5-3. 地下貯蔵器官と栄養繁殖

一生の間に生育不適期がはさまるような植物は、生育不適期には、地上部を枯らして休眠したり、地上部の成長を停止したりする。そうしている間、養分は地下の貯蔵器官に貯えられて、後の成長に備えられることになる。シュートが貯蔵器官となる場合もあり、根が貯蔵器官となる場合もある。貯蔵器官は、他のシュート・根より太く、大量の柔組織を持っていて、細胞にはデンプンや糖などが貯えられている。これらの中には野菜として役立っているものが多い。

多年草や越年草の地下貯蔵器官を野菜として使うときは、「根菜」と呼ぶ。
5-3-1. 多年草の地下貯蔵器官は地上のシュートに劣らないほど多様だ

ショウガ・ジャガイモ・チョロギ・タマネギ・ニンニク・サツマイモを以下の点に注目して比較する。

ジャガイモ(ナス科)

ジャガイモは、シュートの先端が丸っこくなって余分を貯えた姿で、「塊茎」という。表面に弧状の葉が点在し、くぼんだ葉腋の底に芽(1つ~数個)がある。

ジャガイモ

ジャガイモジャガイモ

頂端部からつけねに向かって、葉と芽(番号1~6で示す)が2/5葉序に相当するらせんを描いて配列している。

ジャガイモ ジャガイモ

つけねには、元のシュートから離れた痕(人間で言えば「へそ」に当たる)がある。葉は、ゆるい弧を描く隆起で、先端がかすかに尖っている。写真の葉の葉腋には数個の芽がある。

ジャガイモどれが「正しい」ジャガイモか?

ジャガイモ
ジャガイモ

種イモから伸びた茎の地中部には不定根と地下茎がつく。地下茎の先が太って子イモとなる。ジャガイモの塊茎は毎年新しく作り直され、古いイモはしおれて死んでしまうので、成長の跡をたどることは出来ない。

チョロギ(シソ科)
チョロギ

地下茎の先端が白い塊茎となる。

チョロギ

ジャガイモと同様、茎が肥大して葉は鱗片状となる。葉序が十字対生で節よりも節間の肥大が著しいため、ジャガイモとまったく違う数珠のような形状になる。

ショウガ(ショウガ科)
ショウガ
掘り出したショウガ地下部(根生姜)。写真下方に、春に植え付けた分(種ショウガ)が見える。他の部分と比べて1年古く、皮が淡褐色に変化している。

ショウガ
ショウガ

ショウガは、枝分かれしたシュート系が貯蔵のために太ったものだ。貯蔵部の葉は葉身が短く、葉鞘が茎を取り巻くが、古くなると萎れて消える。表面にあるリング状の筋は消えた葉鞘の痕(葉痕)だ。

ショウガ ショウガ

シュートの先端には、葉痕(葉鞘の痕なので、茎頂をぐるりと取り巻いている; 写真のL1~L3)と、葉の腋に出来た芽1個(L1の腋芽がB1,L2の腋芽がB2、L3の腋芽は逆側で見えない)がある。葉序が二列縦生なため、腋芽は左右交互・2列に並ぶ。このため、ショウガの枝分かれは1平面上で起こることになる。

タマネギ(ユリ科|ヒガンバナ科ネギ亜科)
タマネギタマネギ タマネギ
タマネギ

タマネギは、短い茎についた葉の葉鞘が何重にも重なったもの(鱗茎)だ。ショウガと同じように、葉は二列縦生で葉鞘は茎の回りを一周している。茎は非常に短く、食べるところのほとんどは葉鞘で、表面の「皮」と呼ばれる部分も古くなり、薄くなった葉鞘だ。

ニンニク(ユリ科|ヒガンバナ科ネギ亜科)
ニンニク
ニンニクニンニク

ニンニクは、タマネギと同じで、茎を葉鞘が何重にも取り巻いて厚くなったもの(鱗茎)だ。タマネギでは、重なり合った葉鞘が食べるところだが、ニンニクでは、葉鞘についた腋芽が成長して「子ニンニク」になったところで収穫され、子ニンニクが食用となる。写真のニンニクは葉鞘がみずみずしい状態で売られていたが、乾いて薄膜になっていることの方が多い。

重なり合った葉鞘のうち、腋芽(子ニンニク)がつくのは内側の(ふつう)2枚で、写真は、2枚のうち外側の葉鞘をはがしたところ。露出した7個の子ニンニクは、はがした葉鞘の葉芽(ショウガと違い、ニンニクでは1つの葉の葉腋にたくさんの芽ができる)。残ったもう1枚の葉鞘はさらに子ニンニク群を包んでいる。

