池堤の調査

宇土池南側の堤の植生(維管束植物群集)を記述し、簡単な分析を行います。

調査対象の特徴

宇土池堤 宇土池堤 宇土池堤 宇土池堤
上: カラムシ(イラクサ科)、左: セイタカアワダチソウ(キク科)

調査のねらいと内容の概略

  1. 植生の概況を把握する: 調査地の見取り図を作り、主要な植生に分類する(「セイタカアワダチソウ群落」「カラムシ群落」など)。そして、それらの植生の分布図(植生図)を作成する。
  2. 土壌水分や日照の場所による違いが群集の多様性にどれだけ貢献しているかを評価する: 斜面の傾斜に沿ったベルトトランゼクトを設定し、植物の種数や植被率を記録する。
  3. セイタカアワダチソウ・カラムシ・ツワブキの3種の分布と環境の関係を把握する: 調査地に2メートル間隔で格子点をうち、それぞれの点で3種の分布状況と土壌の水分含有量・日照条件を測定する。

1. 見取り図の作成と植生図

凹凸の少ない地形なので、平面を折り曲げた地形として近似する。斜面の断面図を数カ所作成し、あとは斜面垂直方向・平行方向に巻き尺を張って座標を設定して、主要な目標物を記入する。また、斜面の方位も測定する。

植生の分類
種の構成や相対量のまとまりによって植生を分類する。
優占種(量的に他の種を圧倒している種)があるところは、それによって植生を定義する(「セイタカアワダチソウ群落」「カラムシ群落」など)。それ以外のところは、比較的多い複数種の組み合わせや、植生の形状や生育条件に応じた名称を付ける。
見取り図の塗り分け
分類した植生によって見取り図を塗り分ける。

2. ベルトトランゼクトによる調査

調査方法

宇土池堤
サンプリング: 「ベルトトランゼクト」
ベルト belt = 帯、トランゼクト transect = 切片
群集の空間的な変化を、変化を反映する(と思われる)方向に「ベルト」(一定の幅を持つ細長い領域)を設定して、帯に沿って群集の特徴を記述していく。今回は、斜面の上端から下端へまっすぐにベルトを設定し、ベルトをいくつかのコードラート(quadrat; 方形区)に分割して、コードラートごとに記述し、後で集計するという方法を採る。ベルトの幅は1m、コードラートは1×1mとします。斜面の場合、「斜面に沿った長さを使う」ときと、「水平面上の長さを使う」ときとがあるが、今回は前者にする。


宇土池堤

各コードラートごとに、次の項目を測定する。

方形区 1 2 3 4
種1 70% 80% 50% 60%
種2 30%
40%
種3
+ 60% 20%
種4
50% 20% +
種5


20%
種6 +


種7

+ +
種8

+
総被度 80% 90% 100% 90%
群落高 0.3m 0.5m 1.0m 0.8m


  1. 生えている維管束植物のそれぞれの種の種名・被度(コードラート上面の占有率、目分量で10%刻み、5%未満は「+」としておく)
  2. 最大の草丈(ただし、少しだけとび出ているようなものは除外する)
  3. 総被度。種の被度の合計ではなく、別に目分量で記述します。
  4. その他、土壌など気づいたこと

