あらゆる器官の外側は表皮[epidermis]で覆われている(木の幹のように、後から取れてしまうことはある)。表皮の細胞で目立つ特徴を3つ挙げる。
表皮の細胞の空気に接する面では、細胞壁の外側にクチン[cutin](不飽和脂肪酸の重合体)とワックス(蝋:ろう)[wax](非水溶性の脂肪酸エステル)で出来た、クチクラ[cuticula]と呼ばれる透明で水を通さない層がある。クチクラの表面にはさらに細かいワックスの粒(形はいろいろ)が一面に分布している。葉や茎・果実・種子の表面が水を弾くのは、クチクラと表面のワックスのためで、雨水が内部に侵入したり、雨水に細胞内の水溶性物質がしみ出したり、また乾燥したときに水分が蒸発したりするのを防ぐはたらきがある。また、紫外線による障害や菌類・バクテリア・ウイルスの侵入を防ぐことにも役立っているらしい。
ワックスは一般に表面の光沢を与える。葉や果実の表面をこすると、ワックスの粒や塊がつぶれて細かい凸凹が平坦になり、やや光沢を増すことが多い(リンゴの果実などが好例)。ワックスの量が多いと表面は粉を吹いたように白くなる。ニンニクの芽の表面が白っぽいのはワックスのせいで、指でこするとワックスがつぶれて透明になり、地の緑色がでてくる。ヤナギ類の葉の裏にはワックスの塊がぎっしりと並んでおり、指でこするとワックス塊のこわれ方やつぶれ方によって、白味が強まったり弱まったりする。有機溶媒を染ませた布でこすると、容易に地の緑色が出てくる。
オオタチヤナギ(ヤナギ科)の葉の裏面。アセトンが染みた布で拭いた部分は緑色が露出している。雨水や地面から撥ねた水には、植物に寄生する菌類の胞子やバクテリア、ウイルスが含まれている。クチクラとワックスによって、多くの葉は撥水性をもち、内部への雨水の浸入を防ぐ。
雨で濡れたヤブツバキ(ツバキ科)の葉葉や茎など緑色をしていて光合成をする器官では、表皮細胞の隣り合った2つの細胞の間のすきま=気孔[stoma; 複数形 stomata]がある。
ムラサキツユクサの葉裏面
気孔開閉の模式図
気孔は、両側の2つの細胞(孔辺細胞 [stomata guard cell])の形が変わることで開閉する。気孔の開閉はさまざまな条件に反応して起こる。青色光を浴びた葉では閉→開、水分量が低下した葉では開→閉の変化が起こってガス交換の速度を調節する。菌類の胞子やバクテリアが付着した葉では開→閉の変化が起こり、内部への侵入を防ぐ。
気孔は、裏側(下面・背軸面)と表側(上面・向軸面)の両方にあることもあるが、表裏がはっきりとしている葉では裏側(下面・背軸面)だけにあって表側(上面・向軸面)にはない(あるいは少数のみしかない)ことも多い。これは雨水の浸入を防ぐのに有利だからと思われる。葉が水面に浮いているとき(スイレン・トチカガミなどの浮水葉)には、逆に、気孔の多くは葉の表側(向軸面)にある。
花被片や果実、種子などでも、成長過程で光合成をする時期があるものには、しばしば表皮に気孔が見られる。
植物の表面に毛[hair; trichome]が生えていることがよくある。毛は表皮細胞から外側に細胞分裂が起こって形成される。
毛の役割としてもっとも一般的なのは、植物体を食害や物理的損傷・紫外線などから守ることであろう。若くて組織がやわらかいときには毛に覆われていて、成長して硬くなったときには毛が取れてしまう例が多い。また、密生した毛は表面のまわりに空気の層を保ち、高温・低温・乾燥の影響をやわらげる。送受粉に関係する花びらや雄しべの毛、種子や果実の散布のための長い毛も例が多い。
マルバツユクサやセイタカアワダチソウの毛のような単純な毛も多いが、植物体上の毛のかたちや細胞数は千差万別で、種類によって、または同じ植物でも器官によってさまざまだ。
グミ類(グミ科)は植物体のほぼ全部が、鱗毛という先端が半透明な板状になる毛で覆われる。葉裏は鱗毛が密生し、光を乱反射して銀色に輝く。シイ(ブナ科)の葉裏も密生する鱗毛で銅色に光る。
短い主軸の先端で放射状に多分岐する毛を星状毛という。
アカメガシワ(トウダイグサ科)の葉の星状毛種類によっては、先端に分泌細胞がついた毛(腺毛[glandular trichome])を持ち、分泌細胞から粘液や匂いを放出している。シソ科の植物は、全身に腺毛があり、腺毛の先端には分泌細胞4個がある。細胞からしみだした液体が揮発して匂いとなる。匂いの化学成分は種類によって違うため、シソ科の植物は種類により特有の匂いを放っている。
モウセンゴケの葉。粘液を分泌する腺毛で覆われている。
イラクサ(イラクサ科)の仲間は葉や茎に、基部が太く、先端が尖った「刺毛」と呼ばれる毛を持つ。何かに刺さると先端から液を出す。液を「注射」された皮膚は、ひりひりと痛む。