ニンニク

上の写真で見えていた子ニンニクを取り去り、内側の葉鞘をはがすと、茎と5個の子ニンニクが見える。

ニンニク

全部の子ニンニクを取り去ると、子ニンニクの痕が残る。第一グループの子ニンニク(外側の葉鞘に対応する)と第二グループの子ニンニク(内側の葉鞘に対応する)は、痕の並び方で判別できる。

ニンニク

まるごと輪切りにした断面。葉の付き方はショウガと同じで左右交互に並ぶ。

サツマイモ(ヒルガオ科)
サツマイモ
サツマイモサツマイモの貯蔵根。表面には側根が4縦列に並んでいる。

サツマイモは肥大した根が貯蔵器官だ。イモから不定芽が成長してシュートとなり、シュートの基部から出た不定根が肥大して新たなイモとなる。

表では、越年草(冬型一年草)のニンジンとダイコン(後述)も加えて比較している。このように、ありふれた栽培植物にもさまざまなタイプの貯蔵器官がある。

生活史器官葉序葉鞘
多年草 ジャガイモ シュート(おもに茎) 互生・2/5葉序 なし
チョロギ 十字対生
ショウガ 互生・二列縦生 あり
ニンニク・タマネギ シュート(おもに葉鞘)
サツマイモ 不定根
冬型一年草 ニンジン 主根
ダイコン 胚軸+主根

野生植物を含めると、多年草の地下貯蔵器官はさらに多様だ。

ツワブキ地下部
ツワブキ(キク科)の地下部。サトイモと同じように、葉鞘の痕が同心円状に残る。1つのイモはある程度のところで成長や葉を出すのをやめ、葉腋の芽にそれらの役割が引き継がれる。花茎を出したイモもそこで止まるようで、下の写真の左側のイモは先端が花茎の痕で終わっている。成長・展葉を停止したイモは貯蔵器官となるが、さらに古くなると黒くしなびる(上の写真の左下)。

コウホネの1種
コウホネの1種(スイレン科)の地下茎。前年までの葉柄の痕が残り、ごつごつしている。

ナルコユリ
ナルコユリ(スズラン科)の地下茎。前年に成長した地下茎(葉鞘の痕が残る)の先端から地上茎が出る。地上茎の腋芽=今年の地下茎が成長を始めている。

タカサゴユリタカサゴユリ(ユリ科)の地下部。茎の基部に養分を貯えて厚みのある鱗片葉が重なり合ってつく。
タカサゴユリ

ヒロハテンナンショウヒロハテンナンショウ(サトイモ科)の地下茎。向かい合ってつく葉の葉鞘のつけねに複数の側芽が横に並ぶ。側芽は取れて母株から独立した株になる。
5-3-2. 越年草・二年草の貯蔵器官は比較的単純かつ一様

双子葉植物・胚・実生 越年草や二年草の貯蔵器官は、ほとんどの場合、幼根~胚軸が発芽したときの位置関係を保ったまま肥大してできる(左図では3・5が胚軸、6が幼根)。そのため、多年草と比べると単純で、種類による違いも少ない。ニンジン・ゴボウ・カブでは主に幼根から、ダイコンでは上部が胚軸、中部~下部が幼根から出来ている。当然ながら貯蔵器官の寿命は一年限りで、養分は茎頂が伸びて葉を広げ花を咲かせるために使い尽くされる。

ニンジン(セリ科)
ニンジン
ニンジン

ニンジンは、根が貯蔵のために太ったものなので、横に側根の痕が4列になってついている。側根の痕は、根が太るときに横に引き延ばされて、このようなかたちになる。列が曲がっているのは、太るときに成長が均一でないためだ。

ニンジン「正しい」ニンジンはどれか?

ニンジン

ニンジンの上部に残る茎の部分(先端は切り落とされていることが多い)では、葉と芽の配列が見られる。根と違い、螺旋を描くように配列している。

ダイコン(アブラナ科)
ダイコン収穫期のダイコン
ダイコン ダイコン ダイコン
ダイコン ダイコン ダイコンの芽生えと収穫期。胚軸(△~▲)と幼根(▲より下部)が肥大して貯蔵器官となる。

ダイコンは、根~茎の基部が貯蔵のために太ったもの。左の写真のダイコンでは、肥大部の上1/4が茎の基部(芽生えでは胚軸に相当する部分)にあたり、下3/4が主根(芽生えでは幼根に相当する部分)にあたる。根の部分には、側根の痕(肥大につれて横に拡がるため、横筋になる)が縦2列に並ぶ。



ダイコン
ダイコン肥大したダイコン(赤紫の品種)。左2/3が根で、右1/3が茎の基部(芽生えでは胚軸に相当する部分)にあたる。側根痕は明瞭な横筋になっている。
ダイコン「正しい」ダイコンはどれか?
5-3-3. 栄養繁殖: 種子によらない繁殖