ベルトの地形
方位・傾斜(途中で変わるときは、部分ごとに)―後で、断面図が描けるだけの測量をしておく。
その他

取ったデータをもとに、以下の点についてまとめる。

データの整理

各コードラートごとに、被度合計・種数・種多様度指数(「1-C」を使います)を計算する。

[Box. 群集の多様性の目安]
「種数」と「種多様性指数」は、ともに群集の多様性の目安となる量である。種多様度指数は、種の数にそれぞれの種の占有率を加味して生態系の種多様性を定量化したものだ。
種多様指数は、種の有無だけでなく量的な面も考慮してあるが、反面、量の少ない種の情報があまり反映されないと言う欠点がある(今回の調査でも、5%で切っているために全く反映されない種も多い)。
逆に、種数は、全ての種の情報が反映されるが、量的な面は反映されず、また、調査面積や調査時間(動く生物の場合)を増やせば多くなる点で不便だ。
多様度指数にはさまざまな変形があるが、定義がわりと簡単で実際にもよく使われているものには、次の3つがある。
  1. シンプソンの多様度指数(1/C): シンプソンの集中度指数(C)の逆数
  2. シンプソンの多様度指数(1-C): シンプソンの集中度指数を1から引いた値
  3. シャノン-ウィーバーの情報指数: (-1)×占有率×占有率の常用対数値
シンプソンの集中度指数(C)は、それぞれの種類の占有率(個体数の頻度、被度、重量などの全体に占める割合)を二乗して足したもので、「目をつぶって二回選び出したときに、同じものを二回引いてしまう確率」である。種類が少なかったり、特定の種類に偏っていれば集中度指数は大きくなり、多様度指数は小さくなる。
種数にしろ、種多様度指数にしろ、どちらにも長所と短所がある。また、ともに一つ一つの種の個性や重要性・希少性は考慮されてないことにも注意する必要がある。そうした天を踏まえた上で使えば、このような定量化は、論理的に考察を進めるときに大きな助けとなる。とくに、複数の調査地どうしを比べるとき、一つの調査地の時間的変化を調べるときなどのような相対的比較で有効だ。
方形区 1 2 3 4 全体
種1 70% 80% 50% 60% 65%
種2 30%
40%
18%
種3
+ 60% 20% 20%
種4
50% 20% + 18%
種5


20% 5%
種6 +


+
種7

+ + +
種8

+
+
被度合計 100% 130% 170% 100% 125%
総被度 80% 90% 100% 90% 90%
群落高 0.3m 0.5m 1.0m 0.8m 0.7m
種数 3 3 6 5 8
種多様度指数 0.42 0.47 0.72 0.56 0.67
種多様度指数の計算例(方形区3の場合)
50+40+60+20=170
種1の占有率=50/170
種2の占有率=40/170
種3の占有率=60/170
種4の占有率=20/170
C = (50/170)2+(40/170)2+(60/170)2+(20/170)2
= (502+402+602+202)/(1702)
= (52+42+62+22)/(172) = (25+16+36+4)/289 = 0.2802・・・
1-C = 約0.72

「被度合計」と「総被度」のの比(被度合計/総被度)は、群落の階層化の度合いの目安になる(ただし、被度5%未満の種が多数あると誤差が大きくなりすぎて信頼性が低くなる)。


調査範囲全体の種の被度・総被度・種数・種多様度指数を計算する。種の被度・総被度は各方形区の値の平均でよい。種多様度指数は種の被度から計算する。


調査範囲の断面図



方形区どうしの類似度

2つの方形区が互いにどれくらい似ているかを表わす指数を「類似度」と呼ぶ。どういう点を以て「似ている」と考えるかによって、さまざまな類似度があるが、ここでは、「種数の類似度」と「種の占有率の類似度」の2つを取り上げる。 方形区AとBについて、類似度は次のようにして求められる。
種の類似度=
(AとBに共通する種の数)×2/(Aの種数+Bの種数)

種の占有率の類似度=
1-種の占有率の相違度

種の占有率の相違度=
[(A1-B1)2)+(A2-B2)2)+(A3-B3)2)+・・・]/[A12+A22+A32+・・・+B12+B22+B32+・・・]    A1は方形区Aにおける種1の占有率。他も同じ。

1 2 3 4
1 1.000


2 0.333 1.000

3 0.444 0.667 1.000
4 0.250 0.750 0.727 1.000

上の例で、方形区2と3とでは、種の類似度は[3×2/(3+6)]で0.667となる。同様にして他の組み合わせを計算すると、右ののような「類似度行列」ができる。


1 2 3 4
1 1.000


2 0.779 1.000

3 0.643 0.561 1.000
4 0.824 0.764 0.686 1.000

種の占有率の相違度は、
[(80/130-50/170)2+(0/130-40/170)2+(0/130-60/170)2+(50/130-20/170)2)]/[(80/130)2+(50/130)2+(50/170)2+(40/170)2+(60/170)2+(20/170)2)]=0.439
だから類似度はそれを1から引いた0.561となる。同様にして他の組み合わせを計算すると、右ののような「類似度行列」ができる。

総合考察

個別の種の分布や特性(図鑑などで調べる)なども考えながら、宇土池堤の草本群落の多様性に、斜面の上部と下部との違いがどれくらい貢献しているか、また、その背景などについて考察する。さまざまなグラフを描いて、どのような考察が出来るかの可能性を探ってみること。

グラフの例: 主な種の空間分布(横軸―方形区番号・縦軸―種の被度の折れ線グラフ)、群落の高さと種数・種多様性の関係

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