組織分化した茎では、最外層の表皮の内側に柔組織があり、柔組織の中を木部と篩部が通っている。被子植物では、茎の維管束は木部が茎の中心側、篩部が茎の外側にあることが多いが、カボチャのように、木部の両側に篩部があるものもある。
双子葉植物では、維管束がほぼ一円筒上に並ぶ(断面を見ると維管束が一つの円を描くように並ぶ)ことが多いので、その外側の柔組織を皮層[cortex]、内側の柔組織を髄[pith]と呼ぶ。髄は、大きくて細胞質が少ない柔組織からなる。ある程度茎が太くなると、髄の細胞が壊れて中空になるものも多い。
単子葉植物では、維管束は複数の同心円を描くように並び、柔組織全体に散在することが多く、皮層と髄の区別ができないのがふつうだ。個々の維管束のサイズは中心側ほど大きい傾向がある。
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マダケ(イネ科)筍の横断面で見られる維管束群 |
草の茎の断面を見ると、繊維細胞や厚角細胞がところどころにあって茎の強さを支えていることが分かる。これらの細胞は維管束の近く、従って茎の周辺部にあることが多い。逆に、中心部(髄)では細胞は大きいが細胞壁も薄い傾向がある。さらに、髄の細胞が死んでしまい、回りの細胞の成長に追いつかずに、空洞になっている種類も少なくない。イネ科では、茎の回りを葉鞘が取り巻いて補強している。このように、草の茎は、おもに周辺部によって支えられている。同じ量の材料を使った場合、ただの棒よりも中空のパイプにした方が折り曲げに対して強いので、これは理に適っている。種類によっては、茎が角張っていて、角のところに繊維細胞が集中してさらに強さを高めている。
茎は上部の枝葉を(1)物理的な強度と(2)導管による水の供給の両面で支えている。だから、上部につく枝葉が多いほどより大きな断面積が必要だ。樹木や茎が立ち上がる草では、シュート系の基部で最も茎が太く、先端に行くほど細くなる。また、分岐点では分岐前より分岐後ではっきりと細くなる。
茎の断面積と支えている葉の量との間に比例関係を仮定する理論を「植物のパイプモデル[pipe model]」といい、さまざまな植物の実測に基づいてShinozaskiら(1964)が提示した。パイプモデルを図式化するときには、パイプ状の(=断面積一定の)茎が一定の葉量を支える仮想上の単位(単位パイプ)を想定し、植物体を単位パイプの集合体として表現する。パイプモデルは単純な仮定に基づくにもかかわらず実測値と近似するケースが比較的多く、樹木の個体重や葉量、さらに光合成量や呼吸量の推定に応用されている。
パイプモデルの下では、枯死した枝葉より上では茎の断面積と上部の葉の総重量が比例し、茎の分岐では「分岐前の茎の断面積=分岐後の茎の断面積の総計」という関係が成り立つ。
植物の成長につれて茎が伸長と分岐を繰り返すと、支えるべき側枝と葉が多くなり、茎に必要とされる物理的強度と導管の断面積も大きくなる。そうでなかったら、風圧で倒れてしまうか、水分が行き渡らなくなって枯れてしまうだろう。同じように、根も先端で伸長と分岐が進むにつれて、より大きな導管断面積を必要とするようになる。だから、シュートも根も、全体の太さと木部・篩部を後から付け足していくしくみ(二次成長[secondary growth]を持っている。
二次成長は双子葉植物ではごくふつうに見られるが、単子葉植物ではほんの少数のグループにしか見られない。ほとんどの単子葉植物は二次成長をしないため、茎と根が後から太くなることがない。
二次成長のようすは、シュートと根で共通している。木部と篩部の間の細胞が分裂組織になり、内側に木部を、外側に篩部を作り出す。この分裂組織を維管束形成層、略して形成層[vascular cambium]という。
茎の横断面では、形成層が維管束どうしをつなぐようにリング状になる。形成層の細胞分裂の結果、隣り合う維管束同士の境目はだんだん分からなくなり、篩部・形成層・木部が同心円状に並ぶようになる。根の横断面でも、形成層の細胞分裂によって木部が円形に(立体的に見ると円柱状)なり、やはり篩部・形成層・木部が同心円状に並ぶようになる。
