雌雄異熟(4)
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両性個体の雌雄異熟

花や花序の雌雄異熟が、さらにまとまって同調する場合がある。とくに、個体全体で花や花序が同調して雌性期・雄性期の変化を示すと、両性個体が時間によって「ほとんど雄」だったり「ほとんど雌」だったりする。このようなパターンは、「同調性異熟」(Synchronized dichogamy; Lloyd & Webb 1986)または「時間的雌雄異株」(Temporal dioecism; Cruden 1988)と呼ばれる。

ヤツデヤツデ
ヤツデ(ウコギ科)。上に突きだした軸に多数の球形の花序がつく。左の写真では咲いている花序は雄性期ばかり、上では咲いているのは雌性期の花序ばかり。

ヤツデヤツデ
ヤツデ2個体における雄性期の花序と雌性期の花序の数の変化(2007~2008)

同調性がなければ、雌性期の花と雄性期の花が混在することになる(クサギ)。また、花序が送受粉の単位である場合は、雄性期の花序と雌性期の花序が混在する(オオニシキソウ・ジュズダマ)。

「半同調性異熟」

個体全体の同調性ははっきりしないものの、より小さな単位(枝・花茎・花序など)で局所的な同調性が見られる場合もある。Lloyd & Webb (1986)は「半同調性異熟」[Hemisynchronous dichogamy]と呼んでいる。

スズメノヤリスズメノヤリ(イグサ科)。根元から多数の花茎を出す。1本の花茎のてっぺんにつく花序では、同調性が見られるが、個体としては雌性期の花茎と雄性期の花茎が混在する。

クスノキクスノキ(クスノキ科)の花。雌性期(右)から雄性期(左)へ移行する雌性先熟。

クスノキ春、新たに伸長した枝(当年枝)の葉腋から集散花序が伸び出す。花序の数は、枝の大きさによって違う。

クスノキ1本の当年枝についた6花序における雌性期の花と雄性期の花の数の変動(2007年5月、横軸は日付)。f(赤)は雌花、m(青)は雄花。最下段は6花序の合計を示す。それぞれの花序は部分的に同調性を示すが、花序間ではずれがあり、当年枝の単位では同調性は打ち消される。

クスノキ上と同じ個体の、別の当年枝。この当年枝では5/16までは花序間で同調が見られるが、上の当年枝とはずれている。

個体レベルの雌雄異熟のタイプ分け

花レベルの雌雄異熟は、1サイクルで終わるが、個体レベルの雌雄異熟は1サイクルに留まらないことがある。

  1. 1サイクル
    1. 雄性先熟
    2. 雌性先熟
  2. 1.5サイクル: 二重異熟(仮訳)[duodichogamy]または2回型(同調性)雌雄異熟(岡崎 1999)
    1. 雄→雌→雄: アオギリ(アオギリ科|アオイ科)など。Luo & al. (2007)は、二重異熟が知られているグループとしてカエデ属とキンセンセキ属(カエデ科|ムクロジ科)・クリ(ブナ科)・マルヤマカンノノキ属(トウダイグサ科|コミカンソウ科)・ヒトモトススキ属(カヤツリグサ科)の5つを挙げている。しかし、実際にはずっと多いと推測される。
    2. 雌→雄→雌: まれ(?)。Rhoiptelea chiliantha (ロイプテレア科)では雌性先熟の両性花が穂状に集まった花序と雌花の花序がつき、両性花序の雌性期→両性花序の雄性期→雌花序の順に進む。しかし、両性花は結実しないので、実質的には雄性先熟だ(Sun & al. 2006)。
  3. 多サイクル: 反復異熟[Multi-cycle dichogamy]または多回型(同調性)雌雄異熟(岡崎 1999)
    1. 日周サイクル: 異型異熟を示す種の一部
    2. より長時間・不定長のサイクル: ヤツデをはじめ、セリ科やウコギ科に多数の例(岡崎 1999)
雄性先熟[protandry] 雄性期 雌性期
雌性先熟[protogyny] 雌性期 雄性期
二重雌雄異熟(仮訳)
[duodichogamy]
雄性期 雌性期 雄性期
雌性期 雄性期 雌性期
反復雌雄異熟 雄性期 雌性期 雄性期 雌性期 雄性期 雌性期   …  
雌性期 雄性期 雌性期 雄性期 雌性期 雄性期   …  
アオギリアオギリアオギリ
アオギリ(アオギリ科|アオイ科)の花序。雄性期→雌性期→雄性期、と移行する。

アオギリ1本のアオギリの10ヶ所で花序の一部をマークし、毎日正午前後に雄花・雌花を数えたもの(2008年)。m(濃紺)が雄花、f(黄土)が雌花。

クリ
クリ(ブナ科)。雄花は穂状につく。一部の雄花序のつけねに雌花序(雌花3つでできていて、「いが」なる部分につつまれている)がついている。雌花序を伴わない雄花序は先に開花。雌花序の先にある雄花序は、雌花序より遅れて咲く。

雄→雌→雄の二重異熟では、2度の雄性期に次のような違いが見られることが多い(アオギリ・カエデ属・ナンキンハゼなど)

第1雄性期 第2雄性期
花数
雌性期との重なり ない/小さい 大きい
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