ツワブキとキク科の頭花
ツワブキ
ツワブキ

日本(福島県・石川県以南)・朝鮮半島南部・中国東南部に分布するキク科の多年草。は常緑で円に近い多角形のつやのある葉身と長い葉柄があり、ロゼット状につく。は花と実をつけるためだけに伸び、途中には退化した小さな葉がつく。茎の先に頭花がかたまってつく(頭花の数はさまざま)。頭花は40~70個の花でできている(舌状花が10個くらい、残りは筒状花)。

ツワブキ ツワブキ
海岸の斜面で咲くツワブキ

ツワブキ
常緑樹林の林縁で点々と開花しているツワブキ

ツワブキ庭に植えられることも多い

ツワブキ ツワブキ
斑入り品の葉。古典園芸植物として古くからさまざまな葉や花序の変異体が作り出されてきた。
奥野 哉 (2017) 『ツワブキ: 栽培管理・育種・歴史・多様な変異形質がわかる』誠文堂新光社 ISBN: 978-4416517666
ツワブキの花――典型的なキク科の花の特徴

ツワブキは、キク科の花の成り立ちを観察するのに最も適した植物の1つだ。

キク科の頭状花序頭状花序(頭花)の模式図。1・2―総苞(1―総苞片・2―花序の軸に当たる部分)、3―舌状花、4―筒状花。

  1. 多数の小さい花が丸く密集して、1つの花のように見える。このような花序(花の集まり)を頭花と呼ぶ。頭花を構成する花(小花[floret]と呼ぶこともある)には、中心部の筒状花、周辺部の舌状花の2タイプがある
  2. 頭花の下には「総苞(そうほう)」と呼ばれるつぼのような部分があり、つぼみの時には頭花全体を保護している。総苞は、花序の軸(円盤状になっている)と花序につく細い葉(総苞片)が集まってできている。
  3. 萼の代わりに、「冠毛」と呼ばれる毛の集まりがある
  4. 子房[雌しベ=子房+花柱+柱頭]は、花びら・雄しべ・冠毛より下にある(下位子房)
  5. 5枚の花びらが、互いにつながって、子房の先に続く筒になっている(合弁花)
  6. 5つの葯(やく)[雄しべ=葯+花糸]も、互いにつながって筒になり、花柱を取り巻く
  7. 葯は花粉を筒の中に出す。花柱が伸びて、ところてんのように花粉を筒の先に押し出す。その後で、花柱はさらに伸びて先端が筒から顔を出す。花柱の先が2つに分かれて、内側の柱頭が露出し、受粉できるようになる。

ツワブキの花序(頭花)
ツワブキ ツワブキ

ツワブキの頭花。多数の小さい花が円盤状に密集して、1つの花のように見える。外側の花びらのように見えるもの1つ1つが舌状花、舌状花に取り囲まれて多数の筒状花がある。

ツワブキ ツワブキ ツワブキ

頭花を裏返すと、細い葉が集まったつぼのような総苞があり、子房の集まりを覆っている。つぼみの時には頭花全体を保護している。

ツワブキ
タンポポやアザミなどでは、総苞の葉(総苞片 そうほうへん)のようすが、種類を見分ける重要なポイントとなる。
ツワブキの花(小花)
キク科の花キク科の花の模式図。A~C―筒状花(A―つぼみ、B―開花前期[雄性期]、C―開花後期[雌性期])、D―舌状花。1―子房、2―冠毛、3―筒状の花冠、4―舌状の花冠、5―葯、6―花粉、7―花柱、8―花柱先端の二叉部。

頭花をつくる1つ1つの花のことを、小花ということもある。ツワブキの場合は筒状花と舌状花とがある。両方とも、子房の先に冠毛がつき、冠毛の内側から花冠が管となって伸び、管の中心を花柱が伸びている。

筒状花
ツワブキの花 ツワブキの花

筒状花。花冠は管の先がカップのようになり、カップのへりは5つに裂けている。これは、花冠が5枚の花びらの融合によって出来ていることの名残だ。花柱を5つの細長い葯が取り巻いているが、葯どうしもつながって1つの筒になっている。

キク科キク科筒状花の花式図

ツワブキ花粉粒(スケール=10μm)。表面に突起がある。
舌状花
ツワブキの花 ツワブキの花

舌状花。花冠は、管の先が「へら」のようになっている。また、雄しべがなく、花柱が丸見えになっている。

ツワブキ花冠の表面細胞
舌状花と筒状花
ツワブキ舌状花と筒状花
舌状花と筒状花を並べたところ。

舌状花は、頭花を実際以上に大きく見せて、訪花昆虫の目を引く。また、筒状花とのコントラストによる同心円状のパターンも、昆虫に対する目印となっているらしい。

ツワブキ ツワブキ
ツワブキの頭花の紫外線写真(可視光線を通さず、近紫外線だけを通すフィルターを通して撮影したもの)。筒状花・舌状花とも黄色の花冠を持つが、近紫外線の反射率が違い、舌状花の方がずっと良く反射する。近紫外線を見ることができる昆虫にとって、筒状花と舌状花とは、人間に見えるよりも対照的に見える。

