植物組織の観察(徒手切片法)
プレパラートの作成
徒手切片
上2つと中右―カミソリの刃(両刃)、中左―代用ピス(ポリスチレン)、下―ピス(ニワトコの茎の髄)

徒手切片カミソリの刃(両刃)[double-edged razor blade]は非常に鋭利である一方、寿命が短い

徒手切片開封したところ

徒手切片切片作成に使うときには、縦に2つに割る

徒手切片ツバキの葉を約5mm幅の短冊にする

徒手切片 徒手切片 徒手切片
徒手切片ピスに約1cmの切り込みを入れ、切り込みに葉の短冊を挿入し、先端を削って平にする(ここまでは、使い差しの切れ味の悪くなった刃を使う)

徒手切片利き手でない方の指でピスをつまむように持つ

徒手切片徒手切片
鉋で削るように(ただし、刃を少し横滑りさせる)、表面を削ぎ取る。軽い力で削ぎ取る。必ずしも、面全体が削げなくてもよい。

徒手切片多数の切片ができたら、スライドグラス上に滴下した水溜まりに移す(ピンセットの先端を濡らして運ぶ)。緑色の薄いものだけを残し、カバーグラスを掛けて検鏡する

道管・師管・維管束

導管(道管)[vessel]: 植物が吸収した水溶液が上昇する通路である。

円柱形の細胞の列から、で細胞と細胞を仕切る細胞壁が貫通し、細胞自体は死んでしまうことで形成される。貫通していない部分の細胞壁は部分的にリグニンを含む二次細胞壁がついて厚くなる。厚くなった部分は多くの種類で「らせん」や「輪っか」を描く。

顕微鏡で導管を横から見ると、まるで細胞壁の肥厚部がバネのように見え、断面を見ると厚い縁を持った空っぽの穴に見える。

カボチャ導管
カボチャ(ウリ科)の花柄の導管を横から見た写真(家庭用漂白剤で軟化・脱色後にサフラニン染色・押しつぶしプレパラート)。細胞壁が帯状に厚くなっている。帯状の肥厚部は、左の画像のように螺旋(らせん)を描く場合もあり、中の画像のようにリングになる場合もある。1本の導管で両者が見られること(右の画像)も珍しくない。

カボチャ導管
カボチャ(ウリ科)の花柄の導管。らせん状に肥厚している導管が外力で引きちぎられると、上の写真のように肥厚部の螺旋がバネのように伸びる。レンコンを包丁で切るとき、断面から伸びてくることがある細いバネのようなものは、これにあたる。

篩管(師管)[sieve tube]: 光合成で出来た糖を含む水溶液が移動する通路

導管・仮導管と同様に細胞列が空洞化して(道管と違って完全に空っぽにはならず、細胞質がわずかに残る)管になる。ただ、道管と違い、仕切っている細胞壁は完全に貫通するのではなく、小穴がたくさん空くことで両側がつながる(この部分が篩―ふるい―[sieve]に似ているため「篩管」の名が付いた)。また、空洞化する前に細胞分裂で列の横に小さめの細胞(伴細胞)の列ができる。篩管の細胞と違い、伴細胞は中身が詰まっている。

横から見ると、太くてほとんど空っぽの細胞に見える(道管ほどには太くない)。そして、横に小さくて中身が詰まった伴細胞の列が寄り添っている。断面でも、空っぽの細胞に伴細胞が隣り合っている。また、場所によっては、穴がたくさん空いた篩板が見える。

カボチャ花柄篩管
カボチャの雄花柄の縦断面に見られる篩管と伴細胞(徒手切片・アニリンブルー+サフラニン染色)。カボチャやキュウリは篩管の細胞の観察によく使われている。中央に篩板がある。篩管細胞内の細胞膜近くにタンパク(青く染まっている)が分布している。

カボチャ花柄篩管
カボチャ花柄の師部の横断面(パラフィン切片・ヘマトキシリン-サフラニン-ファストグリーン三重染色)。

導管・仮導管の集まっている部分を木部[xylem]、篩管の集まっている部分を篩部[phloem]と呼ぶ。導管・仮導管(または篩管)だけが束になるのではなく、繊維・柔組織などさまざまな細胞と混じって木部(篩部)を形成する。

木部と篩部が互いに近接していることが多いので、両者をまとめて維管束[vascular bundle]という。維管束の並び方や、維管束の中での道管と師部の位置関係は、植物のグループによっても違うし、同じ種類でも茎・葉・根で異なる。

カボチャ花柄維管束
カボチャ(ウリ科)の雄花柄の断面(左)・維管束(右)(パラフィン切片・ヘマトキシリン-サフラニン-ファストグリーン三重染色)。木部の外側・内側の両方に篩部がある。

ニンニクの維管束ニンニクの茎の維管束(徒手切片・サフラニン染色)。中央少し右の大きくて縁のある「穴」が導管。導管から左側へ少し離れたところにある小さめの細胞からなる組織が篩部で、比較的大きい篩管と小さな伴細胞が入り混じっている。