種子によらずに個体数を増やすことを「栄養繁殖」[vegetative reproduction]と呼ぶ。さまざまなタイプがある。

  1. 子イモによる栄養繁殖: 地下の貯蔵器官が複数の部分に分かれるもの。ジャガイモ・サトイモ・ニンニク・サツマイモなど。
  2. むかご(珠芽)による栄養繁殖: 「むかご(珠芽)[bulblet/bulbil]」と呼ばれる栄養繁殖用の芽が地上部にできる。むかごはふつうの芽と比べて丸っこく膨らんでいて、ある程度成長するとぽろりと取れて地表に落下し、根を出して定着する。
    1. 腋芽: オニユリ・コモチマンネングサ・ヤマノイモの仲間・ノビルなど
    2. 葉などにできた不定芽: コダカラベンケイソウ・ショウジョウバカマ・カラスビシャクなど
  3. 腋芽が、茎についたまま発根 → 茎の枯死によって独立
    1. 地中を横に伸びる地下茎で、複数の腋芽が地上茎を出す: セイタカアワダチソウなど
    2. 根際から地表を横に這うシュート(匍匐枝(ほふくし)、ストロン[stolon])が伸び、ストロンの先端や途中の芽が根を出して、新しい株となる: イチゴ・ユキノシタ・ツルヨシ・ヒメクグなど
    3. 茎が倒れると腋芽が発根して定着するもの: コウヤボウキ・ヒトモトススキなど
むかご(珠芽)
オニユリ オニユリ
オニユリ
オニユリ(ユリ科)。葉腋の芽が黒く丸いむかごとなる。

ニガカシュウ ニガカシュウ
ニガカシュウ(ヤマノイモ科)。葉腋の芽がふくらんでむかごとなる。葉柄を押しのけるように大きくなる。

コモチマンネングサ
コモチマンネングサ「コモチ」(子持ち)が名前につく植物の多くは、むかごによる栄養繁殖をする。コモチマンネングサ(ベンケイソウ科)でも葉腋の芽が離れて落ちる。

コダカラベンケイソウ
コダカラベンケイソウ(ベンケイソウ科)。葉の縁に芽ができ、地上に落ちて根付く。
地下茎
セイタカアワダチソウセイタカアワダチソウ セイタカアワダチソウ
セイタカアワダチソウ(キク科)。地下茎が横に拡がり、年々茎の数を増やしていく。
匍匐枝(ストロン)
ユキノシタ ユキノシタ
ユキノシタ
ユキノシタ(ユキノシタ科)。根元から細長いストロンを伸ばし、ストロンの先の芽が根付いて新しい個体となる。

ツルヨシ ツルヨシ ツルヨシ
ツルヨシ(イネ科)は、砂地や流水中をストロンで広がって行く。

ヒメクグヒメクグ
ヒメクグ(カヤツリグサ科)

匍匐枝による栄養繁殖
匍匐枝による栄養繁殖の模式図。A―匍匐枝を伸ばした親株・B―2本の匍匐枝のうち1本の先端が発根(子株)・C―2つの子株が匍匐枝で親株と連結・D―匍匐枝の枯死後
倒伏茎
ヒトモトススキ
湿生植物のヒトモトススキ(カヤツリグサ科)では、倒れた茎の節に芽ができ、発根する
栄養繁殖植物における「個体」

栄養繁殖をする植物では「個体」の定義にぶれが生じる。栄養繁殖をしない植物では、生活の単位と遺伝的な単位は基本的に一致する。これに対して、栄養繁殖でできた多数の個体は、独立に生活の単位である一方で、遺伝的には同一のクローンだ。そのため、多数の個体がまとまって生えていていても、遺伝的には同一なことが、しばしばだ。こういう場合に、それぞれの個体(「生活上の個体」)をラミート[ramet]、まとまって生育しているクローンの全体(「遺伝上の個体」)をジェネット[genet]ないしクローン集団[clonal colony]と呼んで区別することがある。

セイタカアワダチソウやツルヨシでは、地下茎や匍匐枝は長い間残存する。栄養繁殖でできた複数の茎は、互いに連結したまま(上の模式図のC)だが、仮に匍匐枝を切断しても生存や成長には殆ど影響しない。このような場合は、連結していても個々のラミートと数えることが多い。

2~5章で扱った根や茎・葉・芽などを伝統的に「栄養器官」[vegetative organ]といい、「栄養繁殖」は「栄養器官による繁殖」の意だ。6~8章は、有性生殖に直接かかわる器官(有性生殖器官)を扱う。


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