率を示す。ストレスと攪乱の両方が強いところは、植生じたいが成立しないので、空白となる。
Grimeは、三角形の3つの頂点に生育する植物の特性に注目することで、植物の生活史戦略の多様性を説明しようと試みた。
上の話に当てはめると、成長速度優先はR、樹高優先はC、耐陰性優先はSになる。
Grime JP (1977) Evidence for the Existence of Three Primary Strategies in Plants and Its Relevance to Ecological and Evolutionary Theory. American Naturalist 111(982):1169–1194. doi:10.1086/283244
日本列島では、落葉樹が晩秋から早春にかけて休眠状態に入って越冬する。これに対して、休眠できない多くの常緑樹は温暖な地域に分布が限られてしまう。しかし、温暖な地域、例えば南西諸島にも落葉樹は分布しているし、東北や北陸の積雪地帯に分布する常緑樹もある。だから、寒さだけでは両者の分布を説明することができない。
常緑樹の葉と落葉樹の葉の関係は、前項の長命なシュートと短命なシュートの関係によく似ている。常緑樹の葉は落葉樹の葉よりも表皮のクチクラが厚く、柵状組織や海綿状組織も厚い。また、厚壁細胞や繊維の量が多い。このため、常緑樹の葉は落葉樹と比べて厚くて(透かしてみると暗い)硬く、表面の光沢も強い。落葉樹の葉の方が光合成に直接関係ない組織が少ないため、十分な光が当たるところでは、光合成の効率(葉の大きさや重さを考えて比較した光合成量)は常緑樹より高い。また、新しい葉を展開する速度も速い。その代わり、光合成が出来る時期は一年の半分くらいに限られる。だから、明るいところでは常緑樹より成長速度は速いが、森林の下のような暗いところでは不利が大きい。
常緑林ができるような温暖な気候下で、落葉樹が生育するのは、次のようなところである。
積雪地帯では、落葉林の下層木として常緑の低木が見られる。これらの木は、冬の間積雪によって極端な冷え込みから守られている。常緑樹のアオキ・ミヤマシキミ・イヌガヤ・カヤなどは、雪が少ない地方では大型の低木や高木になるが、日本海側の多雪地帯では他の地方でよりも背が低く、冬の間は積雪に埋没する。
草の生育する範囲は木よりも広い。森林で高木と共存するものもあれば、低木やぶに混じるものもある。寒冷・積雪・不安定な土壌・養分が少ない土壌・過剰な土壌水分・人間による刈り取り・火入れなどは、限度を超えると森林はもちろん低木やぶの成立も妨げる。しかし、このようなところでも裸地であることは少なく、大抵は草が茂っている。水生植物のように、特殊な生育地に生育しているものもある。
常緑の多年草は落葉樹林や常緑樹林の林床[forest floor](林の中の地表のこと)に生えているものが多い。これらの種類は、森林の下層木と同様、少ない光量を長い光合成期間で補っている。落葉樹林の林床には、休眠性の多年草も見られ、多くは晩秋から初夏にかけて林床に届く光の多い時期に効率よく光合成を行うことで生活している。中でも、エンゴサク類(ケシ科|ケマンソウ科)・カタクリ・コバイモ類・アマナ類(ともにユリ科)・イチリンソウ類(キンポウゲ科)などは春植物[spring ephemeral]と呼ばれ、春の1・2ヶ月の間に展葉・開花・結実の全てを行ない、他の草との競合や昆虫などの食害が多くなる初夏が来る前に地上部が枯れて長い休眠に入る。
ホソバナコバイモ(ユリ科)。左は4月はじめの開花期、右は5月中旬の結実期ですでに葉が茶色になっている。種子散布のあとは10ヶ月近い長い休眠に入る。
林のへり(林縁)[forest edge]や林の中で林冠の高木の間にすきまが空いているところ(ギャップ)[forest gap]には、低木やぶとともに多くの休眠性多年草が見られる。
自然条件や人間の手によって、頻繁に破壊されるような生育地では一年草が多くなる。