セイタカアワダチソウ セイタカアワダチソウの茎の維管束。上から、師部繊維細胞群(サフラニンで鮮紅色に染まっている)→師部(細胞壁はやや厚いが染まっていない。大小の細胞が入れ交じる)→形成層(細胞壁が薄い)→木部(暗紅色に染まった導管がある)。


厚角細胞・厚壁細胞・繊維細胞

組織の中には、細胞壁が厚くなり、強度を高めるはたらきを持つ細胞群が見られる。

  1. 厚壁細胞(こうへきさいぼう): 細胞壁全体が熱くなる。ふつうの細胞の細胞壁と違い、サフラニンに良く染まる(リグニンを多く含んでいるため)。堅い代わりに伸縮性がなく、また細胞自体は死んでいることが多い。厚壁細胞はそのかたちによってさらに細かく分類され、茎には縦に細長いかたちの繊維細胞[fiber cell](細胞壁が厚く、全体が細長い形をしている細胞)が多い。
  2. 厚角細胞(こうかくさいぼう): 細胞の角のところが特に厚くなるが、厚壁細胞の細胞壁のようにはサフラニンで染まらない。厚角細胞は、細胞がある程度の細胞の成長も可能で、細胞も生きていることが多い。

厚角細胞から構成される組織は厚角組織[collenchyma]、厚壁細胞からなる組織は厚壁組織[sclerenchyma]と呼ばれる。細胞壁が薄いままの細胞(柔細胞)からなる組織は、柔組織[parenchyma]と呼ぶ。

カボチャ花柄の厚角組織
カボチャの花柄の表皮と厚角組織。

切片

植物の葉や茎の薄切り(切片)をつくる方法にはいろいろあるが、低倍率で観察するなら50μmあれば上等、100μm程度でも何とか観察できる。これくらいの厚さなら、安全カミソリの刃(レーザーブレード)を使って手で切ることができる(徒手切片法)。もっと高倍率で観察するために薄く(30μm未満)切るには、パラフィン切片法など、もっと面倒くさい方法が必要となる。

この実験では、こちらで用意したパラフィン切片によるプレパラートで、その後、徒手切片を作成して道管・師管・維管束、その他の組織の観察をする。

材料
材料名 切片名 スケッチ課題 スケッチに記入する名称
パラフィン切片法による永久プレパラート
カボチャ(双子葉植物、ウリ科)の茎 輪切り 模式図+表皮~維管束1つの拡大スケッチ 表皮・厚角組織・厚壁組織・道管・師管・師部伴細胞
スイバ(双子葉植物、タデ科)の茎 輪切り 模式図+表皮~維管束の拡大スケッチ 表皮・厚角組織・厚壁組織・道管・師管・師部伴細胞
徒手切片法による一時プレパラート
ムラサキツユクサ(単子葉植物、ツバキ科)の茎 輪切り 維管束の拡大スケッチ 道管・師部
縦切り 維管束の拡大スケッチ 道管・師部
セイタカアワダチソウ(双子葉植物、キク科)の茎 輪切り 表皮~維管束の拡大スケッチ 表皮・厚角組織・厚壁組織・道管・師部
ツバキ(双子葉植物、ツバキ科)の葉 葉脈に垂直な切片 表皮~表皮の拡大スケッチ 表皮・柵状組織・海綿状組織・道管・師部

(*)「模式図」は、切片の輪郭を線で描き、その中に、維管束の分布を黒く塗りつぶし、厚角組織の分布を斜線で塗りつぶして表わせばよい。

徒手切片法
  1. スライドグラス上に大きめの水たまりを作る。茎の観察では、少量のサフラニンをピンセットの先で加える(水がピンク色になる程度)。サフラニンは染色液の1種で、道管の細胞壁の肥厚部や厚壁細胞(繊維細胞)の細胞壁が赤く染まる。
  2. 切断面が大きいほど上手に切ることが難しくなるので、縦横とも7mm以内になるようにする。茎の輪切りであれば細めの茎を選び、茎の縦切りでは、角材形、葉であれば短冊状にトリミング(切り縮めること)する。
  3. 葉のようにわずかな力でしなってしまうものは切りにくいので、ダイコンかニンジンを太さ7mmくらいの角材形(長さは3cm以上)に切ったものに切り込みを入れて、切り込みに葉を挟み込む。柔らかめの葉にはダイコンが、堅めの葉にはニンジンが適する。
  4. まず、厚めに切って切断面を平らにする。
  5. 左手(右手)の親指と人差し指で材料を、右手(左手)の親指と人差し指で安全カミソリの刃を2つ割にしたものを持つ。
  6. 刃と切断面の角度が20°~30°になるようにし、力を入れずに、刃先を切断面の上で滑らすようにして切片を切り出す。
  7. 切り出した切片をスライドグラス上の水たまりに落とす(時計皿やペトリ皿があれば、それを使う方がよい)。数枚以上切り出して、最も薄いもの(水に沈む、色が薄い)をピンセットで別のスライドグラス(あらかじめ水滴を載せておく)に移して、カバーグラスを掛ける。

スケッチは次回の実験時に提出。


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