草本(草)と木本(木)の違いは、「二次成長がどれくらい続くか」という違いだ。 草では、二次成長は短時間に停止し、茎はある程度で太るのを止める。木では、二次成長は何年も持続し、太り続けた茎・根では断面積のほとんどを木部が占めるようになる。
木本の茎の断面を占める大量の木部を「材」[wood]という。材では、縦方向に長い導管・繊維(裸子植物では仮導管)の間を放射方向(中心―外側方向)に長い細胞の束(放射組織)が交差している。細胞壁はリグニンとセルロースを含み、細胞間隙もリグニンで満たされている。これらの構造によって、強靱さ(特に圧縮抵抗性)と耐久性を兼ね備えている。高さ数十メートルに達するものもある樹木のからだは、幹の中を占めている材によって支えられている。
クスノキ(クスノキ科)の材(走査電子顕微鏡像)。右上が幹の中心方向、左下が樹皮側。上面が横断面(木口 こぐち)、左面が樹皮と平行な縦断面(板目 いため)、右面が樹皮と直交する縦断面(柾目 まさめ)にあたる。スケール=100μm。幹の断面では、内側の濃色/赤っぽい材(心材[heartwood])とその外側の色の薄い材(辺材[sapwood])が区別できる。辺材では、導管・仮導管が通水、放射組織の細胞が養分貯蔵の機能を果たしている。心材では、導管・仮導管・放射組織とも死細胞で、より緻密で耐久性が高く、植物体の支持だけが役割だ。心材への変化は幹の中心側から徐々に進み、放射組織で細胞死とともに耐久・着色成分が合成され、導管・仮導管が詰まって通水機能を失う。
位置 | 色 | 形成後 | 放射組織 | 導管・仮導管 | 含水率・空隙率 | 耐久性 | |
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辺材 | 周辺部 | 淡色 | 新しい | 生細胞 | 死細胞 | 高い | 低い |
貯蔵+保水+支持 | 通水+支持 | ||||||
心材 | 中心部 | 濃色 | 古い | 死細胞 | 低い | 高い | |
支持 |
辺材は心材と比べて昆虫や菌類の侵入を受けやすい。伐採された材や切株では、食害や腐朽の度合いに大きな違いを見ることができる。
単子葉植物は、ごく一部のグループを除いて、維管束に形成層がなく、二次成長をしないためだ。単子葉植物では伸び始めから茎の太さがほとんど変わらず、高く成長した幹でも上下の太さはほとんど変わらない。
ヤシやタケのように高い幹を持つ単子葉植物では、伸長する前に茎頂分裂組織の細胞分裂で十分な太さになっている(タケノコの太さはタケの太さとほとんど同じ)。それでも、双子葉植物の大木のように太い枝を四方に広げるのには無理があり、ヤシはほとんど枝分かれせず巨大な葉を放射状につけ、タケは上部で細い枝を出すだけだ。上で述べた二次成長による木と草の区別を当てはめるとヤシやタケは「草」になる。しかし、高い幹をもつ点を重視して「木」として扱われることも多く、「タケはタケ、ヤシはヤシで、木でも草でもない」とされることもある。
タコノキ(タコノキ科)の気根(支柱根)
単子葉植物の中には、茎を太くする代わりに葉の一部や根を使って茎を補強するものがある。イネ科では葉鞘(後述)がときには何重にも茎を取り巻いていることが多く、タコノキ科では茎からたくさんの根が出て添え木のように茎を支える。
内側が太り続けていても表皮やその下の組織は細胞分裂しないので横に引っ張られ、裂け目が生じる。裂け目ができる頃、あるいはそれより前に、これらの組織では細胞が死んで緑色を失うことが多い。裂け目は、柔組織(根の場合は内皮の内側の柔組織)が細胞分裂して作る組織(樹皮 [bark])で埋め合わされる。やがて表皮やその下の組織は脱落して表面が完全に樹皮に覆われるようになる。いったんできた樹皮も幹が太り続けるとしだいに脱落し、内側で出来る新しい樹皮に交代する。
樹幹のもようは、裂け目の方向や古い樹皮の脱落に仕方を反映していて、種類によって違いがある。長く樹種の判別に使われてきたことを反映して、樹木の名称の由来になっている例が多い。
ロープや針金で木の幹をゆわえると、樹皮の成長が妨げられ、周りの成長した樹皮によってロープや針金が埋め込まれることがある。