ツワブキ・アサギマダラ
ツワブキの頭花から吸蜜するアサギマダラ

ツワブキ花数
28頭花で数えた筒状花数(X軸)と舌状花数(Y軸)の関係。筒状花数と舌状花数には正の相関があるものの、筒状花数が50を超えると舌状花数は13または12個に集中する。

無処理(11頭花) 袋掛け(9頭花)
結実 554 2
不稔 63 487

開花前の頭状花序を袋で覆って訪花昆虫が来ないようにすると、結実率はゼロに近い(0.4%)。無処理の頭状花序では89.8%の花が結実する。

ツワブキと構成が異なる頭花

キク科の中には、タンポポの仲間のように舌状花だけしかないもの、アザミのように筒状花だけしかないもの、そして、ツワブキのように舌状花と筒状花の両方があるもの、筒状花は常にあるが花によって舌状花がないもの(センダングサなど)がある。

アキノノゲシアキノノゲシ
アキノノゲシ(キク科)の頭花。舌状花しかない頭花だが、柱頭・葯が近紫外線を良く吸収し、ツワブキと同じような周辺―反射、中心―吸収のパターンを作っている。

ノハラアザミ・ミヤママルハナバチ
ノハラアザミ。頭花は筒状花のみでできている。訪花しているのはミヤママルハナバチ。

コセンダングサコセンダングサコセンダングサコセンダングサ
コセンダングサ(キク科)。舌状花は0~5個で、花によって違うさまざまな段階が見られる。

ツワブキでは舌状花は頭花を大きく見せる役割をしているが、舌状花の花冠が小さく、ほとんど目立たないものもある。

マメカミツレマメカミツレマメカミツレ
マメカミツレ(キク科)。舌状花はごく小さな筒状で、ほとんど目立たない。

栽培菊(管物)栽培菊(管物)
栽培菊の中で「管物」と呼ばれる品種群では、舌状花が大部分を占め、花冠は管状になって先端がシソ科の花冠のように2つに割れる。

筒状花の雄性先熟性
ツワブキの筒状花

咲きはじめの筒状花。5本の雄しべは、葯のところでくっつきあって、筒になっている。花粉は、いったん筒の中に出てから、花柱に押されて筒先からあふれ出る。

ツワブキの筒状花

花粉が出切ってから、花柱が伸びて先が2つに分かれ、分かれた又の間が柱頭となる。柱頭に花粉がつくと受粉がおこる。このように、花粉が出きってから雌しべが受粉可能となる(このことを「雄性先熟」という)ので、花粉が同じ花に受粉すること(同花受粉)は、ほとんど起こらない。

ツワブキ頭花中央部ツワブキ頭花中央部

頭花の中心部のようす。外側の花が先に開き、中心へと開花が進んでいく。だから、花の中心から外側へ向かって、つぼみ(上の写真の1)→花粉を出している花(2)→中間期の花(3)→柱頭を露出している花(4―筒状花・5―舌状花)と配置されている。

ツワブキの冠毛
ツワブキツワブキ
ツワブキ

キク科の花では、萼(がく)は、毛の集まり(冠毛)になっていることが多い。タンポポやツワブキでは、冠毛は実が熟するときに長く伸びてパラシュートの役割をする。


ツワブキ
ツワブキの芽生え

ツワブキ
冠毛が目立たないキク科

同じキク科でも、風以外の手段で果実を散布する種類は、冠毛はほとんど目立たない。

コセンダングサコセンダングサ。トゲで動物の身体にくっつく("ひっつき虫")

ヌマダイコン
ヌマダイコン。粘液で動物の身体にくっつく。
地下部

ツワブキ地下部
ツワブキの地下部では、太った茎(地下茎)が大きな体積を占める。サトイモと同じように、葉鞘の痕が同心円状に残る。1つのイモはある程度のところで成長や葉を出すのをやめ、葉腋の芽にそれらの役割が引き継がれる。花茎を出したイモもそこで止まるようで、下の写真の左側のイモは先端が花茎の痕で終わっている。成長・展葉を停止したイモは貯蔵器官となるが、さらに古くなると黒くしなびる(上の写真の左下)。


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